十四 孤独だった公爵令嬢
暫く彼女の寝顔を見つめていると彼女は苦しそうながらも目を開いた。
そして、僕に気がつくと、がばっと顔まで布団を被ってしまった。
え? そこまで嫌われちゃった? かなりショックだな。
「あ、ええと、誰か呼びましょうか? 僕だけじゃ、嫌ですよね。ははは」
僕は乾いた笑いをしながら呼び鈴を鳴らそうとした。
「ち、違いますわ」
僕は動きを止めて彼女を見遣ると、布団から顔を出して、熱で潤んだ瞳で僕を見つめていた。
「嫌なんて、逆ですわ。あなたにもっと、その……、側にいて欲しいのですけれど、恥ずかしいのよ」
彼女の顔は熱だけでない赤みを増しているのが分かるほどだった。
「それって……」
僕は立ち上がりかけた椅子に座り込んで、良かったぁと安堵の息をついていた。
良かった。婿入りのキャンセルをされなくて、いや、キャンセルされた方が良かったのか? いやいやいや。
「良かったぁ。あれから距離を感じていたので嫌われたのかと心配して……、じゃあ、まあ……、その。良いよね?」
何か良いよね? だよ。と自分でも突っ込みつつ、彼女も頷いていたからよしとして欲しい。
だけど、彼女が起き上がろうとしたので、慌てて止めた。
「今日はもうゆっくり休んだ方がいいよ」
「ええ。そうしたいけれど今日の分の決裁書類が残っていたの。だから、執事に持ってくように頼んでいて、今日は先に儀式の練習が入ったから」
「ああ。あれ? 僕の方でちょっと確認して、もう急ぎの分は処理したけど」
「え?」
「急ぎは公爵閣下へ決済をお願いして、執事も確認してくれて、それでいいって……、どうしたの?」
僕の言葉に半身を起こしていた彼女が突然大粒の涙を零したのだ。
そして、しゃくりあげだした。まるで小さな子のように。
「ど、どうして……、そんなことまで、できてしまうのっ。あなたはっ」
涙を零しつつ、彼女はそう言ったので、僕はあたふたしながら、彼女を落ち着かせようとした。
だけど、彼女は僕を振り払うように、首を振った。
「あ、あなたが、い、いけないのよっ」
え! ええ? さっきまでいい感じだったじゃん! どうなっているんだよ。
やっぱ、女の子って分かんねえぇぇ!
彼女は大泣きしたままだったので、僕は頭を抱えて途方にくれてしまった。
「あなたに、そんなに優しくしされると……」
は? 何で優しくされたら泣くんだ? それに別に優しくなんてしてないよ? 普通だよ。僕は平々凡々のごく普通の子爵家の三男坊だから特別なことなんてしてないよ。
「別に優しくとかはしてないよ?」
「だって、お父様だって、お忙しくから、わたくしは、いつも一人で考えて……」
彼女の切れ切れの言葉に何となく察した。
メリアーナ公爵令嬢の生い立ちは少しお聞きしていた。
幼少期に母親、つまり公爵夫人を亡くされて、公爵は夫人を亡くされて、忙しさもアップして、ますます、娘との交流する余裕もなく、公爵家の執務やらマナーについては家庭教師を雇って彼女に無理やり詰め込んだ感じだったとか。
ええい。
僕は彼女をそっと包み込むように抱き締めた。
上の子は甘えるが苦手だとか母上も言っていたからね。
それでついアルベール兄上を思い出していた。いつも渋い顔をしているけど母上に対しては……。
「そうですね。今までお一人で頑張っていましたよね。そんなあなたのために僕も今日は頑張っちゃいました。だから、ご褒美くださいね」
僕のご褒美に言葉に彼女は突然泣くのを止めた。
「……ご褒美ですって?」
「はい。僕の美しいただ一人の恋しい方のために、今日は僕も頑張ったので、メリアーナならどうしたら良いのか分かるよね?」
「た(ただ一人)、こ(恋しい)……メ(メリアーナ)」
うん。驚いているのと言いたいことも十分、分かった。
そして、僕は涙で潤んだ彼女が僕の腕の中から見上げる角度がドストライクに好みなんだとも理解した。
ただでさえ美しい深海の瞳が涙でキラキラ光って潤んでいるんだよ?
それから、柔らかい月の光が降り注ぐ彼女の部屋の寝台の上で僕らはちょっと仲良しになった。
翌日の彼女はまだつらそうだったので、執事に掛け合って、スケジュールはちょっと調整させてもらった。
僕の事を若婿殿呼びになった執事はそれに快く従ってくれた。その代わり執務の処理を仰せつかったよ。ははは。まあ、いいけどね。
え? 僕? 彼女の風邪が移らなかったのかって?
もちろん、彼女は具合が悪かったし、不埒なことなどしていませんよ。ええ、大事なことだから二度言うよ。不埒なことなど、決して。
だけど、僕はちょっと、あらぬ方を向いてしまうけどね。
そうそう、僕は昔から身体はとても丈夫だったよ。だから、風邪くらいなら全然。
誰だよ? 馬〇は風邪をひかないって言う奴は
後、少しです。なんとか走り切りたいと思います。




