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29.逃げてばっかり

 眠気も取れていないのに、私は徐に目を覚ます。

 逃げて帰ってきた後、直ぐに寝ちゃってたからか、夜中に目が覚めてしまった。


 私は再び寝ようと、瞼を下ろそうとすると……

「───、─────!」

 叫び声が聞こえた。

 私は身体を勢いよく起こす。

 そのピリピリとした声で、私の眠気は一気に取れてしまった。


 私は状況を把握するために、耳を澄ませる。

 森で過ごしてきて鍛えられた私の聴力でなければ、聞き逃してしまうくらいの、小さな声を何とか聞き取る。

 聞こえてくる声は二つ。

 女性の怒りの声と、もう一つは……

 エルディさんの、声?

 エルディさんの声は女の人に気圧されているのか、いつもよりも少し弱々しく感じる。

 ……何を話しているか、殆ど聞き取れない。

 私はどうしても気になって、声のする方に向かうことにした。

 

 どうやら、この話し声はギルド内から聞こえてきているらしい。

 それも、最上階である三階奥。エルディさんの部屋だ。

 二階の空き部屋から出た私は階段を上り、エルディさんの部屋の前に立つ。


 ……ここでも話し声はあまり聞こえない。

 何か外に音を漏らさないようにする魔法でも使っているのかな?

 

 ここで諦めて部屋に戻って寝るべきかもしれない。

 でも、どうしても気になってしまった。

 何故だか私は好奇心を抑えきれていなかった。

 冷静ではなかった。

 それを分かっていながらも、私はドアの取っ手に手を掛ける。

 

 本当に馬鹿だなぁ、私。

 私は扉を少し開く。

 すると、鼓膜や心臓が破れてしまうと思う歩道、痛い叫び声が辺りに響く。


「何故ですか!何故『白虎の牙』は帰ってこずに、あの謎の少女だけを森から連れて帰ってきたのですか!」

「『白虎の牙』は……ゼフォンは一体何処にいるんですか!!」

「落ち着け、ネイ」

「落ち着ける訳ないじゃないですか!」

 

 ネイと呼ばれた女の人の言葉に、思わず私は硬直する。

 『ゼフォン』、あの時に聞いた名前だ。

 あの時、私が三人の人間と接触した時……



『一体、どーなってんだ!?』

『ゼフォン、落ち着け。スゥ、おい、お前は一体何者だ?答え無いのなら、魔物とみなし、お前を殺す』



 あの、落ち着きの無い男の人の名前だ。

 と言うことは、『白虎の牙』って、あの三人のこと?

 

 私は、再び硬直する。

 全て、理解してしまった。


 ネイさんは、私が殺してしまった人の知り合いなんだ。

 だから、森から帰ってこない彼らを心配してたんだ。

 だけど、帰ってきたのは私。

 あの様子だと私が三人を殺したのは知らないらしいけど、事実として、帰ってきたのは知り合いの敵。

 

 私は罪悪感と絶望に染められてしまう。

 ──私がここにいるのがバレたら、より修羅場になってしまう。だから、この場を去ろう。

 本当の理由を覆い隠すように、そんな理由をつけて、私は逃げるようにして二階の空き部屋に戻り、ベッドに寝転び、毛布を頭から被る。

 

 今日は、何事からも逃げてばっかりだ。

 自分が嫌いになってしまう。


 駄目だよ、セシル。下を向いちゃ。

 過去のことは変えられないから、前を向いて歩かなきゃ。

 

 私は自分にそう言い聞かせて、無理矢理眠りについた。


 

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