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兵の風と鐘の音にさらわれた少年  作者: 炭酸水
第一部 兵の風の中で
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第45話 洞窟口での作戦

森の奥は昼を過ぎても光が届かず、薄暗さが残っていた。木々が高く茂り、葉の隙間からわずかな光が地面をかすめていた。

ロランを先頭に、四人は音を殺して森の中を進む。枯れ枝を踏まぬよう、足を滑らせるように前へ。風が吹くたび、鎧の金具が微かに鳴る。


ほどなくして、木立の陰に三つの影が見えた。エドリック、ダリル、トマ――既に周囲を警戒して待っていた。

気づいたダリルが軽く手を上げ、笑みを浮かべる。


「……よう、ミロ。大丈夫か?眠くて死にそうな顔してたが?」

声は低く、それでもどこか茶化すような響きがあった。


ミロは一瞬むっとして口を開きかけたが、すぐにトマがそれを制した。

「その話は全部終わってからだよ。今は静かに。……いつまた盗賊が来るかわからない」

その言葉に、ミロは黙って口を閉じた。


トマはふっと息をつき、ミロの顔をちらりと見た。

彼の表情に、無事を確認した安堵が滲んでいる。

一方のミロは、ダリルのほうをじっと見返していた。何か言いたげな目だったが、声には出さない。

ダリルは口元を緩め、肩をすくめた。


その空気を断ち切るように、レナードが小声で問う。

「今、どんな状況だ?」


エドリックが頷き、短く答える。

「盗賊を七人仕留めたことはそちらも聞いていると思うけど……その後、さっき一人増えた」


エドリックは無言で森の陰を指した。

そこには、うつ伏せに倒れた盗賊の死体。後頭部には深い傷が走り、土に黒く血が染み込んでいる。

「後頭部にナイフを投げ込んだ。抵抗はなかった」

全員が視線をそちらに向けた。森の風がわずかに流れ、血の匂いが薄く漂う。


オズワルが小さく鼻を鳴らした。

「急だったな……気づかれたか?」


エドリックは首を振る。

「いや。声も上げずに倒れた。ただ、こいつ――焦ってた」

眉をひそめ、足元の死体を見下ろす。

「動きが荒かった。小道を慌てて走ってきたんだ。……多分、洞窟のほうでも異変に気づいてる」


その言葉に、全員の視線が自然と洞窟の方角へ向いた。

レナードの目が細くなる。


エドリックは続けた。

「俺たちは、奴らが逃げる可能性も考えていた。だから、これから三人で洞窟周辺まで移動して、見張りを広げようとしていたところだった。……そこへ、みんなが来た」


静寂が落ちた。森の奥では鳥の声も止んでいる。

風が止み、枝の影が彼らの足元に濃く落ちた。


レナードは一度、全員の顔を見渡した。

その表情は、冷静さの奥に僅かな確信を秘めている。

「……やつら本格的に焦り始めているな」


レナードは辺りを睨みつけるように見渡し、声をさらに低めた。

「洞窟へ急ごう。やつらがばらばらに逃げるのも怖いが、それ以上にまずいのは――まとめてこちらに来ることだ。残りは八人と見ているが、それ以上いる可能性も否定できん。だが、慌てようからすると、向こうも『誰かがいる』ことは分かっている。ただ、状況は把握していない。洞窟周辺まで接近し、盗賊を各個撃破していく」


一同が小さく頷く。緊張が胸の奥で確かに重くなる。


レナードはミロに目を向けた。

「ミロ、ここから洞窟までどれくらいだ?」


ミロは静かに答える。

「すぐ近くの場所にある。急げば数分もかからない」


レナードは短く息を整え、全員に視線を巡らせた。

「ロランとダリル、盗賊を見つけ次第、遠距離から仕掛けろ。声を聞かれても構わん。撃って崩せ。エドリック、ミロ、トマは中距離で支援に回れ。もし二人が外したらすぐ援護に入れ、中距離の位置に敵が居れば即座に攻撃するんだ」


