九 間に合わせの婚約者
それからちょっとしたパーティが始まり、僕達は側にバルモア伯爵とミローネ公爵を引き連れ挨拶に回った。
「ほう、貴方があのバルモアの……。いえ、おめでとうございます。精霊神の御心のままに」
ほとんどが型通りの祝いの言葉だった。
彼らが皮肉を言おうとしても顔面の圧が強い公爵と圧力がある微笑みの伯爵がダブルブロックしている状態だった。
あまりに守られすぎてなんだかなと思いつつ、やがて、お二人は陛下に呼ばれて僕らから離れてしまった。
圧力のある方々がいなくなると途端に囲まれた。主に公爵令嬢の方に集まっていた。
ついでに僕は通りすがりのウエイターからオレンジジュースをいただいて一気飲みした。緊張して喉が乾いていたからね。
そこにあのザンネン王子、いや、ザネンザ王子殿下がやって来た。すると周りの方々は野次馬見物とばかりに距離をとっていた。この素早さが高位貴族社会を生き残る術なのかもしれない。
王子は僕を無遠慮に眺め、
「へえ、ひょっとしてお前はあの時の奴か? 急ぎの間に合わせの相手だから随分身分が低いな。ははっ。まあ、所詮お前にはそれぐらいが相応しいぞ。メリアーナ。それにしても、こんな短期間に婚約するとは、ひょっとして以前からお前の方こそいろいろと身体の付き合いでもあったのではないか?」
下卑た笑いを浮かべたザネンザ王子殿下は本当に王族かと疑問に思うほど酷い顔だった。
「王子殿下、そのような下品なご質問にはお答えできませんわ」
「ふん。私には指一本触れさせなかったくせに。その割には下級貴族のモノをさっさと咥えこむのか。このメス猫め!」
僕らの周りで集まっている見物客が聞き耳を立てて見守っているのが分かる。
このままではいけないと僕はメリアーナ公爵令嬢と王子殿下に割り込むように話しかけた。
「ザネンザ王子殿下。以前、学園ではお話する機会はございませんでした。だから、こうして改めてお話するのは初めてであります。ですから、ぜひお聞きしたいことがありまして……」
「は? 私はメリアーナと話している、お前と話す必要など……」
王子の拒絶の言葉にかぶせるように僕は話し出していた。
「あの時のトゥイティ・バロー男爵令嬢とザネンザ王子殿下はその後どうなったのですか? きっと僕達みたいに婚約をされたのでしょうね。あれだけお二人は親密でしたから、僕達よりきっと先に婚約なり、式もお急ぎにならないといけませんよね!」
僕の声は周囲によく響いた。見物人までよく聞こえたようだった。少しのざわめきがあり、次の言葉、つまりザネンザ王子殿下からの言葉を待っているようだった。
でも、ザネンザ王子と何故かメリアーナ公爵令嬢も一瞬固まっていた。
ちょっと地雷すぎた? でも本当に二人のその後はお聞きしてないから分からないしね。こうなった原因なのにさあ。
黙り込んだザネンザ王子に僕はさらにお聞きしてみた。
「でも、バロー男爵令嬢はいろいろな貴族令息と、とても仲良くしていたみたいでその証とやらを戦利品として、学園の皆に見せびらかしていましたよ。だから、そんな男爵令嬢の彼女と懇意になさる王子殿下は逆に凄いなあと、さぞかしお心の広いお方だろうと常々感心していました」
僕が話している途中ザネンザ王子殿下は顔色が蒼白、更に真っ赤にして、そのうち紫がかってきた。僕はさらに続けようとしていると、何故か公爵令嬢に引き止められた。
「ラスティ様。ちょっとお待ちなさい。あなた、もしかしてお酒を召し上がってない?」
「そんなことはしませんよ。さっき、オレンジジュースをいただきましたけど。グラスは四角でオレンジの実が付いていました! 美味しかったです!」
どうして僕はここまで話してしまったのだろう? まさか……。
「分かりました。ラスティ様。あなたはそのお口を閉じてわたくしをしっかり見ていなさい」
「はい!」
僕はそう答えるとただただ美しいメリアーナ公爵令嬢の横顔を見惚れていた。
「ザネンザ王子殿下にあられましては、各国間と我が国の利益のために他国に留学し見識を高めるという崇高な使命を受けられたそうで、この度はおめでとうございます」
メリアーナ公爵令嬢の声は令嬢にはやや低めだがよく通る美声でザネンザ王子殿下に話しかけた。
「あ、あ、そうだな」
メリアーナ公爵令嬢の言葉に押された感じで、残念王子、いやザネンザ王子が大きく頷いた。
「ですが、わたくしは残念なことに王国の公爵のただ一人の後継ですわ。ですから、見識を高めようとするザネンザ王子殿下を何年でもお支えしたかったのですが、わたくしはこの王国での筆頭公爵家の後継ぎ、公爵の存続繁栄に尽くさなければなりませんわ。それもまたわたくしにのみに託された尊い使命だと思っております」
そして、メリアーナ公爵令嬢は僕の方を見遣り、またザネンザ王子殿下に向き直った。
「そうしていたところ、ラスティ様とは以前から学園でお話を何度かしており、その度に聡明な方だと思っておりましたの。今回の事で彼が快く公爵家の婿入りを承諾していただいてわたくしも助かっております」
え? そんな話でしたっけ?
公爵令嬢のスラスラ出てくるお話にザネンザ王子殿下も気を取り直したようだった。
まあ、彼女の言葉には嘘もない事実だけだけど。
周囲もすっかりそれに聞き耳を立てていた。
さっきの失言は忘れてくれたかな……。
「ふ。ふん。そなたも次代女公爵として、しっかり王国を支えていくがよい。私も王子として他国で、見聞を高めるという重要な任務があるのだ」
ザネンザ王子殿下はそう言って忌々しそうに僕らから離れていった。
「凄いですね。さすが才色兼備のメリアーナ公爵令嬢。王子にぐうの……」
「さあ、もうよろしいでしょ。ラスティ様。あちらで少し涼みましょうね」
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酒は飲んでも飲まれるな




