初めての講義
まだまだ暑い日が続いていた。
大学生活が始まって半年。
一回生でも周りには、いつの間にか仲の良いグループやペアができている。
中には、もう付き合い始めたカップルもいた。
キャンパスは、学生たちの話し声で賑わっている。
そんな中、金田遙は——
入学してから、特に誰かと親しくなることもなく過ごしていた。
大学デビューをすることもなく、服装も落ち着いている。
メイクだって、ほとんどしない。
勉強をしに大学へ来ている。
それで十分だった。
(私には、オシャレもメイクも必要ないし)
そう思っていた。
月曜日から木曜日までが過ぎる。
そして、ついに金曜日。
遙が履修登録をした、情報開発演習Ⅲの日がやってきた。
教室は、大講義室。
時間が近づくにつれ、学生たちが次々と入ってくる。
必修ではない上に、全学部対象の講義なので知らない顔ばかりだった。
大半の学生は、後方の上段に集まっていた。
友達同士で話しながら、講義が始まるのを待っている。
その中で遙は——
前から二番目。
出口寄りの席に、一人で座っていた。
(前の方が、先生の話も聞きやすいし)
ただ、それだけの理由だった。
講義開始の五分前。
例の代表取締役社長——花沢先生が、学生支援課の職員と一緒に入ってきた。
二人で何やら話しながら、講義の準備を始めている。
遙は、その姿をちらりと見る。
(あの人が、大きな会社の社長か……)
思っていたより、若い。
40代前半くらいだろうか。
いや、30代と言われても納得するかもしれない。
そんなことを考えていると——
いつの間にか、遙の隣。
一つ席を空けたところに、男子学生が座っていた。
ちらりと横を見る。
自分とは、少し違う雰囲気の男性だった。
すると、後ろから声が飛んできた。
「秀平! 後ろ空いてるぞ!」
どうやら、秀平という名前らしい。
「俺、ここで受けるわ! コンタクト忘れた!」
そう言って、片手を上げる。
そして——
メガネをかけた。
(……メガネあるなら、後ろ行けばいいのに)
遙は、心の中でそう思った。
やがて、講義開始の時間になる。
教室が少し静かになった。
遙は、教壇の中央に立つ花沢先生へ視線を向ける。
その隣で。
秀平が、遙の横顔をちらりと見た。
——遙は、それに気づいていなかった。




