第3章 第7話:動的防御の壁
「――シュート(撃て)」
ジレットの冷徹な号令と共に、特殊抹殺部隊の魔導アーマーが一斉にトリガーを引いた。
銃口から放たれたのは、熱線でも光弾でもない。空間の魔導数式を直接破壊し、対象の存在確率をゼロに書き換える高密度な『論理弾』の集中豪雨。
「チッ、前へ出ろ! スクラップ!」
ロックが叫び、すかさずジャンク・ゴーレムの残骸から剥ぎ取った重装甲シールドを前方に突き立てる。
ドガガガガガガッ! と、シールドの表面に論理弾が着弾するたび、強固な鋼鉄の装甲が分子レベルで「存在のエラー」を起こし、ボロボロと灰のような電子ノイズに変わって崩れ落ちていく。物理装甲すらもデータとして分解する、圧倒的な地上の上位プログラム。
「ロック、防壁を『右斜め前方』に傾けろ! 弾道を0.01度ずらして――」
テオがゴーグルをカチリと回し、ワイヤーフレームの視界の中から敵の銃撃のベクトルの隙間を探そうとした。
しかし、その瞬間、テオの網膜をかつてない激痛が襲った。
「――っあ!? 視界が……同期しない……!?」
テオが狙おうとした『0.01度の隙間』。それが、彼が認識した瞬間に、まるで生き物のように別の数値へとリアルタイムに書き換わっていく。
『エラー相殺シークエンス:起動。標的の偏角予測:0.01度。動的パッチ(アクティブ・パッチ)を10ミリ秒毎に自動適用中』
ジレットは眼鏡の奥の瞳を冷たく光らせ、キーボードを叩く指を止めない。
「言ったはずだ、テオ・アルカディア。君の戦闘ログは、第一次部隊の失敗データからすべて解析済みだ。君が0.01度の歪みを突いてくるなら、システム側が先回りして、10ミリ秒毎に『0.01度の逆歪み』を発生させて確率論的に相殺し続ける。それが私の構築した『動的防御術式』だ」
バグが発生した瞬間に、自動で修正プログラムを当て続ける静的な檻。
テオのワイヤーフレーム視界は、ジレットが高速で当て続けるパッチの明滅によって完全にホワイトアウトし、敵の脆弱性を捉えることができなくなっていた。
「くそっ、これじゃ合気道もクソもねえ! 相手の力が常に変化してやがる!」
ロックの突き立てたシールドが、ついに限界を迎えて粉々に砕け散った。
特殊部隊の魔導アーマーがジリジリと間合いを詰め、テオとロック、そしてカインを完全に半円状に包囲する。
「現場のデバッガーが、どれほど優秀なスパナを持っていようが、システム全体の仕様そのものを書き換える権限を持たない限り、ただの無力なノイズだ」
ジレットが冷酷に手を挙げる。特殊部隊の銃口が、今度はテオたちの胸元へと正確にロックオンされた。
「終わりだ。君たちのエラーデータは、ここで完全に破棄される」
ジレットの完璧な論理の前に、テオの『0.01度のハック』が完全に無力化された、絶体絶命の瞬間だった。




