仲良く見えた?
少し離れたところで。
一部始終を見ていたあゆみと成美は、去っていく女学生の後ろ姿を目で追っていた。
「……あれか」
あゆみが呟く。
「例の人」
「だね」
成美も頷く。
綺麗に整えられた髪。
自然なメイク。
すらりとした立ち姿。
「……なるほどねえ」
「なに?」
「あれは、なかなか強者ね」
「分かる」
二人は同時に頷いた。
遙が勝手に自信をなくした理由も。
分からなくはない。
「でもさ——」
成美が遙たちの方を見る。
そして。
目を見開いた。
「ちょっ……!」
「なに?」
「あゆみ、見て!」
「え?」
「腕!」
「……腕?」
「つかまれてる!」
「えっ!?」
二人が身を乗り出す。
「ちょっと待って。どういうこと!?」
「知らないよ!」
「遙、そんな話してなかったよね!?」
「してない!」
「もうどういう関係なの!?」
その少し離れたところでは。
「いけー!」
「秀平ちゃん、いけー!」
工学部の男二人が、小声で拳を握っていた。
そんなことになっているとは知らず。
遙は完全に困り果てていた。
「5限の準備、手伝うよ」
秀平はそう言った。
「……」
「何するの?」
「……」
「遙ちゃん?」
「……ありません」
「え?」
遙は観念した。
「5限の準備なんて、ありません」
「……え?」
秀平が目を瞬く。
「じゃあ、なんで行こうとするの?」
「……」
言えない。
言えるわけがない。
でも。
もう。
逃げるための言葉も思いつかない。
秀平は何も言わず、遙を見ている。
「……いたくなかったから」
「え?」
小さすぎて聞こえなかったらしい。
遙は唇を噛む。
もう一度。
「……ここに、いたくなかったから」
「なんで?」
聞かないでほしい。
でも。
聞いてほしいような気もした。
「……さっきの人」
「うん」
「さっきの人と……金本さんが」
「俺が?」
「……仲良く話してるの」
顔が熱くなる。
「その隣にいるのが……嫌だったから」
言った。
言ってしまった。
もう。
秀平の顔なんて見られない。
遙は手の中のミルクティーへ視線を落とした。
沈黙。
(……何言ってるんだろう、私)
恥ずかしい。
帰りたい。
今度こそ本当に帰りたい。
「……仲良く話してる、か」
秀平の声。
「……」
恐る恐る顔を上げようとした、そのとき。
「ふっ」
「……?」
秀平が笑った。
「……なんで笑うんですか」
「いや、ごめん」
口元を押さえている。
「全然そんなことないよ」
「……え?」
「同じゼミなだけ」
「……」
「さっきも実験の話しかしてないでしょ?」
「それは……そうですけど」
「来週のゼミで使うデータの話してただけだよ」
「……」
「仲良く見えた?」
「……見えました」
「そっか」
また。
秀平が笑う。
「だから、なんで笑うんですか」
「ごめんって」
「……もういいです」
恥ずかしい。
ものすごく恥ずかしい。
遙はミルクティーの缶へ視線を落とした。
さっきまで温かかったはずなのに。
もう、ほとんどぬるい。
(……言わなきゃよかった)
そのとき。
「遙ちゃん」
「……なんですか」
顔を上げない。
すると。
少し横から。
秀平が少し身を屈めて、俯いた遙の顔を覗いた。
「……っ」
思わず顔を逸らす。
その様子を見て、秀平が笑った。
「可愛いね、遙ちゃんは」
「……」
時間が。
止まった気がした。
「……は?」
やっと出たのは。
そんな声だった。
顔が。
一気に熱くなる。
「な……」
「ん?」
「何言ってるんですか……!」
「思ったこと」
「……っ」
無理。
今度こそ。
本当に無理。
遙は両手でミルクティーの缶を握りしめた。
心臓がうるさい。
顔も上げられない。
そんな遙を見て。
秀平はまた、楽しそうに笑った。
「言った!?」
あゆみが成美の腕を叩く。
「何!? 何言った!?」
「聞こえない!」
「遙、めっちゃ赤くなってる!」
「何言ったのあの人!?」
「分かんないって!」
二人は必死に目を凝らす。
一方。
「おおおお……!」
「秀平ちゃん!!」
工学部の二人は声を押し殺しながら拳を握っていた。
「いった!」
「今の絶対いっただろ!」
「何を!?」
「知らん!」
「聞こえてねえのかよ!」
「でもあの顔はいった!」
四人とも。
会話の内容は聞こえていない。
それでも。
一つだけ。
分かることがあった。
どうやら。
二人の間で。
何かが。
確かに、動いたらしい。




