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兵の風と鐘の音にさらわれた少年  作者: 炭酸水
第一部 兵の風の中で
65/69

第65話 戦いの終わり

ヒュオォォン――!


高台のほうから、鋭く甲高い音が森を裂いた。


(……何だ!?)


ただの風切り音じゃない。合図とも警告ともつかない異質な音だった。


俺はナイフを盗賊の胸へ向けて放ちながら、レナードへ叫んだ。

「レナード!拠点の方から変な音がした!どうする!?」


投げたナイフは盗賊の肩口に突き刺さる。致命傷ではない。

投げナイフはあと一本しかない。


レナードの方を見ると、焦りも驚きもない。

むしろ「やっと来たか」と言わんばかりの表情をしていた。


そして次の瞬間、鋭く叫ぶ。

「全員、防御を優先しろ!!これ以上は突っ込まない!ここで踏みとどまるんだ!!」


「了解!!」


俺、オズワル、トマの三人は即座に返す。

正直、指示の意図はまだつかめない。

だが――ここまで状況を読んできたレナードが言うなら、必ず意味がある。


前方には七人ほどの盗賊がまだ残っていた。


「早くこいつらを殺せぇッ!!」

「何人やられてると思ってんだ!!」

「武器を投げつけろ!!数で押せ!!」


怒声と罵声が飛び交い、盗賊たちが一斉に押し寄せてくる。


レナードが最前線でほとんどの攻撃を受け止めていた。

剣とバックラーが何度も火花を散らし、金属の衝突音が連続する。


(……まずい!かなり食らってる!)

レナードの肩も腕も、傷と痣で赤黒く染まっている。


「ハァッ!」


盗賊が無造作に斧を振るう。それをレナードが弾く。

その瞬間――オズワルが横から槍で喉を貫いた。


「まだいるぞ!油断するな!!」


続けざまにトマがレナードの死角へ回り込み、飛びかかってきた盗賊の顎へ短槍を叩き付ける。

エドリックはその隙にトマに襲い掛かろうとしていた盗賊にナイフを投擲する。

首に突き刺さり崩れ落ちる。投げナイフはもう無い。これからは近接だ。


「……本格的にまずいね!槍の切れ味が落ちてきたよ!」

トマが荒い息のまま叫ぶ。


短槍の先はもう刃物というより、ほとんど鈍器だ。

それでもトマは迷わず盗賊に叩き込み、もう一人を沈めた。


オズワルも同じだ。

投擲補助を終えた彼は短槍を手に前線へ出て、レナードの横で的確に敵を止めていく。


攻撃のオズワル。防御のレナード。間合いを読むトマ。

そして俺は、その隙を狙って短槍を振るい続ける。


だが――盗賊側も混乱から抜けつつあった。

「距離を取れ!!武器を投げろ!!」


斧、鎌、剣。

次々と投擲されてくる。

力任せの素人投げだが、数が多い。


「ちっ……!」


レナードが剣とバックラーで乱雑に飛んでくる武器を片端から弾き落とす。

しかし、その防御の最中にも盗賊は距離を詰めようとしてくる。


(このままじゃ押し負ける……!)


三人とも同じことを感じているのがわかった。

レナードが敵の注意を引きつけ、その隙にオズワルとトマが反撃しても――追いつかなくなっている。


じわじわと、確実に。


敵の数の圧が迫ってきていた。


(レナード……あとどれくらい持つ?)


汗と血が混ざり、槍を握る手が震える。


そのとき――

後方からすさまじい勢いでこちらに向かっている足音が聞こえてきた。


何かが――背後から迫ってきている。


後方から迫っていた足音は――

俺たちのすぐ背後を一気に駆け抜け、そのまま盗賊に突っ込んだ。


「……えっ?」


思わず間抜けな声が漏れた。

戦場の真ん中だというのに、理解が追いつかない。


次の瞬間、盗賊の悲鳴がはじける。


「ぐあッ!?」

「なんだこいつら……!」

「おい!後ろからも来ているぞ!!」

「誰だ!どこから湧いた!!」

「な、なにがどうなって――ぎゃあッ!」


圧倒的だった。

確かに盗賊も抵抗している。武器を構え、怒号を上げ、最後の力で斬りかかっている。

だが――もはや戦いになっていなかった。


俺たちと切り結び、疲労し、乱れたところに、後方から高速で敵陣へ突っ込む影。

気づいたときにはもう、次々と倒されていた。


(……は、速すぎる)


