どこかで会った?
火曜日、2限。
ゼミが終わり昼休みになった。
大学運営のカフェの一角で、金田遥は石田あゆみと川田成美に詰められていた。
「で!? どんな人?」
「同じ学部?」
「何回生?」
「ちょっと待って」
「いつ知り合ったの?」
「だから待ってって!」
次から次へと質問が飛んでくる。
遙は困りながらも、少しずつ秀平のことを話した。
工学部の三回生であること。
金曜日の『情報開発演習Ⅲ』で一緒になったこと。
なぜか最初から、自分のことを知っていたこと。
「でもさ」
成美が首を傾げた。
「その人、なんで金田さんのこと知ってるんだろうね」
「そう。それが私も分からなくて」
「小中高のどこかで一緒だったとか?」
「それはないと思う。出身地が違うし」
遙は少し考える。
「その人は大学の近くで下宿してるみたいだけど、私は実家から通える範囲だから」
「じゃあ、地元が一緒ってわけでもないのか」
「うん」
「前期で授業被ってたとか!」
あゆみが言う。
「でも、お兄ちゃんが工学部なんだけどさ」
「お兄さん、工学部なんだ」
遙はあゆみのことをまた一つ知った。
「うん。工学部って私らと違って、必修で結構ガチガチに時間割組まれてるんだよ。自由に選べるのって、一般教養とか数コマくらいだって言ってた」
「へえ」
「しかもその人、三回生なんでしょ?」
「うん」
「遙……じゃなくて、金田さんは一回生」
「うん」
「学部も学年も違う」
成美が指を折りながら確認する。
「地元も違う」
「うん」
「なのに向こうだけ金田さんのこと知ってる」
「……そう」
三人で黙る。
「……怖くない?」
あゆみが言った。
「ちょっと怖い」
「でも気になるんでしょ?」
「……」
「黙った!」
「うるさい」
二人が笑う。
「金田さん、どこかで会ってないの?」
成美が聞いた。
「どこか……」
「大学じゃなくてさ。オープンキャンパスとか」
「オープンキャンパス……」
記憶を辿ってみる。
けれど。
秀平の顔に結びつく記憶は、やっぱり何も出てこない。
「……分からない」
「向こうはなんて言ってるの?」
「『やっぱ覚えてないか』って」
「え!」
「なにそれ!」
二人が同時に身を乗り出した。
「絶対どっかで会ってるじゃん!」
「そうなんだと思う。でも……覚えてない」
「気になるー!」
「私も気になってる」
「本人に聞けばいいじゃん」
「一回聞こうとしたんだけど、そのときは授業始まっちゃって。その後も……なんか聞けなくて」
「じゃあ連絡先聞いて、メールで聞けば?」
「……」
またそこに戻った。
「だから、その連絡先をまだ聞けてないの」
「ああー!」
「最初に戻った!」
二人が笑う。
遙もつられて笑った。
そのとき。
「あ、ていうかさ」
あゆみが突然言った。
「ん?」
「もう、遙って呼んでいい?」
「……え?」
「だって、なんか金田さんって堅くない?」
「分かる。私らのことも、あゆみと成美って呼んでよ」
成美も笑う。
遙は二人を見る。
「あゆみ……と、成美?」
「そう!」
「呼んでみて」
「今?」
「今!」
「……あゆみ」
「はい!」
「……成美」
「はーい!」
二人が嬉しそうに返事をする。
なんだか。
それだけのことなのに、少し照れくさい。
「私のことも……遙でいいの?」
「いいに決まってんじゃん!」
「じゃあ遙ね!」
「……うん」
三人で顔を見合わせて。
笑った。
——友だち。
今度は。
そう呼んでもいい気がした。




