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あなたは知っている

大学生活は「人生の夏休み」なんて呼ばれることがある。


その言葉どおり、自由な時間は多い。


けれど遙には、その時間さえあっという間に過ぎていくように感じられた。



月曜日。


9月も半ばだというのに、まだ暑さが残っている。


月曜日は2限から。


講義が行われる校舎へ向かいながら、遙は先週のことを思い出していた。


校舎の前で、通りかかる女子学生を品定めしていた男子学生たち。


その前を通れずに足を止めた遙を、秀平の友人らしき二人が助けてくれた。


今日は——


「……いない」


例の品定め男たちの姿はなかった。


「ふう……」


小さく息をつく。


そのとき。


後ろから声がした。


「おはよう」


遙の肩が、ぴくりと跳ねた。


この声は——


振り返る。


金本秀平が、遙の方へ歩いてきていた。


「……」


思わず怪訝な顔になる。


「お……はようございます」


その表情を見て、秀平が笑った。


「そういえば、ちゃんと自己紹介してなかったよね」


遙の隣まで来る。


「工学部三回生の金本秀平です」


「……経営学部一回生の金田遙です……」


すると秀平は、小さな声で言った。


「……知ってるよ」


「……え?」


遙が聞き返す。


けれど秀平は、それには答えなかった。


「今日は変な奴らいないんだな。よかった」


「あ……」


その言葉で、先週のことを思い出す。


「あのっ……! 先週、ご友人の方に助けていただいて……」


「聞いたよ」


やっぱり、秀平の友人だったんだ。


「あの……なんで助けてくれたんでしょう……」


本当に聞きたいのは、そこじゃない。


でも、うまく言葉が出てこない。


「今度、話しかけてみたら? 案外いい奴らだよ」


そう話す秀平の表情からは、二人への親しさが感じられた。


「あの……」


遙は少し迷ってから、続ける。


「私の名前も、知ってて……」


「ああ。俺が話したから」


「へ……!?」


間の抜けた声が出た。


顔が一気に熱くなる。


秀平はそんな遙を見て、肩をすくめた。


「やっぱ覚えてないか……」


「……どういうことですか?」


そのとき——


予鈴が鳴った。


「あ、俺、次この校舎でゼミだから」


秀平は時計を見る。


「じゃあ、また!」


軽く手を上げ、そのまま校舎の中へ走っていった。


「……」


遙は、その場に取り残された。


(覚えてないって……どういうこと?)


どこかで会った?


小学校。


中学校。


高校。


記憶を辿ってみる。


でも、秀平は三回生。


二学年も違う。


どこで会ったというのだろう。


何も思い出せないまま、遙も講義室へ急いだ。


やがて、授業が始まる。


けれど——


(……どこで?)


(私、この人と会ったことあるの?)


珍しくその日の遙は、いつものように講義へ集中できなかった。


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