ep.88
「あぁ、火山エリアを解放したからか」
『ひ、他人事のように……! オホン、まぁあちこちに出現すると言いましても、はぐれボスのようなものですの。今のところ竜に勝ったなどという情報は入っておりませんが……』
「にしてもワールドアナウンスなんぞ流れてきていないが……」
『兄様……お忘れですか? 全プレイヤーは基本的に冒険者ギルドでチュートリアルを受けますの。そこで基本的なことは全部教えて貰えますので、普通ならその時に設定しますのよ? 兄様はチュートリアルも受けずに飛び出されたでしょうに』
「……あとで確認しておこう。それはそれとして、地底世界関連はどうだ?」
『そちらはまだですの。とりあえず新規エリアが開放されただけとしか。とりあえず兄様は情報を再び集めて欲しいですの。もちろん以前頂いた情報共々報酬は支払いますの』
「あぁ、分かった。魔王にでも話を聞いとくよ」
『ま、魔王!? に、兄様! そんなのメッセージには―』
「んじゃそろそろログインするからまたな」
『ちょ、兄様!?』
とりあえず通話をシャットアウトする。
インする前に……腹ごしらえからだな。
「で、なんで正座なんてさせられてるんだ?」
「君が随分とお寝坊さんだからだよ?」
「私たち、随分と心配しましたのよ? 創造主様から話を聞くまでは、そこの2人なんて離れようとしませんでしたし」
ログインしたらベッドの上だったのはログアウトする前にベッドに入ったからだったから。
その後に何故か大騒ぎになって急遽全員に囲まれて正座させられているのは何故なんだ?
あ、
「向こうとは時間の流れが違うからか……」
「そうだね。ボクは地上世界で情報屋なんてやってたからリベットや他の異界人が時々長く眠りにつくのは知ってたよ? でもそうするならそうするって予め言っておいてくれないと」
「わ、悪かったよ……いや、俺も直ぐに戻るつもりだったんだが……」
ついつい寝てしまったのは……どうしようもないと思うんだ。
「異界人というのは随分と俺たちと違うものなのだな」
「俺様も勉強になったぜ。使うかどうかは別だがな」
「まぁこうして起きたのだから良しとすればいい。食堂にて待つ故、あとから来るがいい」
そうして後に残ったのは俺としがみついて離れないリルナとレルナ、椅子に座っているエルナとクランだった。
「ボクに感謝して欲しいよね。たまたまその情報を知ってたんだからさ」
「ホント頭が上がらねぇよ……」
「……そこまで落ち込まれるとなんか狂っちゃうなぁ……別に責めてるわけじゃないんだよ? そういうこともあるって事前に教えて貰えてたらってだけで」
「向こうで別にトラブルがあった訳じゃないんだが……どうにも疲れてたらしくてな。ぐっすり寝てたってだけだよ」
とりあえず本当のことを話すしかないだろう。
事実ぐっすりだったのには変わりないんだから。
「それは……仕方ないよね。竜王の試練の後にこの地底世界だもの。疲れちゃうよ」
「ですから言ったでしょう? お父様はお疲れになっているだけですから、すぐに目を覚ますと」
「エルナも心配そうにしてましたよね」
「なんならベッドに潜り込んでた」
「そ、それは! 私だって心配でしたもの……」
「ついでにパパに抱きついてた」
「り、リルナ!」
エルナが叫ぶが肝心のリルナはぷいっとそっぽを向いている。
「淑女たるものってずっと言ってたのに」
「編み物しながらずっとお父さんのこと見てましたよね? 時々手に刺してましたけど」
「いい加減にしてくださいまし! 私とて、お父様の娘! 貴女達と同等の立場にありましてよ!」
「ふーん?」
「それがどうしましたか?」
なーんかバチバチしてるんだが……クランはニヤニヤ笑ってるだけで止めようとしないし……
「3人ともそこまでだ」
「「でも!」」
「でもじゃないぞ、2人とも。なんだってそんなに喧嘩腰なんだ」
「……エルナは私とリルナが1つになった姿です」
「パパと一緒に楽しそうに戦ってたって聞いた」
「「それがズルい!」」
犯人は恐らくそこでニヤニヤしてる奴だろうな……
「わかったわかった。なら今度は2人と一緒にモンスターと戦うのはどうだ?」
「いいんですか!?」
「レルナ、負けてられないよ」
「もちろんです、リルナ! 私たちの方がお父さんと相性がいいところを見せてあげましょう!」
「そしてパパの愛はリルナのもの……グヘヘ……」
「き、聞き捨てなりませんよ!? 私もお父さんのことが大好きですから!」
「なら勝負。どっちがパパのことが大好きか」
「受けて立ちましょう!」
「……向こうでな、向こうで」
俺がそう言うと2人はトテトテと反対側へと走っていった。
さて、と。
「で、エルナ。どこから演技だ?」
「あら、そのように決めつけてよろしいのです?」
「お前があんなにもヒステリックになるとは思わん。もしかしたらあるかもしれないが……まぁほぼないだろうな」
「流石はお父様ですわ。私はあの2人の記憶も経験も継承しておりますの。ですから、あの程度で狼狽えるわけがなくってよ?」
「その割には手が震えてるが?」
「……心配だったのは本当ですもの」
とりあえず無言で手招きをする。
恐る恐る近寄ってくるエルナを抱きしめる。
「悪かった。次からはなるべく気をつけるから」
「お父様の体調が第一優先です。今回でお父様の眠りが最長数日だと言うことは分かりましたし、覚悟もできております。ですが、なるべく私から離れないでくださいね、お父様?」
「分かってるよ、エルナ。別れは悲しいからな」
エルナがさらにギュッと抱きついてくる。
「あー! エルナずるいですよ!」
「レルナ、リルナ達も行かなくちゃ」
「もちろんです!」
背中に飛びつかれたが、根性で耐える。
娘を持つって大変だな……
今回もお読みいただきましてありがとうございます。
大体クランが悪い。




