ステップアップ
火曜日。
2限は必修のゼミだ。
教室へ入ると、石田あゆみと川田成美がすぐに遙を見つけた。
「金田さん、おはよー!」
「おはよう」
もう。
呼ばれて自分の後ろを振り返ることはなくなった。
自然に二人のところへ向かう。
「はい、今日のチェック入りまーす」
「……お願いします」
成美が遙の顔を覗き込む。
あゆみも反対側から見る。
「おお」
「……なに?」
「めっちゃ上達してる」
「ほんと?」
「うん。ファンデかなり自然になった」
「首も大丈夫!」
「……よかった」
思わず頬が緩む。
「もうベースはいいんじゃない?」
「うん。次いこ、次!」
「次?」
二人が顔を見合わせる。
「アイメイク!」
「……アイメイク」
「そう! アイシャドウとか」
「マスカラもやってみよ」
「ちょっと待って。一気に増やさないで」
「大丈夫だって!」
「金田さん、目元絶対変わると思う」
「でもメガネだし……」
「メガネでもできるって!」
「むしろメガネに合う感じにしよ!」
また二人のメイク講座が始まる。
遙は真剣に聞きながら、ときどき質問する。
数日前まで。
こんな話を自分がしているなんて、想像もしなかった。
「あ、そうだ」
あゆみが、ふと思い出したように言った。
「ん?」
「ていうかさ」
遙を見る。
「金田さんって、なんで急にメイク始めようと思ったの?」
「……え」
動きが止まった。
なぜ。
そんなの。
月曜日。
秀平の隣を歩いていた、綺麗な女学生。
ガラスに映った自分。
——とてもじゃないけど、太刀打ちできない。
そう思ったから。
でも。
それを、そのまま言うのは。
「……別に」
「別に?」
「なんとなく……」
「ふーん」
あゆみが遙を見る。
成美も見る。
「……なに?」
二人が顔を見合わせた。
「男?」
「……」
「男だ」
「男だね」
「なんでそうなるの」
「だって急じゃん!」
「先週まで全然興味なさそうだったのに」
「……」
「いるんでしょ?」
「何が」
「気になる人」
「……」
また。
黙ってしまった。
土曜日。
『その友だちにも相談すればいいじゃん』
中学生に言われた言葉を思い出す。
遙は、目の前の二人を見る。
友だち。
まだ、その言葉を口にするのは少し恥ずかしい。
でも。
「……気になる人は」
小さな声で言う。
「いる」
「いるんじゃーん!!」
「ちょっ……声大きい!」
慌てて二人を止める。
周りのゼミ生が何人かこちらを見た。
「ごめんごめん!」
「で!? どんな人?」
「同じ学部?」
「何回生?」
「ちょっと待って」
「いつ知り合ったの?」
「だから待ってって!」
質問が一気に飛んでくる。
遙は困りながら。
でも。
少しだけ、笑っていた。
こういうのも悪くない。




