32.試験開始
そんな私の絶叫なんて露知らず、アレキサンダー様は剣を手に取り、試験官の前に行き、真剣な面持ちで剣を構える。
アレキサンダー様の逞しい姿に私を含め、この場にいる全員が見惚れてしまう。
そんな視線を振り払うが如く、アレキサンダー様と試験官との実技試験が始まる。
凄い……
これまでの人達は攻撃なんてする暇も無く、防御で精一杯だったのに、アレキサンダー様は剣の使い手である試験官と、接戦を繰り広げる。
剣について全く知らない私でも分かる。
アレキサンダー様は受験生と言う立場では役不足な程、群を抜いて強いことくらい。
だけど、そんなアレキサンダー様も最後に試験官に剣を弾かれて負けてしまった。
それでもかなり善戦していた。きっとアレキサンダー様は才能に加え、弛まぬ努力をしてきた人なんだろう。
「セシル · ニーハバード」
あ、そうだ。私も試験官と試合しなきゃいけないんだった。
凄い試合を見せられたから、もうこれでおしまいだと勘違いしてた。
私は声が出せないので、返事の代わりにピンと手を挙げてから、試験官の前へと駆け寄る。
ここまで整えていた心は何処へやら。
震える手を強く握り締める。
大丈夫、何とかなる。
「武器は?」
私は試験官にそう言われ、スキルを使い腕だけをフェンリルに変え、鋭い爪を試験官に見せつける。
筆記試験とは違って剣術試験はスキルが使える。
なら慣れない武器を使うより、スキルを使って戦う方が良いに決まってる。
「分かりました。では始めます。いつでもどうぞ」
そう言って試験官は剣を構える。
私が仕掛けるのを待っているようだ。
なら、お言葉に甘えて。
私は地面を蹴るその一瞬だけ、能力をフェンリルに変える。
そうすると、私は瞬きよりも速く試験官の目の前に到着する。
私は試験官の構える剣に向かって、鋭い爪を振り下ろす。
「ぐっ……!」
なんと、私の爪を試験官は受け止める。
今の速さを捉えるとか、この人本当に人間?
私は一旦後ろに下がる。
だけど試験官は私に突っ込んできた。
息を入れさせないためだろう。
私は試験官の剣を受け止め……ない。
私は体格差を生かし、試験官の左脇をくぐり抜けて背後に立つ。
また爪を振り下ろすが、素早く身体を翻した試験官は剣でそれを受け止める。
……終わる気がしない。
もういいや。
私は一瞬能力をフェンリルに変える。
すると、剣で受け止められていた爪は、まるでそこに何も無かったかのように、スルッと剣を引き裂いて試験官の胸に向かって進んでいく。
試験官は驚いたのか、身体のバランスを崩し、後ろに倒れる。
これ幸いと私は試験官の身体に飛び乗り、喉元に爪を突き立てる。
「参った」
お、おぉ……!
やった!私勝った!
私は思わず飛び跳ねる。
「がはっ……!」
あ、試験官が下敷きになってるの忘れてた。
私はスキルの使用をやめ、試験官の身体から降りる。
すると直ぐに試験官は立ち上がり、受験生全員にこう話した。
「これにて剣術試験は終了だ。帰って結果を待て」
それを聞いた受験生は続々と帰っていく。
私もその波に乗ろうと、出口へと駆け足で向かう。
「ニーハバード」
私は試験官に呼び止められる。
お、怒られる……?
私は恐る恐る振り返る。
そこには意外にも笑顔の試験官。
そして、何も言わずに片目を瞑り親指を立てる。
へ?
何だか分からないけど、私も片目を瞑り親指を立てておいた。
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