あの日から始まった。
大学一回生、後期。
夏休みが終わり、大学にも少しずつ学生たちが戻ってきていた。
学内にある、学生が自由に使えるパソコンルーム。
金田遙は、シラバスを片手に受講登録をしていた。
この大学は、都内でも偏差値の高い方に入る大学だった。
文系、理系を問わず、さまざまな学部がある。
その中で遙が選んだのは、経営学部だった。
マーケティングにも興味があった。
けれど、前期に必修科目として受講した簿記や会計学の授業が、思いのほか面白かった。
担当の先生は、大学教授というより、もともと企業で働いていた社会人経験のある先生だった。
実際の仕事の話を交えながら教えてくれる授業は、遙にとって新鮮だった。
そして、いつしか——
いつか経理の仕事をしてみたい。
そんな気持ちが芽生えていた。
(簿記Ⅱと会計学Ⅱは必修じゃないけど、絶対受けたい。同じ先生の授業は、取れるだけ取ろう)
そんなことを考えながら、履修登録を進めていく。
登録を終えて時間割を眺める。
金曜日は、2限と5限だけ。
「……」
思わず画面を見つめる。
2限と5限の間には、3限と4限がある。
大学の1コマは90分。
休憩時間を挟めば、3時間以上が丸々空くことになる。
(間、空きすぎ……。もったいない)
できることなら、3回生、4回生になるまでに、取れる単位はなるべく取っておきたい。
そんなことを考えながら、もう一度シラバスを眺めていると——
ふと、目に留まった講義があった。
金曜日3限
『情報開発演習Ⅲ』
担当講師。
外部講師 ABCD証券株式会社
代表取締役社長 花沢実
「……え?」
思わず画面に顔を近づける。
(なにこれ?)
証券会社の社長。
しかも、代表取締役。
(こんな大手の社長が、わざわざ毎週大学に講義しに来るの?)
さらに気になることがあった。
情報系の講義なら、普通はパソコンルームのある棟で行われる。
ところが、この講義の教室は——
200人収容の大講義室。
大きなホワイトボードを中心に、階段状に机と椅子が並んでいる教室だった。
(情報開発演習なのに、ここ?)
何をする授業なのか、いまいち想像がつかない。
しばらく画面を眺める。
「……まあ、いいか」
遙は、受講登録のボタンを押した。
このときの遙は、まだ知らなかった。
この講義が、自分の人生を大きく変えることを。
——いや。
正確には。
この講義をきっかけに、自分自身が変わっていくことを。
そして、その変化の先で。
自分の人生に深く関わることになる、一人の男性と出会うことを。
こんにちは。
名無しのkikoです。
働く私たち。と、恋の話。の登場人物、金田遙のスピンオフ作品です。
大学時代の懐かしい、淡くて、焦ったくて、若い(笑)恋の話を楽しんでもらえると嬉しいです。
不定期更新となります。
よろしくお願いします。




