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集い、逢う

「当たりだよ、シャアア」

 メヒシバンが月のAIの出した推論をぶつけると、名はガラガだという隊長らしき兵は面白くもなさそうに肯定した。ガラガとアーマードスーツ兵2人、それにメヒシバンは、人工島デラフロトとシンガルを結ぶ海底チューブを、物資輸送用の電磁列車で移動していた。海上の橋は原生人の目を欺くためのもの、実際に使用することもできるがこちらのほうがずっと速く移動できる。「もっとも俺たちは使い捨ての傭兵くずれだけどな、シャアア」とガラガは付け加えた。


 ……


 異文明尊重団体ミドクス。

 ファー銀河連邦において、温度差はあるものの、全ての文明に熱心な支持者が存在する団体で、その資金力は小文明を超えると噂されている。

 さてファー銀河連邦では、未発達な文明に関与することは原則として禁じられている。その文明の活動圏が複数の太陽系にまたがる段階まで発展して初めて、接触が認められるのだ。そして新たな文明が連邦に加盟することになった場合、主幹文明が任命され――たいていは新文明を発見した文明が就く――、新文明にどのように関与するかはこの主幹文明が決定する。……決定するのだが、関与のあり方については主義が実に様々。新文明が望む知見を与えるべきとする保護主義、主幹文明とあわせるべきとする干渉主義、何もせず新文明の特徴を引き出すべきとする自然主義、などなど。主幹文明がずっと同じであっても、時代や政治状況によって関与方針が変化することも珍しくなく、ときには対立が生じることもある。

 そうした中で。ショウのいる惑星ファンランは特殊な状況下にあった。広大なファー銀河連邦であっても、ファンラン宙域でのみ確認されている魔素の存在である。ファンランの文明レベルは月にすら到達していない段階なので、本来関与できるレベルは潜行調査止まりである。しかしファンランの存在する太陽系は大規模な隕石流のコース上にあり、ファンランの生物も隕石衝突によりいずれ死滅することが確実視されていた。その衝突時期までに魔素の調査が完了しそうもないと判断した調査隊は、特例文明関与を銀河連邦に申請した。その申請は無事受理され、隕石は適宜破壊されることになる。のは良いのだが。

 軍に戦闘艦を派遣してもらうのにも、相応の費用がかかる。一方で魔素には工業的、経済的な価値は見出されておらず、割り振られる予算はごくわずか。確かに魔法は不思議で興味深い現象であったが、それにより実現できることは既存の科学技術でも実現できることばかりであった。他の星域では魔法を行使できないことも、その価値を減じる。費用捻出に苦慮した調査隊は、テーマパーク型RPGを展開しようとしていたゲーム開発組織に目をつけ、ファンラン事業のタイアップを持ちかけた。これが惑星ファンランでFWO第2弾がオープンされた経緯である。要はつまり。

 異文明尊重団体ミドクスは、自然主義系の団体の中でも最先鋭。そうした団体が、現地文明の意志が確認されていない中、なし崩し的にゲームの都合の良いように干渉されている惑星ファンランの状況を、良しとするわけがなかった。


 ……


『怪獣は宇宙人が改造した猛獣です』

『宇宙人は怪獣を狩って遊んでいるのです』

『この惑星は宇宙人の遊び場にされているのです』

『みなさん、このような自分勝手な宇宙人を追い出しましょう』

 軌道エレベーターを利用した字幕は続いていた。古代人たちの読み上げる声は次第にバラバラになり、ほうぼうでまた議論が始まる。


「おい、早く古代人を出せ! 説明させろ!」

 怒り心頭で大拠点の門番に食ってかかる者。

「どう思う?」

「どうって、話の辻褄はあっているよな」

 と話自体は肯定的に受け入れつつ、

「作り話としては良くできている」

 などと内容を偽と判じる者と、

「だからなによ。彼らは重症だった息子を助けてくれたわ」

 などと内容が真だとしても古代人を受け入れる者。

「ロボット開発と宇宙航行とでは、まるで技術レベルが異なるだろうに。これだから素人はまったく」

 はなから信用しない者。

 そしてショウは――


「オフェンさん、ディフェンさん、あの『軌道エレベーター』の話は本当のことですよね」

 怒るでもなく。笑うでもなく。ただ哀しく確認した。


 が。

「あのような話を信用されるのですか?」

「ますます状況が異常だ。大拠点に急ごう」

 AIが最上位機密事項を漏らすはずもなく。

 内部ではシステムアラートを飛ばしつつも、ショウの話には取り合わず、ただ大拠点へ連れて行こうとする。ショウはここに至ってディフェンの様子も今までとは異なることに気づく。

