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0.01度の特異点 ―計算不能な未来へ―  作者: 最後に残った形


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第2章 第6話:論理の連鎖(チェーン・リアクション)


「――報告。第一次排除シークエンス、失敗。アイアン・ウォール部隊、九割が通信途絶」


中央管理塔の静寂の中、エラーを告げる警告音が鳴り響く。しかし、最高監査役ジレットの表情には、焦りも怒りも浮かんでいなかった。ただ、眼鏡の奥の瞳が、さらに冷徹な光を帯びる。


「ダークセクターの構造データに不備があったか。だが、問題ない。即座に学習パッチ(修正プログラム)を適用する。残存する全ドローン、ネットワークを『並列同期グリッド』へ移行。個体ごとの自律判断を排し、一つの超巨大な論理回路として対象を包囲せよ」


ジレットの指先がキーボードを叩く。

地下世界の路地を埋め尽くした数百機の索敵ドローン。その赤い単眼が一斉に、まるで一つの巨大な意思に統率されたかのように、不気味な規則性を持って明滅し始めた。


学習ラーニングされたな、テオ」

スクラップの山の上で、ロックが大型レンチを握り直しながら、迫り来るドローンの網を見上げた。


ドローンたちは、先ほどのように不用意に構造物の近くを飛ばない。お互いに等間隔の「完璧な三角形トリパルタイト」のフォーマットを維持し、三次元的な空間補正を掛け合いながら、ジリジリとテオたちの退路を断っていく。どこか一機が撃墜されても、周囲の機体が0.01秒でその穴を埋める、隙のない鉄壁の連携アルゴリズム。


「ああ、ジレットのやりそうなことだ。個を消し去り、システム全体の効率だけで俺たちを圧殺しに来ている」

テオはゴーグルをカチリと回し、そのドローンの網の「データリンク(魔力通信)」を凝視した。


ワイヤーフレームの世界の中、ドローン同士を結ぶ無数の青い光の線――並列同期のネットワークが、まるで精緻なクモの巣のように張り巡らされている。


「ロック、敵のアルゴリズムは完璧だ。完璧すぎて、『一機が受信したデータは、すべての機体に等しく共有される』というルールを絶対に守っている」

テオの口元が、冷たく歪んだ。


「ってことは、何か面白い悪戯ハックができるってわけだな?」

ロックがニヤリと笑う。


「ああ。あいつらが一つの巨大な脳(回路)になったのなら、その最先端の一点にバグを注入すれば、回路全体をドミノ倒しにできる」


テオは、足元に転がっていたアイアン・ウォールの壊れた頭部――その内部に残っていた通信用の『術式チップ』にスパナの先端を突き立てた。自身の微弱な魔力を流し込み、チップの周波数を、現在頭上を包囲しているドローンたちの並列ネットワークの同期信号へと強制的に「同調アジャイン」させる。


「ロック、一番手前にいるドローンの『推進スラスター』、あれを物理的に狙えるか?」


「任せな。あの手の安物のスラスターは、外側のカバーをちょっと小突くだけで吸気効率が狂う!」

ロックが機械義手のバネを限界まで圧縮し、足元の鉄クズの中から、一本の鋭利な鉄パイプを拾い上げて砲弾のように投げ放った。


強烈な風切り音と共に放たれた鉄パイプは、完璧な放物線を描き、最前列にいたドローンの右側スラスターのカバーをかすめ飛んだ。


ガキィン! と小さな衝撃音。

ドローンの機体そのものは破壊されていない。しかし、カバーが歪んだことで、右側の吸気軸がほんのわずかに傾いた。


テオのゴーグルが、その瞬間を正確に捉える。


『最前列個体、右スラスターの吸気偏角:0.01度』


「リンク・コンパイル――実行エンター


テオは手元の術式チップに、その『0.01度の傾き』というエラーデータを最大出力で流し込んだ。


最前列のドローンが、右側の吸気異常を検知する。本来ならその機体だけで処理すべき微細なバグ。しかし、ジレットが施した「並列同期パッチ」のせいで、そのドローンは『右スラスターが0.01度傾いた』という姿勢制御データを、ネットワーク上の全ドローンへと超高速で「共有」してしまった。


「――ガ、ガガ……全機、右方へ0.01度の姿勢補正を……実行……ッ!?」


数百機のドローンが、一斉に、全く同じタイミングで、存在もしない「右側0.01度の傾き」を修正しようと、左側へと一斉に機体を傾けた。


完璧すぎる同調が、最悪のパニックを生む。

左に傾いた全機が、お互いに維持していた「完璧な等間隔」の領域へと侵入し合い、隣り合う機体同士のローターが激しく接触クラッシュし始めた。一機がバランスを崩せば、その修正データがまた全体へと伝播し、さらにエラーを増幅させる。


バチバチバチバチバチバチ大爆発――ッ!!


それは、まさに光のドミノ倒しだった。

頭上を埋め尽くしていたドローンの大群が、お互いにお互いを巻き込みながら、連鎖的チェーン・リアクションに空中分解し、火花を散らして次々とジャンクの山へと墜落していく。


「嘘だろおい! 手ぇ下したのは一機だけだぞ!?」

ロックが呆然と、夜空の流星群のように墜ちていくドローンの雨を見つめる。


「ジレット。お前が作った完璧な連鎖の論理アルゴリズムが、お前自身を全滅させたんだ」


テオは手元のチップを冷酷に握り潰した。

白煙と炎がダークセクターの闇を照らす中、二人のエンジニアは、ジレットの初期作戦を完全にロジカルに見切って、完全勝利を収めたのだった。

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