質問
「私はオフェン。こっちは弟のディフェンよ」
姉古代人はそう名乗った。やはりヒュマン種とリザド種なのに姉弟らしい。
「えっと、幼いときから姉弟のように育てられているので」
慌てたようにディフェンが補足する。
「あ、そ、そうなのよ。コホン」とオフェン。「ところでさっきは助かったわ。お礼をしたいのだけど、こんな有様だし、別の日にしたいのだけど……」
2人とも服や髪が土やほこりにまみれた状態。とりもちは消えているのだが早くなんとかしたいだろう。ショウはアキンとも相談して、明日到着予定のラジハバ市にあるアキン国際商会本店で再会することにした。
ピュウと古代人2人は口笛を吹く。すると避難させていたのだろうパッカラン――パッカラと同系で、足の速さを重視して品種改良された種なのだそう――が走り寄ってくる。あぶみに足をかけるやさっそうと騎乗すると、「それではまた明日」と最寄りの古代人拠点へと去っていった。
絵画のようにサマになる2人をアキンらとともに感心して見送っていると。「あのお姉さん、魔素の量は多いけどずいぶん濁っているなあ」とモールが一人毒づいた。
……
パッカラ車の旅は、小一時間ごとに休憩を挟む。その休憩時間のこと。
「ショウ、モール、魔法の稽古を致しましょう」
ワタカシとの戦いのあと、古代人姉弟のほかに深まった交流があった。ヤンが積極的にショウらにかかわるようになったのだ。
ヤンはショウとモールの戦いぶりを見て、2人から魔法を学びたいという思いになっていた。翌日で終わるこの旅のうちに、という打算もある。しかしなによりも、モールに魔素を鑑定してもらえたのが大きかった。
モールがオフェンの魔素を嘆いたときのこと、それではショウやヤンはどうなのだという話になった。モールは「ショウの魔素はとても綺麗な七色。量もほかに見たこともないほどたくさんある。そばにいるだけで気持ちがいいんだ。ヤンさんは量が少ないね。でも澄んだ赤色をしている」と評した。ヤンは少し落ち込んだけれどその評に心当たりはあり、今後に向けて思うところがあった。
魔法を使う者にとって、自分の魔素の適正を知ることができれば、より効率良く訓練ができ、より効果的に使用することができる。しかし魔素は目に見えるものではなく、通常それは困難である。なので妖精に魔素を鑑定してもらえるというのは、垂涎の機会であった。アキンなどからすれば、これだけでショウに衣服や宿を提供した投資が回収できて、お釣りがくるくらいの価値がある。
「ショウはいろいろな魔法を試してみるんだ。炎、氷、風、雷……… とりもちみたいにものを作り出してみるのもいい。キミはまだ魔法を使い始めたばかりだからね」
言われてさまざまな現象を発現させるショウ。上手くいったりいかなかったりしているが、実は多様な現象を引き起こせている時点で異才である。魔法が得意な者でも火の系統、水の系統など、扱えても2つ、3つがせいぜいなのだ。
「ヤンさんはもっと体全体を使うんだ。体全体から魔素に呼びかけて、手のひらに集まってもらうイメージで」
はじめてモールにこの指摘をされたとき、ヤンはとてもびっくりした。そんな話は聞いたことがなかった。通常は頭で現象を念じて、手のひらから放出する感覚だ。
「服はもっと肌が出るものにするといいよ。魔素に呼びかけやすくなる。このあたりが使えていなくて、もったいないんだ」
そういってモールはヤンの太ももを触る。このあたりも意識しろと。
白い空間では「やらしー」とローリー。「えっち、えっち」と畳み掛ける。憮然とするモールの中の翔一。ヤンには悪いが、ウロコ肌は守備範囲から外れているというのに。
そんな休憩を数度経て――その日の御者はすべてバスが引き受けた。御者当番は当番前の休憩時間に、パッカラの世話をすることになっている――パッカラ車は最後の宿泊街に到着した。
……
翌朝、古代人の拠点。
いつもより早めに朝の一仕事を切り上げたオフェンは、ディフェンとともにパッカランに騎乗して、ラジハバ市に向かっていた。ショウたちに礼を言うためである。
「あの二人といっしょに冒険したいわ」
「ちょっ、姉さん。確かにあの魔法は魅力的だけど、いろいろとマズいだろ」
オフェンのひとことに、またやっかいなことを言い始めたと顔をしかめるディフェン。
古代人と原生人が行動をともにすることは稀である。魔素の扱いが不得手な古代人にとって、原生人の魔法は魅力的だ。しかし身体能力が違いすぎた。治癒魔法やアイテムが原生人には使えないのも大きなマイナス、また死ぬと復活ができないのもリスクが大きすぎる。加えて古代人は基本的に古代遺跡で寝泊まりするので、長期の同行には何かと不都合が生じる。
