十六 来賓のおもてなし
僕らは婚約の披露の後、結婚式の準備に大忙しだったので社交はあまりできていなかった。
やっと式も前日になり、なんとか形になりそうになってきたとほっとしていた。
そして、僕らの結婚式に参列するために集まった来賓をもてなすための夜会が王宮で開かれることになっていた。
僕とメリアーナも、もちろん出席する。
僕らはお互いの色で仕立てられた衣装に身を包み王宮へと向かった。
ちょっと恥ずかしいかも。
王宮では盛大なパーティが開いてくださった。まるでザネンザ王子殿下とミローネ公爵家の婚約解消などなかったことみたいだった。
国王陛下や王国の上位貴族と僕らの挨拶が済み、来賓たちの紹介も終わりに近づいたところで見覚えのある少女が進み出た。
「本日は尊い精霊神教国の後継者であるアンナマリア皇女もこの結婚式の席にいらしてくださった。素晴らしい精霊神のご加護を得られることであろう」
国王陛下から紹介されたのは銀髪ストレートのこれまたキラキラ輝くような少女で精霊神教会の神官長の正装を纏っていた。
僕は思わず呟いていた。
「アンナマリアじゃん」
「……ラスティ様はご存じなの?」
僕の言葉が聞こえたのか、メリアーナが尋ねてきたので僕は小声で返した。
「あー、ええと、その、妹のような、幼馴染というか、親戚の子のような感じの子です」
「そう。そんな伏兵がいらしたのね」
そんな意味不明なことをメリアーナは呟いていた。
いや、妹より下ですよ?
アンナマリア皇女殿下とはお祖母様とお知り合いで、確かに何度か遊んだことがあるけれど相手は子どもだからね。最初はそんな高位のご令嬢とは思わず普通に遊んだよ。妹みたいにね。
それにアンナマリア皇女殿下は大陸の最大派閥の宗教の次のトップとされている子だから、僕とどうこうなんて考えてもみたことない。
精霊神教国の総元締めであらせられる大神官長にはアンナマリア皇女殿下しかお子はいないし、あの国は長子相続制度をとっているから、男女は関係ないのでアンナマリア皇女殿下が必然的に次代の教国の大神官長になる。
それぐらいはお聞きしていた。だから、失礼のないように、当たり障りのないように接していた。
それから、一通り紹介を終えると自由に歓談をとなった。
僕らのところに挨拶に人が集まってきた。
主にメリアーナの方だけどね。ははは、いいけど僕は添え物だから。
手持ち無沙汰だったので周囲を見渡すと、アンナマリア皇女にザネンザ王子殿下が近寄っていた。
今度はアンナマリア皇女殿下に失礼なことをするつもりかとちょっと気になって見ていたら。
ザネンザ王子殿下が彼女に何かを話しかけているようだった。それにアンナマリア皇女殿下が何かを答えていたようだが、ザネンザ王子殿下はしどろもどろになっていた。
あ、ひょっとして、ザネンザ王子殿下が大陸共通語をできないって本当だったのかも。
アンナマリア皇女殿下が精霊古語の方で話したら、まず会話さえも成り立たない。
するとアンナマリア皇女殿下が僕の視線に気がついたのか、こちらに近寄ってきて、僕の胸を指先で突いた。
ちょっとそれは止めてよね。いろいろと誤解されるから。
『ラスティ! もう、最近、連絡がないと思っていたら、いきなり結婚ですって?』
彼女が話したのは大陸共通語だった。うん。やっぱり、ザネンザ王子殿下は共通語も理解できないみたいだ。
『ああ、ごめん。急に決まっちゃって』
『もう、ラスティは卒業したら、うちにお婿さんに来てくるって約束だったじゃないの』
は? そんな約束してないけど? 勝手に言われると困るよ。メリアーナに聞こえて勘違いされたら……。
するとやっぱり、僕らの周囲がざわつきだした。
ここに集まっているのは上位貴族とか各国要人だから、大陸共通語なら通訳なしでも聞き取れる方々が多いようだった。
とにかく僕は周囲にこれ以上誤解を与えないようにしないと。
『そんなお約束はしておりません。アンナマリア皇女殿下。外聞が悪いのでそういったことは冗談でも止めましょう』
僕は幼い子を諭す気持ちでアンナマリア皇女殿下にお話しした。
僕から見ればアンナマリア皇女殿下はお祖母様のところで会ったことのある女の子だ。そもそも僕より四つも下だから、今でも子どもだよ。
