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兵の風と鐘の音にさらわれた少年  作者: 炭酸水
第一部 兵の風の中で
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第62話 正面戦闘開始

素早く装備を整えると、俺たちは無言のまま陣形を取り、高台の斜面を静かに下っていった。

レナードを先頭に、トマ、オズワル、俺――

訓練で叩き込まれた互いに背中を守り合う隊列が、ごく自然に形を成していく。


斜面を降りた先には、茂みと倒木が折り重なった窪地があり、廃村からはほとんど見えない死角になっていた。

俺たちはそこで身を伏せ、突入のタイミングをひたすら待つ。


廃村の中からは相変わらず怒号が飛び交い、足音と叫びが混ざり合っていた。


(……やっぱり気づいていない)


本来なら高台の影が動けばすぐにわかるはずだ。

だが盗賊たちは、なにが起きたのか理解できていないのか、こちらへ意識を向ける余裕すらないようだった。


――今なら、先手が取れる。


俺たち四人は息を殺し、ダリルとロランからの最初の一撃を待つ。


その時、レナードが小声で告げた。


「突入はするが、奥までは入らない。今の状況なら味方の別動隊が廃村の背後から動く可能性がある。深追いすれば、向こうに敵として誤認される」


三人はわずかに顎を引き、同意の意を示す。

味方に斬られるほど愚かな結末はない。


その直後、廃村の奥から怒声が響き渡った。


「……誰もいねぇぞ!!」


声は不安と焦りで震えていた。


「は? 先に来てた連中はどうした!?」「見張りがいねぇ! 起きてもいねぇ!」

「違ぇ……本当にいねぇんだよ、誰も!!」「ちくしょう、何があったんだよ!!」


荷物はあるのに、仲間の姿がまるでない。

理解できない状況に、盗賊たちは怒鳴り合い、互いに答えを押し付け合っている。


(……完全に混乱してる)


訓練でさえ見たことのないほどの無防備さだった。


そして――


ヒュン。


風を裂く鋭い音が、静寂を鋭く切り裂いた。

ロランの矢だ。


直後、盗賊の悲鳴が上がる。


「う、うわッ!?今の矢か!?」「攻撃されたぞ! どこからだ!!?」


怒号と混乱が、さらに激しさを増した。


その数秒後――


ドゴォッ!!


硬いものが砕けるような、重い衝撃音が響く。

ダリルのスリングだ。


呻き声が混ざり、さらに倒れる音が続く。


「もう一人いる!!」「あそこだ、崖の上だ!!」

「行ける奴は仕留めろ!!……ぐあっ!!」


走り出そうとした瞬間、別の矢が盗賊を貫いたらしい。

完全にパニックだ。


レナードが身をかがめ、短く声を落とした。


「……そろそろ来るぞ。エドリック、準備を」


「了解」


俺は手斧と投擲用ナイフを確かめ、深く息を吸った。


レナードはすぐに仲間へ続けて指示する。


「トマ、俺と一緒にエドリックを守るぞ」


「任せろ。エドリック、気にせず投げろ」

トマは槍を構え、俺の横に寄る。


オズワルも短槍を握り直す。

「エドリック、補助は全部任せとけ」


四人の呼吸が重なり、殺気が一点に研ぎ澄まっていく。


その間にも、ロランとダリルの攻撃は途切れない。

矢が飛び、石が唸り、盗賊の怒号が重なる。


だが――


こちらへ向かってくる足音が増え始めた。


「こっちだ!!崖を登る坂がある!!」

「行け!!敵は少数だ!!」


数人が坂道に気づき、こちらへ向かって来ている。


レナードが短く息を吸う。

「……仕かけるぞ!!」


その合図で、俺は手斧を握り、体をわずかに前へ出した。

盗賊の影が木々の隙間に現れた瞬間――


エドリックは手斧を投擲した。

風を裂いた手斧は一直線に飛び、駆けてきた盗賊の胸に深々と突き刺さった。


「……ッが……!」


男はそのまま前のめりに倒れ、動かなくなる。

俺の鼓動が一気に高鳴り、戦闘の緊張が全身を支配した。


「行くぞッ!!」

レナードが駆け出した。


続けてトマも前へ踏み込み、二人はほぼ同時に別の盗賊へ襲いかかる。


オズワルの剣が胸元を裂き、トマの槍先が腹を貫いた。


倒れた盗賊の血が地面に飛び散り、叫びが重なる。


「ここにもいやがる!待ち伏せだ!!」「くそっ、殺せ!!!」「ぶっ殺してやるッ!!」


殺意が一斉にこちらへ向けられた。


(来い……!)


