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告白

 10人と2体、6種と1機種が対峙する。

 惑星ファンランの大気については、サパン種は適合でき、グルメガ種は短時間なら問題はなく、シャーチク種は銀河連邦標準大気よりもむしろ好ましい。サパン種のガラガ達3人は軍事アーマードスーツを着装し、グルメガ種のマドサイら2人は気密防護服に全身を包み、シャーチク種のメヒシバンは布製の服なのだがそもそも樹木のような外観の種なので、ショウやアキンらからは6人とも異様な外見の集団に見える。


「あれが会いたがっていた原生人たちかよ? ボディはやる気になってるじゃねえか、シャアア」

 科学者マドサイに答えを求めるのでもなく問いかけるガラガ。今は上部装甲をかぶっているので、その特徴的な舌は外からは見えない。ガラガとしては、FWO糾弾を訴える相手にするには、人数が少なすぎた。先に進みたいところである。ボディについては歯牙にもかけていない。

「あなた達にはあの原生人の価値は分からないでしょう。それと、ボディは私の管轄外」

 AIオートパイロットに介入してショウを引き止めることには成功したが、ここからは慎重にと神経を削るマドサイ。ボディの臨戦態勢は気にしていない。調査隊やFWO関係者、それに原生人を攻撃することはないからだ。それよりどこかに潜んでいるはずの妖精が気がかりで仕方がない。

 そんなマドサイを、メヒシバンは後ろからヤレヤレと眺めている。マドサイがボディ2体を古代人の案内に利用しておきながら、戦闘ポリシーをそのままにしていることが、学者らしいと思った。主幹文明外の種が、ゲスト証も持たず、武装をして、保護文明の惑星に存在する、このような状況で標準のAIがどういう行動を取るものか。策謀でもなく、ただ分かっていて問題はないと思っているのだろうから、質が悪い。巻き込まれるはゴメンだと用心する。


 一方。

 ショウは戸惑うばかり。オフェン、ディフェンが科学者を紹介してくれるものと思っていたが、臨戦態勢を取っている。相手の6人は想像を超えた外観で、そもそも彼らが会おうとしている科学者たちなのかどうかすら分からない。途中、アキンに「あの人たちも古代人なのでしょうか?」と尋ねてみたが、「見たことがないな」と短い応え。自分から動くしかないのかと思案する。

 アキンもうかつに動けず、手をこまねく。見たこともない6人を目にして、古代人が宇宙人だという話は、本当なのだろうと思い始めていた。もっともそれが商売の支障になるとは考えていない。むしろ理が通じる新たな集団、商売の幅を広げられるはずだと乗り気である。ただ古代人姉弟が敵対行動を取っているのは気がかりだった。


 赤道直下のシンガル、その日照時間は一年通して長いのだが。

「ちっ、時間がねえんだよ、シャアア」

「ショウくん、私がファー銀河連邦の……」

 この時、マドサイがほんの寸刻早く行動を起こしていたら、結末はまたまったく異なるものになっていたのであろう。しかし。ガラガのほうが早かった。身体のS字姿勢をより深くすると――

 オフェンに扮するボディはガラガに向かって無言で火の玉を放ち、ディフェンに扮するボディはガラガとは反対側にいた無手のサパン種に突撃する。2人ともこれまでの旅での戦いとは比べものにならないほど素早かった。リミッターが外れている。


「かかった、シャアア」

 ガラガが取った行動はただの威嚇。だがボディの取った行動は、適切ではある。なぜならサパン種は、深いS字姿勢から一気に跳ねるのだ。


 瞬間のこと。

 ガラガはオフェンのボディに、もう1人のサパン種はディフェンのボディに。飛び跳ね、巻き付いたと思いきや、一気に締め上げる。

 手足がちぎれ、胴がねじ切られ、首がもげ。

 オフェンとディフェンだったボディは、あちこちから赤い液体を吹き出しながら、地面に砕け落ちた!


