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あなたの隣に立てますか?

月曜日、2限。


金田遙は、いつもより早く校舎に来ていた。


金本秀平に、連絡先を聞くために。


入り口を入って正面にあるベンチへ腰掛ける。


(ちゃんと……聞けるかな)


何度も頭の中で言葉を考える。


——連絡先、教えてもらってもいいですか?


いや、突然すぎる。


——この前聞き忘れたんですけど。


何を聞き忘れたんだ。


考えれば考えるほど分からなくなる。


ドクドクと、心臓だけが大きな音を立てていた。


「……あ」


遠くに、秀平の姿が見えた。


立ち上がりかける。


けれど。


隣にいる人を見て、遙の動きが止まった。


知らない女学生。


反射的に、柱の陰へ隠れた。


二人はそのまま、エレベーターの前で立ち止まった。


会話が途切れ途切れに聞こえてくる。


実験。


データ。


教授。


聞き覚えのある言葉がいくつかあった。


(……これ)


金曜日の4限。


秀平が話してくれた研究のことだ。


遙にはほとんど分からなかったその話を、彼女は当たり前のように秀平と話している。


(同じ工学部なんだ……)


そういえば。


(工学部って、もっと男子学生ばかりだと思ってた)


改めて、その女性を見る。


綺麗に整えられた髪。


自然なメイク。


服装だって、自分とは全然違う。


ふと、近くのガラスに映った自分が目に入った。


(……私)


日焼け止めしか塗っていない。

眉は整えている。

黒縁の眼鏡。


それだけ。


もう一度、彼女を見る。


それから、自分を見る。


(……無理)


とてもじゃないけど、太刀打ちできない。


『ブス』


ずっと昔に言われた言葉が、不意に頭の奥から浮かんだ。


(……違う)


今、誰かに言われたわけじゃない。


分かっている。


あの女性だって、何も悪くない。


秀平だって、何もしていない。


それなのに。


(……嫌だ)


胸の奥が、ざわざわする。


何にこんなに心を乱されているのか、自分でも分からなかった。


ただ。


あの人の隣に立っている自分を想像したとき。


急に、恥ずかしくなった。


結局その日は、連絡先を聞くどころか。


秀平に声をかけることすらできなかった。


*


帰宅後。


遙はパソコンの前に座っていた。


「大学生 メイク 初心者」


検索。


「ナチュラルメイク やり方」


検索。


サイトやブログを読み、YouTubeでメイク動画を見る。


下地?


ファンデーション?


コンシーラー?


(……何が違うの?)


動画を何本か見て、手順はなんとなく分かった。


でも。


何を買えばいいのかが、まったく分からない。


遙はそのまま、近所のドラッグストアへ向かった。


化粧品売り場。


(……多すぎる)


商品を一つ手に取る。


裏を見る。


戻す。


隣の商品を取る。


また戻す。


(分からない……)


「何かお探しですか?」


突然声をかけられ、遙は振り返った。


化粧品売り場のビューティーアドバイザーだった。


「あの……」


少し迷う。


「メイクを……したくて。でも、何を選べばいいのか分からないんです……」


すっかり肩を落とした遙を見て、女性の表情がぱっと明るくなった。


「ぜひ、お手伝いさせてください!」


「……お願いします」


遙は勧められるまま椅子へ座った。


一つひとつ商品の説明を聞きながら、実際にメイクをしてもらう。


そして。


「はい。こんな感じです」


鏡を渡された。


遙は、自分の顔を見つめた。


「……これが、私?」


肌がいつもより均一に見える。


目元も少しだけはっきりしている。


唇にも、ほんのり色がある。


でも。


ちゃんと自分だった。


「もともとお肌も綺麗ですし、眉も整えていらっしゃるので、そんなに難しく考えなくて大丈夫ですよ」


女性が鏡越しに笑う。


「メイクって、全部しなくてもいいんです。最初はベースだけ練習して、慣れてきたらアイシャドウやリップを足していくのはどうですか?」


「はい!」


思わず、いい返事をしてしまった。


(……なんで私、弟子みたいな返事してるの)


恥ずかしくなって、顔が熱くなる。


結局その日は、使ってもらった下地とファンデーションだけを買った。


店を出る。


小さな紙袋を持ったまま、遙は歩いた。


頑張ってみよう。


少しだけ。


今まで知らなかった自分を、知ってみよう。


いつか。


あの人の隣に立ったとき。


自分から俯かなくてもいいように。


まだ。


気づいているようで、気づかないふりをしているその感情に、名前をつけないまま。

こんにちは。

名無しのkikoです。

私もメイクを始めたのは大学3回生の頃からでした。

最初はどうしたらいいのかわからず、自分で雑誌を見たり、YouTubeを見たり。現代ほど情報がなくて、手探りの日々でした。

でも、メイクをして整えるのが楽しくて、友だちからもメイクについて聞かれるようになってすごく嬉しかったのを今でも覚えています。


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