エドリックは息を整え、手斧を横手に構えると――

迫ってきた盗賊に向けて投擲。


ヒュッッ!


「ぎ――ッ!」


手斧が男の顔面に直撃し、そのまま地面へ崩れ落ちた。


横ではレナードが盗賊と対峙していた。

相手の力任せの斬撃をバックラーで弾き返し、間合いを詰めていく。


「ハァッ!」

トマがさらに別の盗賊に突きを入れ、槍先が腹に突き刺さる。


その時、オズワルが怒鳴る。

「エドリック、右だッ!!」


三人の盗賊が雄叫びをあげながら迫ってきていた。

エドリックは即座にナイフを連投する。


「オオオオオォッ!!」

「やれえぇ!殺れぇぇぇ!!」


エドリックはすぐにナイフへ切り替え、連続で三本投げ放つ。


一投目――喉元へ突き刺さり、一人が崩れ落ちる。

二投目――腹へ命中。だがその盗賊は痛みに耐え、なお前へ走り続ける。

三投目――外れた。だがその男に飛びかかった影がある。


「させねぇ!!」

オズワル前に出て短槍を突き刺さし、その盗賊は絶叫とともに倒れる。


オズワルはすぐに向きを変え、腹を押さえながら迫ろうとした最後の一人にも槍を突き込んで仕留めた。


エドリックは視線を走らせ、レナードを追い詰める盗賊を確認。

ナイフを即座に投げる。


「――ッぐ!!」


足に刺さり動きが止まり、レナードが斬り伏せた。


別の方向では、トマが一人の盗賊と乱戦になっていたが――


「トマ、下がれ!」

オズワルが割って入り、連携してその盗賊を仕留める。

呼吸が荒く、血の臭いが強くなる。


(まだ……来るッ!)


そう思った瞬間――盗賊がこちらに向けて突進してきた。


「死ねぇ!!」


エドリックはナイフを構えた。だが――投げる前に、


ヒュッ!!

鋭い音が風を裂き、次の瞬間、盗賊の側頭部に石弾が命中。


「が――ッ!!」

横へ吹き飛び、そのまま動かなくなる。


(……ダリル!)


高台の方向から、仲間の援護射撃が飛んできていた。


胸の鼓動が荒い息とともに響く。


敵の怒号、仲間の呼吸、武器の音――

すべてが戦いの只中へと変わっていく。


「全員、ケガは!?」

レナードが素早く周囲を見渡す。


「大丈夫だ!」「問題ねぇ!」「俺も大丈夫!」

トマ、オズワル、そして俺の声がほぼ同時に返る。


レナードはすぐに視線をエドリックへ向けた。

「エドリック、残りの投擲武器は!?」


「ナイフが……あと五本。手斧は――」「俺が二本持ってる」

オズワルが即座に割って入り、腰の後ろの斧を示す。


レナードは短く頷いた。

「……よし。廃村に突入するぞ!」


その直後だった。

茂みを割る足音。二人の盗賊がこちらへ突進してくる。


「見つけたぞ!!」「逃がすかァ!!」


「エドリック!」

レナードの声に反応し、俺は躊躇なく腕を振るった。


ヒュッ。


ナイフは一直線に飛び――

次の瞬間、先頭の盗賊の頭へ突き刺さった。


「ぐっ……!」

男は前のめりに倒れ、土を巻き上げる。


残る一人の盗賊が武器を振り上げ、こちらへ突っ込んでくる。


「オズワル!」

レナードの短い声。


「任せろ!」

オズワルは即座に脇に下げていた手斧を一本抜き、横にいるトマに素早く差し出した。


トマは動きを止めずにそれを受け取り、柄をしっかり握り込む。


「……くらえ!」

踏み込みと同時に腕を振り抜く。


ヒュッ――

斧は綺麗な回転軌道を描き、迫ってくる盗賊の胸へ深々と突き刺さった。


「がっ……!」


盗賊は前のめりに崩れ落ち、静寂が一瞬だけ周囲に落ちた。


荒い息、緊張で火照った空気、風の音だけが耳に残る。


レナードはすぐに前を向いた。

「……行くぞ!突入する!!」


俺たちは互いに頷き合い、武器を握り直した。


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