あの動きは、明らかに俺たちの小隊とは違う。戦い慣れた兵の動きだ。


呆然として周囲を見ると、オズワルもトマも同じだった。

動きを止め、ただ信じられないものを見るようにその殲滅を目で追っている。


最後の盗賊が悲鳴を上げて崩れ落ち、廃村の通路が一瞬だけ静寂に支配される。


その静寂を破ったのは――

こちらへ駆け寄ってくる軽い足音だった。


「エド!みんな!!大丈夫!?」


「……ミロ!?」


現れたのは、小柄な仲間の姿だった。後ろにはダリルもいる。


ミロが戻ってきたということは――彼らは援軍だ!

それを実感した瞬間、さっきまで振っていた槍が少し重たくなるのを感じた。


***


盗賊を殲滅した兵士たちは、一人を残してそれぞれ散開していった。

少し遠くからはまだ怒号と悲鳴が聞こえるが、その勢いは明らかに弱まっている。


残った一人――先ほどの強襲を率いていた男が、こちらへゆっくり歩いてきた。


「ご苦労だった。ここからはこちらに任せろ」


短く、だが確信を持った声。

その一言で、完全に味方だと理解した。


俺は堪えていた緊張が一気に抜け、思わずその場に座り込む。


「……はぁ……っ」


隣を見ると、トマも同じように地面へ腰を落とし、肩で息をしていた。

周囲には倒れた盗賊の死体が転がっているが――

今だけは、それらの存在をすべて頭の外へ追いやれるほど、安堵が勝っていた。


レナードは立ったまま、浅く息を整えると、その男へ向き直った。


「援軍、ありがとうございます。この隊を率いているレナードです」


「副隊長のオズワルです」


傷だらけの二人が礼を述べる姿を見て、俺とトマも慌てて立ち上がり、姿勢を正す。


男――カイはひとつ頷き、きびすを返すように敬礼を返した。


「第三斥候部隊隊長、カイだ。お前たちはひとまず高台に戻って手当てをしろ。残りの盗賊はこちらで全て仕留める」


その言葉で、張りつめていた糸がぷつりと切れたように、身体の力が抜ける。

俺も、トマも、レナードも、オズワルも――全員がようやく緊張から解放された。


カイはそのまま仲間たちのほうへ向かい、廃村の中心部へ走り去っていった。


まだ遠くでは怒声が聞こえている。

だが、それは――もう終わりが近い戦いの音だった。


レナードが深く息を吐き、静かに言う。

「……戻るぞ。ミロ、ダリル。悪いが武器を預かってくれ。さすがに……重い……」


言うが早いか、剣とバックラーを地面へ落とした。


「わかったよレナード。みんなも置いて。僕が持ってくから!」

ミロが駆け寄り、武器を拾い始める。


「ミロ、俺も手伝う!」

ダリルもすぐに手伝いに加わった。


俺たち四人は、武器の重みから解放され、ゆっくりと拠点へ向かって歩きはじめた。


大きなケガはない。

……だが、無傷な箇所はほとんどない。

腕は細かい切り傷と痣で赤黒く染まり、体は重く、呼吸はまだ荒い。


それでも――生き延びた。

また仲間を守り抜けた。


誰も話さない。

喜びも、達成感も、うまく言葉にならない。けれど、恐怖もなくなっていた。


胸の奥に、熱いものが確かに残っている。


(……今回も、全員で生きて帰れる)


隣を歩くオズワルの横顔を見る。

気配に気づいたのか、オズワルもこちらを振り返った。


言葉もないまま、互いに小さく頷き合う。

その何気ない仕草だけで十分だった。




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