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24.エルディとナンシーの関係 後編

少し長め。

 俺はナンシーのバカ力に負けて、こいつ専用の研究室に連れてこられた。

「木の精霊よ、この珍獣を束縛せよ!」

 ナンシーが詠唱すると、部屋にある植木鉢から木が生え、俺を捕らえようと枝を伸ばしてくる。

 こいつあのバカ力だけじゃなくて、魔法まで使いやがったぞ……!

「……チッ、待て、木の精霊よ」

 俺がそう言うと、俺に向かってきていた枝がぴたりと止まる。

「流石エルフ。精霊に力を借りる()()じゃあんたにゃ勝てないわ」

 エルフは精霊と共に生きる者だ。あんな愚者よりも俺の言うことを聞く方が当たり前だ。


「なら……」

「闇属性・毒、麻痺(パラライズ)

「な……!」

 俺は無様にも床に倒れる。

 身体が、動かせない……!

()()で無理なら()()を使うに決まってるでしょ。精霊にばっか頼って対策しないなんて、怠惰、この言葉がぴったりね」

「……クソッ」

 魔術は魔法よりも魔力を消費する代わりに、精霊の力を借りずに力を使うことが出来る。これは、あの愚者(ナンシー)が生み出した新技術だ。

 精霊に干渉しないため、俺にはなす術もない。


「漸く研究に取りかかれるわ。さぁて、まずは何から始めましょ──」

「ナンシー · ソレイジュア様」

 ナンシーが不気味な笑みを浮かべていたら、研究室に口髭を生やした貴族らしき男性が入ってきた。

「貴方……確かアルメロス · ライデンスノーだったっけ?」

 アルメロス · ライデンスノー、その名前は俺も聞いたことがある。

 魔法の研究や扱いを担当する魔法省の二番目に偉い人だった筈だ。

「ご記憶にお留めくださり、有り難く存じます」

「そんな付け焼け刃の言葉なんてどうでもいいの。わたしが聞きたいのは、貴方が何故ここに来たのか?なんですけど」

 ナンシーは腕を組み、ライデンスノー殿を睨み付ける。

 不穏な空気が漂う。

 俺は息を潜めて空気になることに徹する。


「僭越ながら申し上げます。エルフの研究せい──」

「後一月待ちなさい」

 ナンシーは間発入れずに命令するように言う。

「それはもう何度目でございましょうか」

「この台詞はこれで最後よ。ほら、これを見なさい?」

 ナンシーは地面に突っ伏している俺を指差す。

 こんな無様な姿を見られるとは、何て恥辱だ。

「捕獲したから今から研究を始めるの」

「それでは、まだ研究成果を上げられてない、と?」

「……そう言うことになるわね」

 何か雰囲気が変わった。


「……分かりました。それでは、貴方の爵位を剥奪します」

 その言葉に、他人事であるにも関わらず、俺も冷や汗をかく。

「な!?貴方、何を言ってるのか分かってるの!?正気なの?」

「はい。これは(わたくし)個人で決定したものではなく、魔法省と王家による会談で決定されたことでございます」

「……ちゃんと説明しなさい」 

 冷静さを取り戻しつつあるのか、ナンシーは苛つきながらも大人しくなる。


「ナンシー様は一年半もの間、研究成果を上げずに話を有耶無耶にしていましたよね?」

「それは……」

「そして先月、魔法省と王家との会談で、次回もまた期限を引き延ばしたものなら、爵位を剥奪することが決議いたしました」

「納得いかないわ。爵位を剥奪って、いきなり過ぎませんか?それに、わたしの父上や母上だって──」

「是非、ソレイジュアご夫妻はそう言いました。あのバカ娘に一泡吹かせなければ、と」

 一泡どころじゃすまないと思うんだが……

「──っ!?」

「これは決定事項です。何があろうと変更はございませんので。では、失礼致しました」

「ちょっと待ちな──!」

 ライデンスノー殿は、部屋を去っていった。


 この場には重い沈黙だけが残される。

「…………あんたのせいよ」

「……は?」

「あんたがわたしからずっと逃げていたからこうなったのよ!」

 ナンシーが突っ伏したままの俺に怒鳴り付ける。

 耳が痛くなるくらい。

「責任転嫁するな。お前の問題だろ」

「でも、でも……!」

「──っ!」

 ナンシーは涙目になって俺を睨み付ける。

 こんな顔、初めて見た。

 いつも傲慢で怠惰なこいつが、こんな子供みたいな顔をするのか……


「……んあぁぁあ!分かった、協力する、(エルフ)の研究に!それで、あいつが想像もしてない成果を上げて爵位取り戻せ!それで良いだろ!?」

 俺は魔術を掛けられている身体を無理矢理起こし、ナンシーに勢いのままそう言う。

「……え?」

「え、じゃない!そんな顔を俺に見せるな。これはお前の問題だか、俺には全く関係ないって言ったら嘘になるだろ?それで黙ってるのも俺の良心が痛むんだよ。決して!お前のために言ってるんじゃないからな!」

 ナンシーが心外だと言わんばかりの顔で俺を見つめる。

 そして、その顔は笑顔に変わる。

「……そうね、なら、もう一度聞いていい?」

「……あぁ」

「わたしの研究を手伝いなさい」

「……分かったよ」

 


─────



「そうして、俺はナンシーに無茶苦茶にされながらも、何とか爵位を取り戻し、今に至るって訳だ」

 めでたし、めでたし、とは、私には言えなかった。


 因みに、魔剣術学園の魔法の試験が『魔術試験』と言う名称なのは、学園の魔法科担当のナンシーが魔術の名前を広めようと、無茶を言って変更したためである。


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