「なめてもらっちゃ困るねえ。これで落ち着いて話ができるってもんだ、シャアア」

 ガラガともう1人は器用に尾をくねらせ後進する。はずだったのだが。


「ピットォー!」

 ショウが怒声を上げるや。今度はサパン種2人が石畳に突然空いた穴に落ち、瞬時に埋まった。


「な、何が起こった、シャアア!?」

 ガラガは驚嘆。

「動くな、シャアア」

 もう1人のサパン種は、低く口元の通信装置につぶやく。

「素晴らしい!」「これほどとは!」

 マドサイとエンティスは歓喜。映像でショウの魔法は見ていたが、実際見るのとではやはり違う。

 メヒシバンやアキンらは、あまりに突拍子のない状況に声が出ない。銃を持つサパン種はじっとしている。


「よくも、オフェンさんとディフェンさんを!」

 体を怒りに震わせ、地に埋まったヘビ状形体の2機を交互に睨みながら、叫ぶショウ。オフェンとディフェンはロボットなのだと確信していたが、我慢できるわけがない。

「これは、お前の仕業なのか? それはただのロボットだぞ、シャアア」

 ガラガは脱出を試みるがアーマードスーツはびくともしない。胴の下部と尾が完全に埋まり、それだけではなく圧迫されている。

「そんな問題じゃない! お前たちもロボットなんだろ。つぶしてやろうか!」

 ショウがイキると。

「それは困ります。私たちは生身ですから、シャアア」

 今まで黙っていたサパン種の男が、上部装甲を開けて答えた。装甲から現れたのは。

 リザド種に近いが頭と胴がつながって首が無い、縦長の黒い瞳、先が2つに割れた舌。

「中に人?がいる、のか……」

 オフェンたちのほうがよほど人間らしかったのにロボットで、ヘビ状形体の機械の中には人らしきものがいる。ショウは次から次へと崩れる常識に混乱しながらも、2人への締め付けを緩めた。


「……よっと、たまげたな、シャアア」

 ガラガがスーツをくねらせ、穴から抜き出る。だがもう1人のサパン種は、地に埋もれたまま語りを続ける。

「これは忠告ですが、もう少し慎重に行動なされたほうが良いですよ、シャアア」

 言うなりアーマードスーツからスポンっと飛び抜け、ショウに巻き付き、かと思ったら再びスーツに飛び戻る。しかしその口には剣を咥えていた。ショウが日頃から腰に挿している短剣だ。そしてヒョイと頭を振って、器用に短剣をショウに投げ返す。

「ま、まったく反応できなかった……」

 圧倒的な力の差。恐らく穴に落ちたのは敢えて。その気になれば魔法を止めることもできたのであろう。オフェンたちにしたことは許せないが、ショウは自分の立場を思い知る。

「この宇宙には想像もつかない能力を秘めた種がたくさんいるのですよ、シャアア」

 ようやく穴から出るサパン種。そしてガラガに頭を下げる。出過ぎた真似をしました、というところか。鷹揚に頷き返すガラガだが、心の中では「そんなことができるのは極僅かですぜ、ニシキ隊長。相変わらず負けず嫌いだなあ、シャアア」と苦笑い。

 そんな様子を観察しながらメヒシバンは、「この2人の上長が、まだここにいるんだぜ」とパラライザーを持つサパン種を横目でにらみ、戦場を俯瞰している気分に浸る。そのサパン種は下級兵で、それを「実は指揮官」と見せかけようとしているガラガとニシキの二重の小芝居に最後まで気づくことはなかった。ただの物流部門の管理職なので仕方がない。


「面白え原生人だな。お前らだけで先に行ってろ、シャアア」

 やはり未知の文明には可能性があると愉快な気分になるが、時間はない。ガラガは1人残り、ニシキとパラライザーを持つ兵を市街地へと向かわせる。メヒシバンも一緒にだ。この移動については、密かに隊長兼第一班長のニシキからそう命令するよう指示が出ていた。ガラガは第二班長である。

「これ以上、邪魔をしないで」

 マドサイは自分には手が出せない戦いが落ち着いてホッとしながら、ガラガに釘を刺す。自分が現在襲撃を受けている側であることなど、意に介していない。

 ショウやアキンらは、何しに行くのだろう、門の外に集まっている原生人たちは大騒ぎになるだろうな、と3人の後ろ姿を見送る。気にはかかるが自分たちもそれどころではない。


