付き合いはじめたふたり
付き合い始めてから。
なぜか。
二人きりでいる時間が増えるどころか、六人でいることが増えた。
「遙ー! こっち!」
学食へ入ると、あゆみが大きく手を振っている。
その隣には成美。
そして向かい側には。
「はるかちゃーん」
「今日も秀平ちゃんと一緒じゃん」
例の二人。
「……なんでいるんですか」
「なんでって何!?」
「冷たっ!」
「遙ちゃん、最近俺らに当たり強くない!?」
「慣れたんじゃない?」
秀平が笑う。
「それはそれで嬉しい!」
「よかったな!」
「……うるさい」
遙はそう言いながら。
少し笑った。
いつからだろう。
大学で、こんなふうに誰かと一緒に昼食を食べるようになったのは。
気づけば、六人でいることが当たり前になっていた。
*
それでも金曜日の情報開発演習Ⅲは、変わらずいつもの席で2人だけで座った。
講義前のやりとりを見ていた講師の花沢も、2人の変化に気づいたのか、声をかけにきた。
「君たち、随分仲良くなったね」
「ありがとうございます。付き合ってます」
秀平がさらりと言う。
「えっ、そうなの? やっぱり!」
秀平と遙は目を丸くした。
「実は最初の頃から二人は僕の推しだったんだよ」
「仲良くしなよ。」
そう言って教台へと向かった。
「推しだって」
そう言って遙は笑った。
*
日曜日は二人でいることが多かった。
秀平の部屋に来るのも慣れてきて、お昼はいつも2人で作った。
「遙ちゃん、玉ねぎお願い」
「はい」
「薄切りね」
「分かってます」
「この前めちゃくちゃ分厚かったから」
「……食べられたでしょ」
「食べられたけど」
「ならいいじゃないですか」
「よくないよ」
「細かい」
「理系だから」
「関係ないでしょ」
そんな話をしながら、二人で昼食を作る。
食べ終われば、遙は持ってきた本を読む。
秀平は、大学から持ち帰った資料を広げる。
会話がなくても、不思議と居心地は悪くなかった。
同じ部屋で、それぞれ違うことをしている。
ページをめくる音。
シャープペンシルが紙の上を走る音。
たまに。
「遙ちゃん」
「はい?」
「コーヒー飲む?」
「ミルクティーがいいです」
「はいはい」
そんな会話をする。
そして、たまにキスをする。
それだけで、遙は満たされていた。
*
秋は、あっという間に過ぎた。
キャンパスを歩く学生たちの服装も少しずつ厚くなっていった。
そして、冬。
雪こそ降りはしないが、吐いた息は白くなる頃だった。
秀平と歩いているとある女性がすれ違った。
秀平も女性も目で挨拶をしてすれ違う。
「誰?今の人も工学部?」
遙が聞くと、秀平は少しバツが悪そうに答えた。
「…元カノ。」
遙は衝撃を受けた。
そうだよね。私と違うタイプ。元カノの1人や2人はいるよね。
じゃあ秀平はあの人ともキスしたんだろうか。
それともそれ以上…
いや、考えるな。
一瞬の間でそこまで考えて、「そうなんだ。」と答えてそれで終わった…つもりだった。
先ほどの元カノが小走りで戻ってきて秀平に声をかけた。
「秀くん、情報開発演習受けてるよね。
先週休んじゃって…ノート見せてくれない?」
秀くん…
その呼び名が遙の心の中で反芻する。
秀平は「いいよ」と答えた。
遙は頭が真っ白になった。
別れても繋がってるんだ。
この場所から逃げたい。
でも、逃げない。
逃げないことが正しいのか分からなかった。
「行こっか。」
と、秀平に声をかけた。
なんともないふりをして。




