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0.01度の特異点 ―計算不能な未来へ―  作者: 最後に残った形


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第3章 第8話:論理爆弾(ロジックボム)の構築


「諦めるな、新入りッ! 奴のパッチがどれだけ速かろうが、それは『神の声(OS)』の表層で動いている例外処理に過ぎん!」


絶体絶命の銃口が並ぶ中、背後からカインの枯れた、しかし雷鳴のような大声が響いた。

老人は色褪せたノートを激しくめくり、そのシワだらけの指で、ジレットの展開する『動的防御術式』のコードツリーの一点を狂おしく指さした。


「ジレット! お前は奴の0.01度を相殺するために、10ミリ秒毎に逆歪みの数式を動的生成しているな? だが、その演算の基底にあるのは、私が三十年前に設計した『第4魔導伝導コア』の共有ライブラリだ!」


ジレットの眼鏡の奥の瞳が、ほんの一瞬、不快げに細められた。


「テオ、聞け! 奴の動的パッチが生成される瞬間、メモリの解放処理ガベージコレクションに一瞬だけ『割り込み処理の優先順位プライオリティ』の逆転が起きる! 奴が数式を上書きするその10ミリ秒の隙間に、初期設計の『丸め誤差の定義矛盾』を直接流し込め!」


カインが口頭で叫ぶ、複雑怪奇な旧時代の術式コードの数式。

それは、現在の『神の声』が「存在しないもの」として歴史の底に隠蔽した、システムそのものの致命的な根源バグだった。


「――読める、読めるぞ……!」


テオの脳内で、カインの叫んだ数式が一瞬でコンパイルされ、一本の強烈なハックプログラムへと形を変えていく。


ジレットのパッチが、テオの視界を狂わせるために上書きされる、次の10ミリ秒。

テオはポケットのスパナを限界まで強く握り締め、自身のすべての魔力をその先端へ集中させた。狙うのはジレットの防壁ではない。ジレットが防壁を「上書きし続けている演算プロセスの、その隙間」だ。


「カインの遺産ソースコードを喰らいやがれ――『ロジックボム(論理爆弾)』、転送!」


テオはスパナを、目の前の空間に展開されたライトブルーの演算光の「結節点」へと突き立てた。


カチリ、と脳内で決定的なエンターキーが押される音がした。


テオが注入したのは、破壊のエネルギーではない。ただの『問いかけ』だ。

システムが「AはBである」と定義している領域に、「しかし初期設定ではAはCである。ならばBとCの矛盾を証明せよ」という、解決不可能な無限ループの数式ロジックボム


ジレットの動的防御システムが、テオのハックを相殺しようと、その数式を自動で読み込む。


「な……に……!?」

ジレットの指が、初めてキーボードの上で完全に凍りついた。


『警告:例外処理プロセスの内部で、未定義の循環参照を検知』

『エラー:メモリリーク発生。演算領域のバッファが急速に枯渇しています』


ジレットの眼鏡の奥のホログラムが、見たこともない真っ赤なエラーコードで埋め尽くされていく。

10ミリ秒毎にパッチを当て続けるというジレットの「完璧な効率主義」が完全に裏目に出た。システムは、テオが送り込んだ無限ループの問いに対し、10ミリ秒毎に「全力で間違った再計算」を繰り返し、自らのメモリ(魔力)を爆発的に消費し始めたのだ。


「処理が……止まらない……!? 演算が、スタックしている……!」

ジレットが初めて声を荒らげ、後ずさりする。


「どんなに完璧な防壁を上書きし続けようが、根底の論理アーキテクチャが矛盾しているなら、計算すればするほど自滅する。ジレット、お前の『完璧』が、お前自身をハングアップさせたんだ」


テオがスパナを引き抜くと同時に、ジレットの周囲に展開されていた『動的防御術式』の光の壁が、ガラスが粉々に砕け散るような大音響と共に、内側から激しく爆発クラッシュした。


特殊抹殺部隊の魔導アーマーたちも、メインサーバーからの制御信号を完全に失い、激しいスパークを散らしながらその場に次々と崩れ落ちていく。


煙を上げるデータコアの部屋で、テオは冷酷にジレットを見据えた。現場のデバッガーの執念と、初期設計者の意地が、地上の最高監査役の「論理」を完全に打ち破った瞬間だった。

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