五人は短く頷き、それぞれの武器に視線を落とした。空気がわずかに重くなる。


レナードはさらに続ける。

「オズワルと俺は、万一の時は近距離で制圧に当たる。オズワルは攻撃に専念しろ。俺は剣とバックラーでお前を守る。お前への攻撃は俺が受け止める、オズワルは遠慮するな」


オズワルは短く返した。「任せとけ」

レナードが頷く。


「急ぐぞ。足音は出来るだけ立てぬようにするが、速度を最優先する。今日で決める」


合図もなく皆が動き出す。

ミロが先導となり、木々の影を縫うようにして隊列が進む。葉擦れは最小限、呼吸だけがやや荒くなる。足取りは速いが慎重で、誰も声を出さない。太陽は木々の間から断続的に差し込み、地面に斑を描く。


***


やがて道が切れ、洞窟の入口が視界に入った。入り口は思いのほか近く、黒い口が森の暗がりにぽっかりと開いている。風が洞から吹き出し、冷たい空気が顔を撫でた。中からは小さな物音と、人の気配のような遠い囁きがかすかに聞こえる。


レナードがそっと手を上げ、全員がそれぞれの位置を確認する。合図は無言のまま交わされ、洞窟が見える適切な場所へ移動する。


洞窟の奥では、低い怒声と不安が折り重なっていた。暗がりの中で誰かが言い争う声が漏れる。

「おい!どうなってるんだ、誰も戻ってこねえぞ!」

「知らねえよ!」と、返答がかすかに揺れる。


洞窟の奥から、かすかな言い争いが漏れてきた。男たちの声は低く、聞き取れない言葉が混ざり合う。


エドリックたちは影に潜み、レナードは短く息を整えてから、小声で全員に向き直った。説明は簡潔に、だが明瞭に――仲間に向けたブリーフィングだった。


「洞窟の中は今、混乱している。声が聞こえるが、まだ状況を完全には理解していないようだ」


レナードは指で洞窟の入り口を指差し、続ける。

「ダリル。お前が最初だ。洞窟に石を打ち込め。だが石を盗賊に当てる必要はない。洞窟の奥にぶつけて、そいつらを誘き出すんだ。出てきたところを遠距離で仕留める。ダリル、お前は石を打ち続けろ。出てきた奴を潰せ」

「ロラン。お前はダリルの石で出てきた盗賊を狙え。出てきた盗賊は全て射殺すつもりで頼む」

ロランは無言で頷き、ダリルは石の位置を確かめるように肩越しに周囲を探った。


「エドリック、ミロ。お前たちは中距離の支援だ。出てきた奴に対して一撃で倒せなくてもいい。手負いにして戦力を削げ。倒しそこねたら、そこに飛び込んで止めを刺すんだ」

エドリックは短く頷き、ミロは地図を握る指に力を込めた。


「トマ、手斧だが、ここから距離が少しある。狙えるか?」

「…この距離から当てるのは五分五分だ。しかも相手が動いているしね」

「それなら、確実に当てられる距離で投擲を始めろ。手斧は破壊力がある。確実に仕留めるんだ。投げ終えたら短槍に持ち替え、近接に備えろ。ただし四人の防衛だ。俺とオズワルで近距離戦をする」

トマは頷き、短く息を吐いた。手斧を二本、帯の取り回しで確かめる。


「オズワル――お前は近接された場合のみ接近戦に移行しろ。距離は任せる。それまではエドリックとミロの補助だ」


オズワルは短く「了解」と返した。表情に迷いはない。レナードは最後に全体を睨み、声を絞るように付け加えた。

「要点だ。声をあげずに誘き出す。出てきた奴を孤立させ、順番に叩く。一撃で仕留められなくても構わん――手負いにして数を削る。連携を切らすな。特にロランとダリルは、出てきた奴に即座に遠距離で圧を掛けろ」

「それともう一つ。盗賊が弓などの遠距離武器を持っていたらそいつから狙え。それ以外は俺とオズワルが止める」


短い沈黙。各自が自分の動きを頭の中で反芻する。指示は厳格だが無駄がない。戦いの段取りが、仲間どうしの息づかいの中で組み上がっていく。


「合図は俺が出す。出したら行動開始だ。今回は速攻だ、遅滞は許さん。各自、位置につけ」

一斉に頷きが返る。


ロランは弓に矢をつがえ洞窟の入り口を狙いだし、ダリルはスリングを揺らす。エドリックは投げナイフの位置を確かめ、トマは手斧の重さを手の中で確かめた。ミロは深呼吸を一つして、短弓を構える。


まだ戦闘は始まっていない。だが、皆の目は既に戦闘の輪郭を捉えていた。洞窟の口が暗く口を開け、彼らは無言のまま、レナードの合図を待った。


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