十七 結婚式並びに継承式と陰謀の陰
いよいよ結婚式の日、早朝から起こされ、磨き上げられた。
前日の夜会があったけれど意外と疲れてなかった。
アンナマリア皇女殿下の精霊神教国への僕が婿入りというとんでもない話で精神を削られたけどね。
公爵家の威信をかけて磨き上げられた僕のところに、これまたとんでもなく美しいメリアーナがしずしずと使用人に囲まれてやってきた。
「綺麗だよ。メリアーナ。言葉もでないよ」
「ふふ。ラスティも素敵よ」
彼女をエスコートしようと近寄る。いつものドレスよりレースや衣が増量しているから、気をつけて支えてあげないとね。
「今日を乗り越えれば……」
乗り越えても、公爵家の執務、社交、どれだけあるのだろう? ははは。笑っちゃうしかないよね。
まあ、僕は二徹くらい、平気だよ。
頑張れば三徹、二時間睡眠ならひと月か二月くらいは、……あれ、なんだかちょっと鼻先がつんとするな。
きっと結婚という晴れ舞台に感動しているからかな。
メリアーナと一緒に公爵家の馬車に乗って、会場へ向かった。
公爵は先に会場に赴かれ、舞台の確認と代々伝わる錫杖をお持ちになっている。
それは公爵ご本人と後継ぎしか触れないという。
もちろんケースに入れているから他の人も持ち運びはできるけれど無くなると大変だからね。
王宮前の精霊神教会の会場では既に多くの参列者が待っていた。
僕らは司祭長の祝いの言葉で入場した。
司会進行は王宮の司祭長で、誓いの祝詞を上げるのは精霊神教会の神官長相手だった。
二人で一緒に大きな精霊神像の前まで歩いていく。
周囲に招待客が座ってこちらを静かに見守っている。
各高位貴族の当主や後継者が参加していて、後は各国の来賓とか……。
その時、視界の端にお祖母様も見かけた。ずっと海外に行っていたと聞いていたので、お戻りになったのだと僕はほっとしてつい口元に笑みが浮かんだ。
アンナマリア皇女殿下も来賓の真ん前で座っていた。ちょっと不満そうだったけど。
『この若き二人に尊き精霊神の祝福があらんことを……』
神官長が演台から僕らに向かって、祝福を与える作法を行った。
精霊古語特有の長い修飾語が続いて、僕らも同じように精霊古語で誓いの言葉と祝詞を上げた。
この日のために頑張ったので、特に問題もなく読み上げた。
ザネンザは王家の席だから、ちょっと顔が見えたので顔を赤くしたり青くしたりしていた。まるでリトマス試験紙みたいだった。あれ? なんだっけ。
淀みなく二人で誓いの言葉を言った後、参列者に向かって二人で礼をした。
「この良き日、素晴らしい祝福の日に、お二人は尊き精霊神へ誓い、ご夫婦となりました。皆さまも拍手で祝福をいたしましょう」
司祭長からの言葉で、祝福の拍手が教会を満たした。
メリアーナが目元に涙を浮かべていた。
ああ、これでやっと……。
僕は手袋をしていた手で彼女の目元をそっと拭ってあげた。彼女は驚いたようだけど口元に笑みが浮かんだので、良かったのだろう。
ザネンザ王子殿下はそんな僕らを忌々しそうに睨んでいた。
メリアーナの素晴らしさが分かって、手放したのが惜しくなったって無理だからね! ふふん。
僕はメリアーナをエスコートして、会場を出た。
その後、メリアーナは儀式のために着替えなければならないので大変だ。
控室まで送っていくと、中で待機していた使用人達はメリアーナの儀式用の服を抱えて準備万端だった。
「じゃあ、後でね」
僕は控室に向かった。僕も結婚式の服から式典用の服に着替えた。僕は見学だからね。
会場も慣れているのか、席を移動して精霊神像の前には舞台ができていた。
ミローネ公爵家が主賓なので舞台に近い席を用意されていた。僕はそこに座った。
公爵は舞台の最終確認をしていた。
それからメリアーナが司祭らに連れられて、錫杖を持って舞台に上がった。
『それではこれからミローネ公爵家に伝わる後継者の儀式を始めます。尊き精霊神に認められ、ローダニア王国の繁栄に益々貢献されるように』
これもまた長い修飾語句を付けられて司祭長から読み上げられた。公爵と司祭長は舞台から降りて、メリアーナは舞台で一人になった。
メリアーナは美しい一礼をした。
それから曲と共に錫杖を大きく振って舞い始めた。
随分、練習したよね。
つい、僕も所作の美しさと彼女の努力を思い出して涙ぐんでしまった。
すると舞台に近い王家の席でザネンザ王子殿下が嘲笑うように、
「ふん。所詮、メリアーナごときが、失敗するさ」
僕は看過することができず、つい立ち上がってザネンザ王子殿下に詰め寄ってしまった。
「それはどういうことでしょうか?」
「私を馬鹿にするような女は生意気だ。お前もな。なあに、こんな大舞台でちょっと踊りを失敗すれば、あいつも泣いて謝ってくるだろう」
「何だと?」
僕は不敬罪になるかもしれないけれど、ザネンザ王子殿下の胸倉を掴み上げそうになった。
するとややざわめきが聞こえてきて、舞台を見遣るとメリアーナが舞台の上でふらついていた。
「やっと睡眠薬が効いてきたみたいだな。なあに、ちょっと舞台で眠るくらいだ」
ザネンザ王子殿下の言葉は周囲にも聞こえていた。
すぐさま、王太子殿下、国王陛下がザネンザ王子殿下を拘束するように衛兵らに指示を与えた。
「どういうことですか? 父上! 兄上! 私はあの女に馬鹿にされたんですよ? 王子である私を見下して」
「神聖な儀式の妨害をするとは……、最早庇うことはできん」
「そんな!」
ザネンザ王子がこの式典を妨害するということは、ミローネ公爵家の後継者を王家がないがしろにしたということだ。王家と公爵家が敵対してもおかしくない大変なことなのだ。
それに精霊神教会の儀式までも穢したとなると精霊神教国が黙っていないだろう。
だけど儀式は続いていた。
途中で止めることは、メリアーナがミローネ公爵家の次期後継者として認められないことになる。
あれだけ頑張ったのに。
「メリアーナ!」
僕は彼女に向かって走り出していた。
ナンバリングを間違えていましたので直しました。
お読みいただきありがとうございます。
次話で、最終回を迎えます。何とか最後まで走れました。




