友だち、できた?
水曜日。
教室に入ってきた金田遙を見つけて、石田あゆみと川田成美が手を上げた。
「金田さん! こっち座ろ!」
「……え?」
思わず、自分の後ろを見る。
「金田さんだって!」
「あ……うん」
二人のところへ向かい、隣の席に座る。
「おはよう! 金田さん、昨日よりめっちゃいい!」
席につくなり、さっそくメイクの話になった。
「ほんと?」
(……嬉しい)
「うん。でも鼻の横!」
「……また?」
「そこ、ファンデ溜まりやすいんだって」
「難しい……」
「最初はそんなもん!」
そんなやりとりをしていると講師が入ってきた。
三人は自然と会話をやめ、揃って前を向いた。
木曜日。
経営学部の必修科目『英語Ⅱ』。
この講義も、あゆみと成美と同じクラスだった。
遙が二人のところへ行くと、さっそく顔を覗き込まれる。
「お、薄くなった!」
「昨日、家で練習したから」
「真面目か!」
「……悪い?」
遙は黒縁のメガネを、くいっと上げる。
「褒めてるって!」
三人で笑った。
メイクの話だけではなかった。
講義のこと。
課題のこと。
教授のこと。
大学の近くにある店のこと。
少しずつ。
本当に少しずつだけれど。
遙は二人のことを知っていった。
二人も、遙のことを知っていった。
(あれ……)
ふと、思う。
(私、友だちできた……?)
そう思った途端、なんだかむず痒くなった。
秀平に出会わなければ。
メイクをしようなんて、思わなかった。
メイクを始めなければ。
あゆみと成美と、こんなふうに話すこともなかったかもしれない。
一つのきっかけから。
今まで閉じていたものが、少しずつ開いている。
そして、金曜日。
鏡の前。
下地を薄く伸ばす。
ファンデーションも、つけすぎない。
教えてもらったように、首との境目も確認する。
最後に、黒縁のメガネをかけた。
鏡を見る。
(……うん)
まだ、上手とは言えない。
二人に見せれば、きっと直すところを見つけられる。
それでも。
月曜日の朝よりは、少しだけ自信を持って鏡の中の自分を見ることができた。
今日は金曜日。
3限の『情報開発演習Ⅲ』。
いつもの時間より、少しだけ早く講義室に入る。
そして。
“いつもの席”に座った。
なぜだろう。
落ち着かない。
(連絡先……聞けるかな)
今度こそ。
聞こう。
そう思えば思うほど。
ドク、ドク、と。
胸の奥で、鼓動が速くなっていった。




