十五 結婚式へのカウントダウン
そんなこんなで慌ただしくしていたら日々は過ぎ、式の前々日となってしまった。
出席される来賓の方々も続々と到着している。滞在先としては公爵家の別邸や他国の要人なら王宮となった。どれだけの要人が集まっているのか、さすが王国一の公爵家と慄いてしまった。
気を引き締めていかないとと思い、結婚式の流れの最終確認をしていた。
衣装も整えられている。予備もいくつか用意済みだ。
結婚式は早朝から支度に何時間もかかり、そこから休みなく、承認式へ、その儀式の舞は半時間ほどもある。そして、教会から一般向けに挨拶も兼ねて街を馬車で一周するらしい。
まるでどこかの王族のような世紀の一大イベントだよね。はは。
これを僕とメリアーナはやり遂げないといけない。
継承式は僕にあまり関係ないけれど、ざっと流れに目を通しておいたよ。
彼女がメインの公爵家の承認式の舞はスローで意外と体力を使う。それに公爵家の錫杖が重い。
僕でさえレプリカを持たせてもらって、ちょっと重いかもとか思った。
ああ、本物は公爵家の金庫に保管されているらしい。そして、それは公爵と次代の者しか触れてはならないそう。気を付けないと僕はうっかり触っちゃうな。
そもそも、女性公爵というのはあまり前例がなく、男性が使用する前提になっているから重いのだろう。
どちらかというと華奢な身体の公爵令嬢にはかなり負担だと思う。
華奢といいつつ彼女の一部についてはとても豊満で、その谷間はとても目の保養になるけどね。
公爵家でも暇があれば舞の練習をしている彼女を見守っているとちょっとふらついたので思わず近寄って支えてしまった。
「大丈夫よ」
彼女が力なく微笑み、僕を押し返そうとした。
「顔色も悪いから、今日はもう切り上げて、お休みになった方が、何なら僕がリハーサルを変わりましょうか?」
僕の言葉に彼女はふっと乾いた笑みを漏らした。
ちょっとご機嫌が悪い?
「だめよ。これは後継ぎのみに許されたものですもの」
それでも彼女は僕に寄りかかりつつ、ぽつりぽつりと話を続けた。
「……不思議ね。ザネンザ王子殿下は王族でありながら、大陸共通語さえ身に付けられなくて、もちろん領地の運営にも興味はなく、領地運営の報告書類の内容を理解できず、王族としての身分を誇るだけだったのに」
彼女の言葉に、ザネンザ王子って、本当に残念な子だったんだと胸の内で呟いた。
「あなたは王宮へ直参もできない子爵家の三男なのに、大陸共通語だけでなく、最も難しいとされる精霊古語の祝詞まで淀みなく歌い上げることができる」
メリアーナは僕の腕を掴みながら、僕を見上げた。そのまなざしは真剣だった。
「あなたは、一体、何者なの?」
「へは?」
突然のメリアーナの問いに僕はしどろもどろになった。
「何者って、その、僕は子爵家の三男で、今は伯爵家の養子ですが、平々凡々の下級貴族の令息ですよ」
僕の言葉にメリアーナはまた薄い笑みを浮かべた。
「あなた、ご自分のことをいつも平々凡々と仰っているけれど、止めた方が良いわ。そもそも最初にあなたと一緒に食事をした時から感じておりましたわ。あなたの食事のマナーは王宮晩さん会でも通用しますもの」
は? そんなものに出席したことはありませんよ?
「それ以外にも下級貴族にはない、品格がありました。だから、お父様もあなたには煩く言わないでしょ?」
「あ、はい。まあ。公爵からはそもそも接触はないので」
「ふふ。お父様は必要のない人間にはとてもシビアですわ。ですから、幼少期からザネンザ王子殿下の婿入りのお話を王家から再三打診されておりましたが、ずっと受け入れておりませんでした」
確かに王家からの再三の打診とかいうのは母上からお聞きしたな。あれってやっぱり社交界でも結構噂になっていたんだ。
「……」
僕は何と言っていいのか分からず押し黙ってしまった。
「あの婚約式の時のダンスも申し分ありませんでした。寧ろ、出来過ぎでしたわ。それにあなたはローダニア大円舞曲も踊れるのですって? あなたはそこまでの冗談を言う人でないことはもう理解しているわ。だからできるのでしょう」
「それは、その、必要に迫られて、その練習したというか。そもそも、お祖母様のお手伝いで……」
「どのような必要があって、子爵家の三男が上級貴族、いいえ、王族並みの教養を身に着けているの? あなたの能力を知れば、どの高位貴族、いいえ、他国の王族も喜んで迎え入れるでしょうね」
「そ、そこまで褒められると、その、むず痒いです。ははは」
僕はぽりぽりと思わず自分の頬を搔くしかなかった。だって、気がついたら身についていただけで。
メリアーナは真っすぐ僕を見つめた。そして、大きく息を吐くと僕の腕をしっかりと掴んだ。
「でも、手放しませんわ。あなたはもうわたくしだけのものです。ラスティ。よろしいですわね」
「は、はい! もちろん」
好きな女の子から告白というか、熱烈な愛の言葉を受けて、さらに押し当てられる彼女の豊満な胸の谷間に僕の目と心は釘付けだった。
「手放すも、ご存じのように僕は今まで婚約者とかもいなくて、モテたこともなく、そんな僕に申し込む奇特な女性はメリアーナしかいませんよ。あはは」
「ふふ。そういうことにしておきましょう。あなたは確かに有能ですが、女心には少し疎いようなので」
「はあ」
心配ないですよ。と内心言っておく。
だって、僕は成人を過ぎても婚約者がいなかったからね!
お読みいただきありがとうございました。
あと少しで完結します。
久しぶりで不安でしたが、なんとか最後まで走れそうです。




