月日は流れて
月日は流れた。
大学四回生の春。
遙はリクルートスーツに身を包み、すっかり就活生になっていた。
企業説明会。
エントリーシート。
適性検査。
面接。
手帳には次々と予定が書き込まれていく。
一方、秀平は大学院へ進学し、毎日のように研究室に籠っていた。
付き合い始めた頃と比べれば、二人で過ごす時間はずいぶん減った。
それでも、久しぶりに会えば、いつもの二人に戻る。
一緒にご飯を食べて。
どうでもいい話をして。
遙が就活の愚痴を言えば、秀平が聞く。
秀平が研究の話を始めれば、半分も理解できないまま遙が聞く。
きっと、これからもこんな感じなのだろう。
遙は、なんとなくそう思っていた。
*
遙が志望していたのは、経理部門だった。
大学在学中に日商簿記二級も取得した。
面接でそのことを話すと、評価してもらえることも多かった。
そして、ある日の集団面接。
「では次の質問です」
面接官が学生たちを見渡した。
「皆さんが、働く上で一番大切にしたいことは何ですか?」
端に座る学生から、順番に答えていく。
正確に仕事をすること。
責任を持つこと。
確実に仕事をやり遂げること。
どれも間違っていない。
やがて、遙の番になった。
「次、金田さんは?」
「はい」
遙は面接官を見る。
「私は、人との関わりを大切にしたいです」
面接官が少しだけ顔を上げた。
遙は続ける。
「仕事は、一人で完結するものではないと思っています」
上司。
同僚。
他部署。
取引先。
これから仕事をする中で、きっとたくさんの人と関わる。
「自分の仕事が誰かの仕事につながって、その人の仕事がまた別の誰かにつながっていく。だからこそ、周りの人への感謝を忘れず、きちんとコミュニケーションを取りながら仕事をすることを大切にしたいです」
そこで一度、息を吸った。
「もちろん経理として、正確な仕事をすることは大前提です。その上で、周囲から信頼してもらえる人になり、御社に貢献したいと考えています」
「……なるほど」
面接官が頷いた。
その瞬間。
遙の頭の片隅に、ふと。
あの大講義室が浮かんだ。
――『ありがとう』と言われる回数より、『ありがとう』と言う回数の方が多い人生を送りたいものですね。
あれから、二年以上。
自分でも気づかないうちに。
あの日聞いた言葉は、遙の中に残っていた。
*
梅雨の季節になった。
選考が進むにつれ、少しずつ結果が届き始めた。
最終的に、遙はいくつかの会社から内々定をもらった。
その中に。
あの日、「人との関わり」について話した会社もあった。
迷った。
条件も見比べた。
仕事内容も調べた。
親や秀平、あゆみと成美にも相談した。
そして。
遙は、その会社に決めた。
自分が社会人として初めて働く場所を。
自分で選んだ。




