いつもと違う席
あの月曜日から、火曜、水曜、木曜と、流れるように過ぎていった。
そして、金曜日の3限。
情報開発演習Ⅲ。
遙は今日は、出口とは反対側の端寄り——前から二番目の席に座った。
先週とは違う場所。
(……ここならいいでしょ)
講義開始五分前になると、今日も花沢が学生支援課の職員と一緒に現れ、講義の準備を始める。
やがて、前からレジュメが回ってきた。
遙は同じ列の人数分を数えて横に回す。
そして、残った束を斜め後ろへ回そうと振り返った。
「……な……!」
思わず声が漏れた。
秀平だった。
(なんで!!!?)
秀平はレジュメを受け取りながら、遙を見る。
「な……?」
遙の言葉を真似するように笑った。
「ありがと」
そして、自分の列の人数分を取ると、残りを後ろへ回した。
遙はすぐに前を向いた。
不意に顔が熱くなる。
なぜなのかは、自分でも分からない。
(なんで?)
(なんで後ろに座ってるの?)
すると——
「あれー? 金本くん、今日はそこ?」
マイクを通した花沢の声が響いた。
秀平は驚いたように顔を上げる。
「顔と名前、覚えてくださってるんですか?」
「うん。何たって、いい質問してくれたからねー!」
後方の席から、おそらく秀平の友人だろう。
「ヒュー!」
と声が上がった。
教室に笑いが起こる。
今日の講義は、先週の質問用紙に書かれていた内容に答えるところから始まった。
質問用紙は記名式。
花沢が名前を呼び、呼ばれた学生は手を挙げる。
そして花沢は、その学生に向けて回答する。
一講義につき、二、三人。
真面目な質問もあれば、
『結婚していますか?』
なんて個人的な質問もあった。
「僕ね、結婚したけど離婚しました」
後方の席がざわつく。
「外国人の女性と結婚して、子どもは二人いるよ。また日本に遊びに来たときは、この講義を受けたいって言ってたし、連れてくるよ」
少し間を置いて、
「あ、なんで離婚したかは長くなるから、講義を続けますね」
そう言って、その話は終わった。
今日は、先週よりも勉学に関する話が多かった。
(……私が質問用紙に『もっと勉学について学びたい』って書いたから?)
もちろん、答えは分からない。
それでも遙は嬉しかった。
気づけば、斜め後ろに秀平がいることも忘れ、夢中でノートを取っていた。
一コマ90分の講義は、あっという間に終わった。
今日も質問用紙に記入する。
『今日の講義の、こういった部分が面白かったです。ここについて、もっと深く知りたいです』
そんな内容を書いて読み返す。
「ふう……」
小さく息をついて顔を上げると——
秀平は、すでに席を立っていた。
「あ……」
そのとき、遙は思い出した。
(そうだ)
(月曜日に秀平と同じ工学部の人たちが助けてくれたこと、聞けばよかった……)
そう思ったときには、もう遅かった。
遙も質問用紙を提出し、大講義室を出る。
けれど、廊下にも秀平の姿はなかった。
(……また図書室で時間潰しか)
そう思いながら、図書室へ向かう。
ふと。
(……まさか、今日もいたりして)
受付の前を見る。
いない。
図書室の中へ入る。
やっぱり、いない。
「……」
少しだけ、拍子抜けした。
(……。)
先週。
離れようと思った。
だから、座る場所だって変えた。
なのに。
今度は自分が、秀平を探している。
遙はまだ、その矛盾に気づいていなかった。
また一週間が終わる。
心の中に、よく分からないもやを残したまま。




