ふたりの朝
日曜日。
朝、目が覚めるともちろんそこは自分のベッドではなかった。
秀平のシングルベッドで遙は寝て、秀平は友達が泊まりに来た時に使う簡易の布団で寝ていた。
本当は自分が布団で寝ると言い張ったが、秀平が他の男が寝た布団で寝かせたくないと言い返し、ベッドを奪うことになった。
昨日…本当にそんなことになったんだ。
思い返すだけで顔が赤くなる。
ずっと気にしていた自分の華奢な身体のことも…秀平は、遙が思っていたほど気にしていなかった。
むしろ。
——思い出すのはやめよう。
また顔が熱くなる。
「痛たた…」
秀平に借りたダボダボのスウェットの袖を捲って起き上がる。
秀平はすっかり夢の中なので、自分の服に着替えてコンビニへ向かった。
トーストとカフェラテでいいかな?
など考えながらそれを買う。
一人暮らしの秀平の家には電子レンジの他にもトースターが置いてあったのをしっかり覚えていた。
新鮮だな。
歩きながらそんなことを考えていた。
自宅とは違う場所での朝の町。
コンビニへ買い物に出てから20分ほどで帰ってきた。
ガチャとドアを開けると、秀平はその後で起きた。
「おはよう」
遙が言うと、秀平もおはようと返した。
「メガネ、持ってきてたんだね」
起き上がって伸びをする秀平が遙のメガネに目を向ける。
「一応いつでも持ってる。で、これ朝ごはん。これでいい?」
そう言って買ってきた食パンとカフェラテ2つをぶら下げてみせた。
「さすがだね。家には何もなかったから助かる」
そう言って秀平も朝の身支度を始めた。
そしてトースターにパンを入れる遙の耳にコソッと話しかける。
「スウェット脱いじゃったのは残念」
遙はビクッとした。
彼シャツならぬ、彼スウェット姿をもっと見たかったという意だろうと汲みとり、顔が赤くなった。
簡易の布団を片付けて折り畳みのローテーブルを出す。
トーストとカフェラテを置き、2人でならんでいただきますと手を合わせた。
あんなに悩んでいたのに、こんなに今幸せなんて、私は単純すぎる?そんなことを考えていると、秀平が真剣な面持ちでこちらを向いた。
「遙ちゃん、俺就職はしないんだ」
遙は食べるのをやめて、秀平の目を見た。
「大学院に行こうと思う。もう少し研究がしたい。だから大学を卒業しても、そのあと3年は働かない」
それなら遙の方が先に就職することになる。
「そうなんだ」
とだけ返した。
「先に遙ちゃんが就職しちゃうけど…」
秀平は膝で握った拳から、遙に目を移す。
「ちゃんと考えてるから!だから他のやつのことは見ないで欲しい」
嬉しい気持ちと同時に、遙はふっと吹き出した。
「秀平ほど好きになれる人、現れないと思うよ」
自分で言ってて痛いセリフだと思った。
「大学ではメガネかけてて。メイクも本気じゃなくていい。俺と2人の時だけコンタクトにして。」
「なんで…?」
不思議そうに首を傾げる遙に秀平は焦って答えた。
「遙ちゃんが可愛すぎるからだよ!綺麗になりすぎ!いろんな男が話しかけてくるようになっただろ!?」
確かにいろんな人から話しかけられるようにはなった。
それでも不思議そうにしていると、ついに秀平が項垂れた。
「嫉妬してるんだよ。これくらいわかって。」
遙は少しだけ目を丸くして、それから笑った。
「嫌だよ」
「……え?」
「メイクするの、楽しくなってきたから」
「……」
「コンタクトにするかどうかも、私が決める」
「……はい」
「でも」
遙は項垂れた秀平の頭を撫でた。
「嫉妬してくれるのは、ちょっと嬉しい」
「……じゃあメガネ」
「それは別」
でも…少しは意向を汲んであげようかな?
遙はそう考えていた。