「なんとかなるでしょ。というか、なんとかしてよ」
姉の無茶振りに閉口するディフェン。この姉は戦いを楽しむことしか、いや、攻撃をすることしか考えていない。防御は弟任せだ。
ヒト種選びからして、オフェンは魔法を使う上で重要な魔素適正のみを重視して、デラ・ヒュマン種を選択した。その物理系の打たれ弱さは★5ヒト種中最悪である。装備も攻撃一辺倒で、効率上無意味といっていい★5杖の二刀流ならぬ二杖流である。防具は見た目重視で紙装甲。もっともこれまたすべて★5装備なので、平均以上の防御力ではある。
一方のディフェンは頑丈が取り柄の★5ヒト種、ハイ・リザド種。出るまでひたすらガチャをさせられた。せっかくリアルと異なるヒト種になりきるのだから、敏捷性が高いギガ・アカイ種が良かったと今でも思っている。出たのにもったいない。武器も防具もオフェンを守ることを第一優先にさせられた選択。ただ費用は姉持ちで、品質もすべて★5なのであまり文句は言えない。
この姉弟そろっての★5フルメイクは廃課金の結果であることが明白で、古代人が見ればドン引きするレベルである。
「あ、亜怪獣ジャヒョウだわ。左前方……1匹だけ。これなら行ける!」
少し離れた草むらでこちらを伺っていた獲物を見つけ、オフェンが飛び出していく。
このような交通量も多く安全な主要街道で亜怪獣に遭遇するのは、オフェンがエンカウント向上アイテムを使用しているからである。むろんランクは★5。それが昨日もワタカシを呼び寄せることになっていた。
亜怪獣は古代人であってもかなりの難敵。待ち合わせ前にこちらから仕掛けるべき相手ではない。1つため息を吐いて、ディフェンは姉を追った。
……
正午を過ぎたノスコ国でも有数の港町ラジハバ市。
この街の一等地にあるアキン国際商会本店の3階建て建屋の玄関横に、2頭の精悍なパッカランが繋がれていた。オフェンとディフェンは狩りに寄り道をしながらも、約束時刻どおりに到着していた。
応接室、入口近くのソファーにはアキンにショウとモールが、奥のソファーにはオフェンとディフェンが、向かい合うかたちで座っている。バスとヤンは、それぞれの部署で出張の残務処理。長い耳と赤い目が特徴的なウサミー種の事務員がお茶を出し、部屋を出ていった。
「昨日は危ういところを助けていただき、助かりました。改めてお礼申し上げます」
古代人姉弟は立ち上がってお辞儀をした。お礼の作法は地球と同じなんだと感心するショウ。そしてオフェンは小さいけど大きく、昨日同様に軽装なこともあって、現れた谷間に視線が誘引される。モールも隣に同じ。白い空間で翔一がローリーにはたかれるところまでが、お約束である。
あらためて相対したオフェンとディフェンは、ヒュマン種、リザド種ではあるのだろうが体つきががっしりとしていて、その身体能力の高さが伺えた。武器は携帯していないが、服装、防具は昨日と同じ、見るからに高価、高性能であることが伝わってくる逸品である。アキンなどは商売柄古代人と接触する機会がままあるのだが、ここまでの装備を整えた者と会ったことはなく、人知れず唸っていた。
「早速だけど、ショウくんがよければ……」ディフェンに目配せして話を続けるオフェン。「あなたはリングを持っていないでしょ? お礼にこれを用意してきたの。いろいろ役に立つと思うわ」
ディフェンが箱を取り出し蓋を開けると、そこにはIDリングが入っていた。
……
ショウはIDリングの受け取りを逡巡したが、アキンの勧めもあって受け取った。
オフェンとディフェンの説明によると、IDリングは原生人の間では身分証明に使われているから「IDリング」と呼ばれているが、古代人からすれば生体認証付きの情報端末に過ぎないとのこと、彼らの間では単に「リング」と呼ばれているそうである。受け取るやショウはリングに個人登録をしたのだが、どこかの国籍を得たわけではない。だが古代人用と同じリングなので、ほぼすべての国をフリーで出入国できるという。
またこれはアキンを驚かせていたのだが、リング間で直接通信ができるという。ショウからすれば当たり前のように感じるが、国から貸与されるIDリングは政府機関としか通信できないのだそうだ。例えると警察や消防への通報限定といったところか。そして早速ショウは、オフェン、ディフェンとリングIDを交換することになった。アキンからすれば古代人の意図はミエミエである。
そうしてリングの話題でひとしきり盛り上がったあと、ショウは古代人にどうしても聞きたかったことを質問した。
「人がある場所から別の場所に、突然移動することはあるのでしょうか?」




