十二 結婚式へむけての準備
卒業後、今度は結婚式の準備に大忙しで、公爵とご令嬢が難しいことはこなしてくれていた。
僕は彼らから説明を受けるだけだった。
そして、僕は合間にあの王宮のマナー講習を受けに行った。
もちろん、あのイボンヌ伯爵夫人はいない。
仕方ないので書物を読み、王宮内を散策していると少し気晴らしになる。
ついでにケビン兄さんに会いに行くことにした。
王宮の事務局へ行って、ケビン兄さんを呼び出してもらった。
「よう! ラスティ。婿入り修行を頑張っているそうだな」
「まあまあだよ。そういうケビン兄さんの出世はどう?」
「何だ。生意気なことを言うようになって。兄は悲しいぞ」
どうだかと思いつつ、兄さんとついつい軽口を叩いた。
「でもお前、今はイボンヌ女史からマナー講習を受けている時間じゃないのか? 休憩でももらったのか?」
不思議そうなケビン兄さんの言葉に僕の方が驚いて言葉に詰まった。
「ど、どうして兄さんがそんなことを知って……」
「そんなもの。私の可愛い弟の動向を王宮で探ることなど朝飯前だ。ここは王宮の裏方事務の元締めだ。表の高位貴族の貴族院事務局とは違う本物の実務部隊だぞ」
「……」
誇らしそうなケビン兄さんを見て、僕は前から気になっていたことを尋ねてみた。
「だったら、王宮の予算のこともケビン兄さんは分かるの?」
「そりゃ、その書類を作成する側の部署だから当然だな。我々が作成して貴族院事務局に提出しているぞ。奴らはそのまま読み上げるだけ……」
また長くなりそうなケビン兄さんの話を遮って僕はあることを頼むことにした。
「その、ちょっと調べて欲しいことあってさ」
僕の言葉に、ケビン兄さんは言葉を止めてにやりと笑った。
「お前はいつも面白いことに首を突っ込むところがあるよな。いや、厄介ごとに巻き込まれるのか……」
「ダメかな?」
僕のお願いにケビン兄さんはふうとため息をついた。なんだかんだ言ってケビン兄さんも僕には甘いから多分引き受けてくれるだろう。
「まあ、いいさ。ただし、私はいくら可愛い弟のためとはいえ、不法行為、並びに不正行為には加担しないぞ」
「うん。多分、その逆かな」
「お前……」
ケビン兄さんはどこか残念な子を見るような目をして僕を見た。
そして、僕はケビン兄さんに耳打ちした。
イボンヌ伯爵夫人の僕への講習会回数並びにその報酬額について調べて欲しいと。できれば僕の講習会の時間に兄さん以外の事務官の複数人の立ち合いもお願いしてみた。
「……本当にお前は、まあ、分かった。まかせろ!」
それから僕とメリアーナ公爵令嬢はますます忙しくなって、儀典長という偉い方から結婚式や公爵家継承の作法を教えていただくようになった。
あれからちょっとメリアーナ公爵令嬢は僕から距離をとるようになっていた。
「婚姻や家の後継者としての承認式はとても大切なものですわ。流れは学んでいても式の直前に正式に教えられることになっています」
そう、王族や高位貴族は下位貴族と違い、婚姻や後継ぎに関して、書類の届出だけでなく、王都の精霊神教会の古くからの作法に則って行われるらしい。
その昔、お祖母様からお聞きしたことがある。
伯爵家以上、名門と呼ばれる家柄だけが、王宮前にある精霊神教会において精霊神の像の前で婚姻の誓いを立て、家督を継承する承認式をするという。
それによって王国で正式な貴族と認められるそうだ。高位貴族様は大変だなぁ。子爵家以下はもちろんそんなものはない。王宮前の広場で告示される程度だ。
だから、当日は婚姻式とメリアーナ公爵令嬢が次の公爵家の後継者として認めてもらう儀式を行う予定になっている。
まあ、公爵家の継承式といっても、今回は正式な爵位の継承でなく、あくまで後継者として精霊神に認めてもらうという儀式らしい。
メリアーナ公爵令嬢が儀典長に教えてもらいながら動きを練習していた。
動きはちょっと舞に似ている。ほら、扇子を持って烏帽子を被って舞う。あれ? 烏帽子って何だっけ?
正式な公爵位の継承式はまた別の儀式だけどこれでメリアーナ公爵令嬢はミローネ公爵家の次代であると王国の貴族社会で正式に認められることになる。
でもそれじゃあ、この時に認められない場合もあるのだろうかと聞いてみたいけど、真剣な表情で儀典長から授かっているメリアーナ公爵令嬢を見ていると興味本位には聞きにくい。ちょっと気がひけた。
僕がぼんやりと練習している彼女を見ていると、やはり女性なのか、体力が続かないようだった。
でも、婚姻式の後にこれだけハードな動きをするのは大変じゃないのかな。
別の日にするとか、いっそ僕が何かカバーをできればいいのだけど。
僕は正直、机に座ってのお勉強より、体を動かす方が向いていた。
これでも剣術とか剣技でも先生方から何度も褒められたこともある。
小さい頃は騎士になりたいとか言っていたけど、実はお祖母様の反対を受けたらしい。
それから何となく我が家では言わなくなった。
だって、うちは結構お祖母様の家、バルモア伯爵家からいろいろと援助を受けていたのだ。使用人とか家庭教師とかの費用とか諸々を都合してもらっていたからね。
メリアーナ公爵令嬢の練習が一通り終わったので、彼女に近寄り、布巾を手渡した。少し汗ばんで、息が上がっていた。
「お疲れ様。大変だったね」
公爵家の証の錫杖は近くで見るとやはり彼女には少し大きそうだった。きっと重さも。
「いいえ。このくらいどうということはありませんわ。寧ろわたくしの動きが鈍いのです。もっと練習をしなければ」
「そんなことはないと……」
僕が言っても彼女は俯いて僕から少し離れてしまった。
実はあの卒業式の日から、何となく彼女から距離がおかれている。
嫌われてしまったのかもしれない。とほほ。
仕方がない。あれは事故だった。事故ちゅうだったんだ。そう言って機会を見て謝ろうかな。
だって、好きな女性とあんなに密着していたから無理ないよ。
「体が冷えるから早く着替えた方がいいよ……」
僕はそう言って待機していた侍女に合図をして彼女を連れて行ってもらう。
僕はまだ王宮ですることがあるからと先に彼女を家に帰るよう伝えてもらった。
お読みいただきありがとうございます。
まだかなり、なろうのシステムの変化についていけておりません。ううう。