「っ……!」

 ショウは顔を歪ませ後ずさり、2人から距離を置く。何かが足元で崩れるのを感じた。この場を抜け出そうと周囲の様子を探っていると――

 オフェンとディフェンの動きが不自然に止まり、2人のリングの光が揺らめく。


「ショウさん、只今リングに連絡が入りました。ファー銀河連邦の科学者が、あなたにお会いしたいそうです」

 オフェンがニッコリと、ショウに告げた。


 ……


 オフェンがパッカランをひいて、原生人の群衆を押し分け、門へと進んでいく。ショウは銀河連邦などという想像を遥かに超えた単語を耳にして呆然としていたのだが、お構いなしだ。そのあとをディフェンが続き、ショウも慌てて追いかけた。


 原生人たちは思わず後ずさって道を開ける。ただの古代人ではない。飛び抜けて高価な装備を身に着けていることが、詳しくない者でもひと目でわかった。だがショウはそうはいかない。

「おい、お前。お前は原生人だろう?」

「この古代人たちの知り合いか? だったら、あの文字のことを聞いてくれ!」

 群衆に次々と取り囲まれる。

 その様子に、前を行くオフェンとディフェンも立ち止まる。大拠点から通信が入り。再びAI行動基準が更新され、先程の機密保持解除に続いて、今度は原生人攻撃規制が一段階引き下げられた。

 原生人たちに杖を向けるオフェン。長槍を向けるディフェン。ショウが2人に気づいて止めようとすると――


「ここは彼を通してあげましょう」

 2人のリザド種の従者を連れた、身なりの良いアカイ種の男が仲裁に入ってきた。


「なんだお前は」「カッコつけるな」と怒声が上がるが、それらはすぐに「おお、アキン殿。お知り合いですか」「アキン殿がそうおっしゃるのなら」という声に押し黙った。街の名声ある有志たちが賛同を示す。アキン国際商会はその代々の実直な仕事ぶりで、このシンガルでも信頼を勝ち得ていた。


「ショウくん。妙な状況での再会となったが、元気そうで何よりだ」

 相変わらず気取った振る舞いだが、そのかっこいいキツネ顔にとても合っている。

「アキンさん! 助かります。バスさん、お久しぶりです。ヤンさんもこの前はお世話になりました」

 ショウはこの見知らぬ世界の数少ない知り合いと会えて、顔を綻ばせる。そこへ。

「積もる話はあるがその前に。我々3人も同行させてもらえないだろうか?」

 抜け目のないアキンに。バスとヤンは、同意するショウに目を合わせ、申し訳無さそうな顔をした。


 ……


 ガラガ、メヒシバンら4人が海底チューブを渡り終えて地上の施設内倉庫に出ると、そこでは百体近いボディが待ち構えていた。

「ふん、いちおう言っておくが、軌道エレベーターでは数十人の人質を取っているんだがな、シャアア」

 ガラガが鼻白んで言うと。

「原生人に危害を加えようとするなら、通すわけにはいかない」

 ボディの一体が前に進み出て、応じた。メヒシバンは大拠点に駐在するFWO運営のシンガル地域責任者の顔を思い浮かべる。日頃「所詮僕たちは下請けですよ」と愚痴っている同僚だが、主幹文明人の一役を担うものとしての矜持はあるようだ。


 ゲーム用のおもちゃ武器を手にしたAI操作の安物ボディが何体いようと、軍事アーマードスーツ兵が負けることはない。しかしここは6大拠点の1つ、まだ少なくとも数百体のボディのストックがあるはずだった。これらに時間稼ぎをされれば、そのうちに銀河連邦軍が到着するであろう。

