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婚約破棄の原因となってしまった令息  作者: えとう蜜夏


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四 家族の団欒

 公爵令嬢だけがお帰りになり、明日に迎えに来てくれるということで、家族だけになると母上がしみじみ僕を見ていた。

「あなたはちょっとぼんやりしていた子だから、婚約者が決まらなくてねぇ。だから、こんなに早く出て行ってしまうとは思わなかったわ」

「確かにそうですね。でも、まだ兄上さん達が……、上の兄上の婚約が決まったくらいですし」

 僕ってそんなにぼんやりしていたかな? 寧ろ走り回っていたと思うけどな。

 それに女の子と話したくてもいつも社交はお祖母様の関係や母や妹のお相手をさせられていたのだけど。

 僕はこれから公爵家に行って花婿修行とやらをすることになるのか。

 急いで身の回りの物を母上に手伝ってもらって準備をした。その間に母上から婚約の事情について社交界での話をお聞きした。

 そもそも、公爵家は幼少期に王家からザネンザ王子の婿入りについて再三の打診があり、公爵家側は公爵夫人の喪中などといろいろと理由を付けて先延ばしにはしていたけれど、数年前にいろいろな条件で婚約し、令嬢が王立学園を卒業した半年後に結婚式を挙げる予定だったそうだ。

 だけどザネンザ王子のやらかしでそれはなくなった。

 それでも公爵家は予定を変えるつもりはないので、あの場にいた僕はザネンザ様の代わりに婿入りとなった。

 要は花婿の首をすげ替えただけだ。

 僕らは学園をもうすぐ卒業するので式まであと半年。

 僕はそれまでの間に公爵家で上級貴族のマナーや執務のカリキュラムを大急ぎで詰め込むことになる。それがどういうことか流石に分かるので冷汗が止まらない。

 実感がなさすぎて、もう笑うしかないよ。

 今朝、学園の寮で寝ぼけていたところを叩き起こされて、王宮に連れて行かれた時はまさかこんなことになるとは思いもしなかった。

 そうそう、寮の荷物も引き上げなきゃ。

 僕が通っていたこの国の王立学園は入学が許されるのは基本、貴族子弟のみ、十五歳前後で入学し、三年間程度通い卒業することになっている。

 そして、この国は十八歳で成人扱いされるので学生の途中で成人を迎えることとなる。貴族令嬢はそれまでに婚約や結婚するので自主退学や飛び級で卒業する方もいる。単位制のようなものかな。単位制って? 何だっけ……。

 まあ、貴族の社交には他にも夜会やお茶会もあるけど僕みたいに婚約者がいない者には学園は貴族子女の貴重な出会いの場ともなっていた。

 大貴族や上級貴族は幼少期に内々に婚約をしているのが普通らしいけどね。

「あとは、またおいおい取りに来るよ」

「それより、公爵家で慕えてくれると思うわ。うちの仕立てでは……」

 夕食の席では就職して王宮に行ったケビン兄さんも帰ってきていたから、久しぶりに家族揃ってのにぎやかな夕食を楽しめた。

「お前も成人したのだから、お酒を一緒にどうだ?」

 にやにやしながらケビン兄さんが蒸留酒とか、やたら強いお酒を勧めてきた。

「やめてください。ちょっと冗談がきついよ。兄さん」

 げんなりした様子で僕が応えるとそれ以上は勧めてくることはなかった。

 あの時のことを詳しくというので、王太子殿下に申し上げたよりややセリフはオブラートに包んで話して見せた。

 途中からケビン兄さんは腹を抱えて笑っていた。父とアルベール兄上は渋い顔をして聞いていた。

「ふむ。お前の記憶はそこまでか」

「はい。ですから、どうやってこうなったのか」

 父から王宮からの使者から話されたこを説明してくれた。

「私がお聞きした話では、お前は第二王子と話した後、床に倒れて、公爵令嬢へ、賛美の歌を高らかに歌ったそうだ。令嬢はその歌を感極まって聞いていて、その姿を気に入らなかった王子が令嬢に乱暴をしようとしたので、お前と店の客と護衛らに止められたと。ああ、お前は王子の足に縋って、王子から蹴られても、ご令嬢の国宝級の美を傷つけるなとか散々喚いて離れなかったとか。……それに最後にはできるなら自分が婚約して、ご令嬢の盾となり、お守りしたいとも叫んだそうだぞ」

「ええっ!! そんなことまで……」

 ……僕の本音が駄々洩れじゃないか。そんなことまで言っていていたのか。でも、全然覚えてない。

 ずんと落ち込んでいるとアルベール兄上がやや満足げに僕を励ましてくれた。

「だが、王子に足蹴にされてもご令嬢の名誉とお体をお守りしたのは間違いない。公爵家と王家から感謝のお言葉もいただけたのだ。お前のしたことは間違っていない」

「兄上……」

 優しい言葉にちょっと涙腺が緩くなっちゃったよ。

 ケビン兄さんがにやにやした笑いを浮かべて隣から僕を冷やかした。

「もしかして、公爵令嬢はお前の初恋の人だったりして?」

「兄さんは黙っていて」

 僕はじっとケビン兄さんを睨んだ。

「でも、正直、そこのところはお酒のせいもあって、よく覚えてないけど自分の思っている通りのことだからまあ……。それよりさ、不敬罪で一族郎党を処刑とか処分されると思っていたよ。あはははは」

 父上は僕の言葉に大きくため息をついた。

「当り前だ。一歩間違えていればそうなっていたぞ。最初、王宮からの知らせに何事かと思った。本当に」

「すみません。ごめんなさい」

 僕はひたすら頭を下げた。

「ああ、それから流石に子爵家から公爵家に婿入りというのはやはり受け入れられないだろうから、お前はバルモア伯爵家の養子になってから婿入りすることになったからな」

「は? バルモア伯爵家というと母上のご実家の、ですか?」

「ええ、さっそくお母様から是非にとお話があったのよ」

 母上が頬に手を当てため息をついた。父上が母上を見て頷きながら続けた。

「仕方あるまい。我々は気軽に王宮へ参ることは出来ぬから、いざという時にお前を守ってやれない。だが、バルモア伯爵家ならばいつでも王宮に入ることができる。更に義母殿なら王宮のプライベートゾーンまでノーチェックだ」

「そうね。安心だわ」

「それって、お祖母様がアレだったからですよね」

 お二人を見ながら、僕は母方の祖母を思い浮かべた。

 うちも滅茶苦茶なカード切ってきたよ。それは反則だよね。

「それを公爵家はご存じなのですか」

「もちろんだ。向こうから申し出があった」

 ――ああ、ですよね。上級貴族の繋がりがあるでしょうからね。じゃあ、ご存知なら、まあいいか。 

お読みいただきありがとうございます!

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