僕にとってはもう一人の妹のようで、それに妹より下なんだからね。
親戚の子のような感じなんだよ。それ以上でも以下でもない。
アンナマリア皇女殿下に相手にされなかったザネンザ王子殿下は未練がましく彼女の後をついて来ていた。
僕らが普通に仲良く会話していることに憤慨した感じで、割り込んできた。
「おい、お前! お前ごときが、尊い精霊神教国の皇女と仲良く話すことなどありえない! それに何を話しているんだ!」
「あ、ええと。お分かりでなかったようですね? でも、おそらくこの場でご理解されていないのは王子殿下だけじゃないかと」
控えめに言ったつもりだけど、ぷぷっとアンナマリア皇女殿下が吹き出してしまった。
周囲からもクスクスといった笑いが聞こえる。ザネンザ王子殿下は顔を真っ赤にして黙り込んだ。
『ラスティってば、そんなことを言ったら、この王家の血だけの王子がますます可哀そうよ』
それの方が……、ものは言い方だよね。
周囲の高位貴族の中に顔を隠して肩を震わせている方も結構見られたので、分かっているんだろうねぇ。
僕は残念、いや、ザネンザ王子殿下を気の毒そうに眺めた。
王子殿下はお怒りの様子で、僕を指差して宣言された。
いや、それは王族としてでもなく、人としてマナーが良くないですよ。
「お前は下級貴族のくせに、生意気だ。不敬罪で処罰してやる!」
『まあ、なんて王子様なのでしょう。自分より有能な者を処罰し、王族なのに大陸共通語や精霊古語もできないのにそれでも王族を名乗れるのね(精霊古語)』
アンナマリア皇女殿下はザネンザ王子殿下に精霊古語でそう言い放ったのだ。
もちろん、ザネンザ王子殿下はご理解できない。
だけど、ご自分が非難されている雰囲気だけは分かったようだ。
『アンナマリアもあまり王子殿下の事を言わない方が良いよ(精霊古語)』
僕は周囲に分からないように精霊古語で応じた。
さすがに精霊古語は難しいのか、周囲の反応はほとんどなかった。
ザネンザ王子殿下はそのことがさらに気に入らないようで拳を握りしめて叫んだ。
「こ、このっ! 処罰してやる!」
その時、王太子殿下の側近である宰相子息が彼の肩を叩いた。
「ザネンザ王子殿下、王太子殿下がお呼びです」
王太子殿下という言葉にザネンザ王子殿下は一気に顔色を変えた。
「兄上が、くっ。分かりました」
ザネンザ王子殿下は渋々、宰相子息に従って去って行った。
『アンナマリア皇女殿下も、要人席に戻った方がいいよ(精霊古語)』
『そうねぇ、ラスティが連れて行ってくれたら良いわ(精霊古語)』
『どうして、僕が……。他の人に連れてってもらってよ(精霊古語)』
『嫌よ。ラスティが良いの(精霊古語)』
そうして腕を組んで来ようとしたのでさすがにそれは阻止した。
『僕はもうミローネ公爵家令嬢と結婚するから前のようにはできないよ(精霊古語)』
『そんな。いいじゃない。エスコートぐらいで、減るものじゃないし(精霊古語)』
減る。気持ちが削がれるんだよ! メリアーナは気にしていないと言いつつよく見ているんだよ。
これがモテ期なのか? 今まで恋人はおろか、婚約者さえいなかったのに。
ちらちらこっちを見ている貴族令嬢から御夫人達の視線がとても痛い。
いや、僕だって、メリアーナ以外は無理だよ。ははは。
だから、メリアーナだけだって、
こちらを見るメリアーナの目の奥が笑ってない。こっちに視線だけを送らないでください。怖い。
途中からミローネ公爵閣下までじっと僕を眺めていたから、本当にもう圧が強い。
「うぬぬぬ。よりにもよってお相手が皇女殿下とは……」
公爵閣下も誤解だからね。そんな事実はないですよ?
僕が困っているのを感じ取ってくれたとても有能な宰相家令息がアンナマリア皇女殿下も来賓席へと誘導してくれたのでほっとした。
「ラスティ」
ひっ。
後ろから少し低くなった声で呼ばれた。気がつけば真後ろにメリアーナがいた。
「ラスティはどうやら精霊古語までもマスターなさっておられたのですね」
「いえ。まあ、少しだよ。ははは」
何故か、僕の言葉に周囲のざわめきが大きくなった。
その一部に視線を感じたらあのイボンヌ伯爵夫人が凄い形相で僕を睨んでいた。
イボンヌ伯爵夫人が凄い形相で僕を睨んでいた。
後、二話で完結します。
よろしくお願いいたします。




