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0.01度の特異点 ―計算不能な未来へ―  作者: 最後に残った形


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第3章 第6話:エラーコード:ミア


禁書図書館の最奥。そこは、無数の結晶化されたデータストレージが淡い燐光を放ち、天井へと伸びる円筒形の巨大な部屋だった。


「これだ……これが世界の初期ソースコード(設計図)が格納されている、プライマリ・データコアだ」

カインが震える指先でコンソールに触れ、旧時代のコマンドを打ち込んでいく。


データコアのホログラムが展開され、テオのノイズフィルタリングゴーグルの奥に、膨大な術式コードのツリー構造が映し出された。これこそが、魔導都市アルカナ・ハイヴを支配する絶対的なOS『神の声』の全貌。


テオは吸い寄せられるようにコンソールの前に立ち、その検索バーに、五年間ずっと胸の奥に刻み続けてきた文字列を入力した。


『検索クエリ:ミア・アルカディア / 医療パッチ申請ログ / 5年前』


一瞬の演算の後、画面に一本のログファイルが出現する。


『エラーコード:0x001_RANK_DEFICIT(ランク不足)』

『詳細:対象者の社会貢献度、および回復後の生存期待値が基準値に【0.01】不足。システムは最適化の原則に基づき、当該オブジェクトの生存維持リソースの割り当てを【仕様通り】に拒否しました』


「……仕様、通り……?」

テオの指先が、激しく凍りついた。


画面をスクロールする彼の瞳に、次々と世界の本当のコードが流れ込んでいく。

『神の声』の根底に組み込まれていた思想。それは、都市全体のエネルギー効率を最大化するために、生産性の低い低ランク層を「意図的なリソースの回収対象(燃料)」として定期的に間引き(パージ)し、システムを維持するという最悪の循環アルゴリズムだった。


ミアの死は、システムの予期せぬ不具合バグなどではなかった。

最初からそう動くように設計された、冷酷な「仕様」そのものだったのだ。


「システムは間違えない……。そうさ、間違えてなんかいない。最初から、人間を殺すために作られたシステムなんだからな……!」

テオの口から、血を吐くような自嘲の笑みが漏れた。ポケットの中のスパナを握る手が、怒りと絶望で白く震える。


「素晴らしい解析力だ、テオ・アルカディア」


パチ、パチ、パチ、と静寂の部屋に、冷徹な拍手の音が響き渡った。


テオたちが驚愕して振り返ると、結晶ストレージの影から、仕立ての良い白い衣服を纏った男が静かに歩み出てきた。

ガラス細工のような眼鏡の奥で、一切の感情を排した瞳が明滅している。最高監査役ジレット。その背後には、完全に同期された特殊抹殺部隊の魔導アーマーが、銃口をテオたちに向けた状態で整然と並んでいた。


「そこまでのソースコードの読解、実に見事だ。君の言う通り、この都市の幸福は、下層のノイズ(人間)を効率的に消費することで成立している。それはエラーではなく、完璧な調和のための『仕様』だ」


ジレットは眼鏡のフレームを静かに押し上げ、冷酷な宣告を下した。


「君たちの潜入ロジック――『完全な静寂』による例外処理のスタックは非常に興味深かったが、それも時間経過によるスタックオーバーフローのログで完全に検知された。バグの特定は完了した。これより、例外オブジェクトの強制消去デリートを実行する」


部屋の出入り口の防護障壁が完全にロックされ、テオたちは世界の冷酷な真心の真ん中で、完全に退路を断たれた。

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