「じゃあ、ほらよ。お前もだ、シャアア」

 ガラガはあっさりとパラライザーをボディに向かって投げ捨てる。後ろで控えている兵の1人にも放棄するよう促す。もう1人は構えたまま。

「1丁は残させてもらうぜ。これが最大限の譲歩だ。なに原生人には傷一つ付けやしねえ。スピーチをしに行くだけだ。ミドクスに誓って言うぜ、シャアア」

 すると。ボディたちはガンを回収すると道を開け、機能を停止させた。


 4人は再び進み出す。倉庫を出て通路へ。

「これはもう要らねえな、シャアア」

 ガラガが言うなり、アーマードスーツの背中のジョイントロックが外れ、両手が通路に落ちて騒々しい音を立てる。

 サパン種のアーマードスーツはその体型に合わせて、頭、胴、尾を包むS字にくねった1本の筒のようなもの。身体を支える尾を床に器用にくねらせ、前へと進む。パラライザーがなければ、確かにアームを装着し続ける意味は薄い。

 先の倉庫で銃を放棄したもう1人の兵が、まだ銃を持っている兵へと頭を向けると、銃を持っている兵は左右のジョイントアームを上へ挙げて「倣う必要はない」とばかりに頭を振った。


「おうおう、今度は何だよ、シャアア」

 屋外へ出て市街地に向かおうというところ、気密防護服を着た二人の女が待ち構えていた。

「私は惑星調査隊の科学者、グルメガ種のマドサイ、こちらは同僚のエンティス。いえ、ある原生人にようやく会えると楽しみにしていたのですが、盛大に予定外のことをしてくださった方々がいたものですから、ご挨拶をと」

 気密防護服の上からでも華奢だと分かる女が、兵装したガラガら3人の前で物怖じせずに嫌味を垂れる。メヒシバンはこの2人を知っていた。その身勝手な行動にはたびたび閉口させられているのだが、度胸がある点については認めざるを得ない。たとえそれが自分達の研究にしか関心が無いゆえの振る舞いであってもだ。

「そりゃ悪かったな。だが、こっちも忙しいんだ。どきな、シャアア」

 何だコイツラは?と思うも、ガラガにはかかわっている時間はない。

「それがそうもいかなくて。その原生人がこちらに向かって来ていて、どうにもあなたたちとかち合ってしまう。私たちも引けない事情があるの。同行させてもらうわ」

 ガラガは一瞬キョトンとさせられるが、後ろにいるパラライザーを持たせた兵に振り返る。度胸があるところは嫌いではないが、もういいだろう。……ところが。

「良いのではないですか、同行させましょう、シャアア」

 パラライザーを持った兵が同意する。

「だとよ。勝手についてきな、シャアア」

 その応えに従ったのか、マドサイらを受け入れるガラガ。

 メヒシバンはこのサパン種2人のやり取りを、興味深そうに見ていた。


 ……


 大拠点の門を抜けて。

 オフェンとディフェンはそれぞれパッカランをひいて、どんどん進んでいく。ショウはその後ろをアキンと並んでついていった。更にその後ろにバスとヤン。ショウのパッカランは、ヤンがひいている。そしてモールはまだ姿を現していない。

 ショウはアキンに、これから科学者と会うこと、あの塔の文字は本当だと思っていることを話した。一方でファー銀河連邦については黙っている。この件については、ショウも飲み込めていない。そうしたショウの話をアキンは、否定も肯定もせず聞いていた。オフェンらの様子が以前と異なることには気づいている。だが結論を出すには早いし、商売に結びつく材料はまだ見当たらないと思っている。

 そうして、ついに――


 唐突にオフェンとディフェンが立ち止まり、パッカランを放して退避させる。そして杖と長槍を構える。

 なぜ臨戦態勢に?と驚く後ろの4人。兎にも角にも。バスは柄に手をかけ、ヤンは右腕を前に突き出して、ショウとアキンの横に並ぶ。

 ショウは、アキンの「手を出すなよ」と制する声を耳にしながらも、前方を凝視する。


 全身を服で身を包んだ、ヒョロっとした2足歩行の2人が先頭。

 そのやや後方両横を、装甲で身を包んだ巨大なヘビのようなものが2機、後ろにも1機、その1機は銃らしきものを持っている。

 そしてその横には、多肢をくねらせて歩く植物のようなものが1体。

 いずれも今までに見たことのない古代人らしき者たちが、ショウら6人のもとへと向かってきていた。

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