 ……


 こうして大拠点内の石畳道路に残ったのは、7人、5種。


「さて改めて。ショウくん、私がファー銀河連邦の科学者、マドサイだ」

「同じく、エンティスです」

 全身服を被った2人がショウたちの前に歩み寄る。頭部の透明フードからは、ヒュマン種に近い人型生命体が入っていることが分かる。骸骨じみた顔で、目が大きい。そして体つきは女性のもの。ショウが返事を返そうとすると――

「俺はガラガだ。さっきは楽しかったぜ。あの塔に文字を映した宇宙人だ。よろしくな、シャアア」

 ガラガが上部装甲を開けながら、話に割り込んできた。マドサイは嫌そうな顔をする。……実際はフード越しでは表情は分かりづらいのだが、全身から嫌がっているのがにじみ出ている。

「えっと、ショウです。こちらは私がお世話になっているアキン国際商会のアキン代表と、その護衛のバスさんとヤンさんです」

 戸惑いながらも挨拶をするショウ。アキンとバス、ヤンもお辞儀をするが、マドサイらはアキンたちは相手にしない。「よろしくな、シャアア」と気さくに応じたガラガとは対照的。


「その、いきなりで恐縮ですが、マドサイさん、エンティスさんと、ガラガさんとはどういう関係なのでしょうか?」

 どうにも気になるので直球を投げるショウ。

「こいつらはこの星で遊んでいる奴らから資金を稼いで、原生人を解剖している科学者。俺はそれを止めに来た正義の宇宙人さ、シャアア」

 ガラガが愉快そうに即座に答えた。

「な、何を人聞きの悪い事を。ちゃんと元通りに戻して、リリースしているわ」

 マドサイは慌てて弁明をする。実際、持病を見つけたら治療をしておくなど、貴重な魔素使い原生人を長生きさせようとしているだけではあったが、その扱いはむしろ丁寧であった。ショウたちがその弁明にドン引きするとは思っていない。

「……えっと、もしかしてガラガさんは、パフタジーですか?」

 マドサイの話は置いておいて。ショウは、以前オフェンたちを襲った6本腕の怪人ビトルとスタグが、古代遺跡を原生人たちに開放する活動をしていると言っていたことを思い出す。

「パフタジー? なんだそれは?」

 ガラガは光学スクリーンを展開して情報を取得し。

「……それはこいつらのお遊び組織の一つだよ。俺たちは異文明尊重団体ミドクス、本物の原生人の味方だ」

 気分を害したように説明する。

 またもや外れた予想に、戸惑うショウ。アキンやバス、ヤンは、何の話をしているのか分からない。パフタジーは原生人にはほとんど知られていない。


「原生人を滅びるがままにしようとするあなたたちが、よく言う。そんなことよりショウくん。私たちに何か聞きたいことがあるのでしょ?」

 しびれを切らしてマドサイが割り込み返す。ようやくショウと話をできたのに、これ以上邪魔をされてはかなわない。ミドクスは異文明を尊重するが、逆に助けようとはしない。惑星ファンランの生物が隕石衝突で滅びることについては、それが自らの文明発展の結果であるならばそれまでのことだ、という態度。それで原生人の味方だと言うのは片腹痛いが、優先すべきことを進める。アキンらがギョッとしているのだが、マドサイの視界には入っていない。


「では、その……、人がある場所から別の場所に、突然移動することはあるのでしょうか?」

 ショウはためらいながらも、かつてオフェンとディフェンにした質問をした。ガラガとヤン、バスはその質問の意図がわからず戸惑った顔をするが、アキン、マドサイ、エンティスは平然としている。アキンは以前聞いているし、マドサイらもオフェンたちとショウの会話ログを調べている。

「ええ、瞬間に移動することはできるわ。実際、この大拠点には瞬間物質転送器がある。でもそのような答えは、キミの質問への回答にはなっていないのでしょう? キミは『本人の意志にかかわらず』移動することがあるのかと、聞いているのよね?」

 ショウを見つめて答えるマドサイ。ガラガもさすがに割り込んだりはしない。アキンは商人にとっては夢のような装置の存在を耳にして気が気ではないが、ぐっと我慢する。


 ショウは目を閉じてしばし黙考。まわりの6人は待つ。

 そしてショウは、口を開いた。


「僕はこの惑星のヒト種ではないのです」

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