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レベリング

「ここから数日が勝負ね」

 月の裏、巨大ドーム施設にあるスイートルームの一室。オフェンの気合が入る。

 FWOでは湾岸都市アプシー市からオーア大陸に上陸して高原都市プレサン市に来ていたが、古代人大拠点シンガルまでの陸路は1/3が過ぎたところである。距離的にはまだ先は長い。しかし狩りの面では、ここからの2000メートル級の山々が正念場であった。特にタキュ帝国を出てフルトー王国に入ってからしばらくの山地は、オーア大陸でも有数の難所で、オフェンはこの地に入るまでにできる限り強くなっておきたかった。


 古代人の身体「ボディ」は、銀河連邦から払い下げされた汎用惑星探査用遠隔操作ロボットを改造したものである。このロボットは低レベルな文明への潜入調査にも使用されていて、外観の擬態やカスタマイズは元々の仕様で対応している。FWO対応の特徴としては、その性能が数万分の一に落とされており戦闘スコアに応じて開放されるようになっていることと、魔素を扱えるようにされていることの2点であった。

 前者については、オフェンはすでに初期状態の百倍は強くなっている。ディフェンは更に十倍は強い。こちらは狩りを続ければ強くなれる。強い猛獣や怪獣を相手にするほど時間効率が良くなるが、この点はフルトー王国へと進む経路であれば問題はない。

 しかし後者は。魔素については不明な点が多く、現状は原生人や猛獣の器官を解剖し、得た知見をボディに反映してみたら使えるようになった、という程度のもの。スコアを伸ばせば能力は向上するはずだが、どこまで向上するかは怪しいところがあった。ショウのような魔法を使えるようには、到底ならないであろう。ならば。


 オフェンはひたすらアイテムガチャを回し続ける。武具ガチャはすでに装備しているものと同程度のものしか望めないのでパス。あとは高純度の魔素石や高性能のバリアアイテム、回復アイテムを貯め込むことぐらいしかできることはないのだが、これはこれで強力な戦力補強になった。

「文明変容論 保護と干渉」の受講を終えたディフェンは、そんな姉の様子に嘆息した。費用は姉自身の稼ぎだし、その額の多くは惑星ファンランの調査や保護に使用されるしで、非難する筋合いのものでないことは分かっているのだが。

 実際スイートルームに長期宿泊をしても、各種ガチャを回し続けても、オフェンは毎朝の労働によって、貯蓄を増やす一方であった。


 ……


 まだ真夏、その昼過ぎであっても高原都市プレサン市は涼しい。東の外れにある湖のほとりで、ショウとモールはオフェンたちと合流した。ここから国境近くにある城塞都市ラムパ市までの街道は、木々に覆われた山々を縫うようにひかれた主街道ほぼ1つである。沿線に古代人拠点や村落はあるが、行き交う人は少ない。軍人か、大所帯の護衛に守られた商隊ぐらいのものであった。


「ショウ、ここから先は、直接だったら亜怪獣や怪獣を攻撃しても良いよ」

 ディフェンは会うやそうそう、ショウに言う。

「ここからは私たち2人だけでは厳しい戦いになりそうなの。急がないといっても、あまり狩りに時間をかけるのも悪いし」

 ショウのためにもなると、オフェンは目を合わせずに言う。

 オフェンとディフェンはログイン前の協議で、ショウとモールの力をより積極的に借りるという方針で一致した。どうせ先のカーカ戦では、ショウの支援がなかったら死んでいた。原生人や妖精が戦いに参加した場合にどうなるのかも分かってきたので、使える戦力は遠慮なく使おうという、いわば開き直りである。


「魔法を現出してから誘導して当てるのはだめで、怪獣の身体上に直接現出させるのは良い、ということですよね?」

 ショウはディフェンの言う「直接」の意味を確認する。

「そう、その通りだ。それならショウが怪獣に攻撃されることはないみたいだからね」

 そうディフェンは返した。亜怪獣カーカの様子を見ていると、ショウが壁や鳥もちで妨害しても、それがショウの行為だと認識されていない。これならショウに危険が及ぶことはないだろうと判断した。


「ボクはー?」

 モールが羽をひらめかせて尋ねる。陽がさまざまに反射して美しい。

「モールもショウと同じだ。あー2人とも、しびれさせるとか足止めするとか、動きを封じる魔法にしてもらえると、より安全だと思う」

「分かったー」

 ディフェンとモールのやり取りを聞きながら。ショウはまた1つ、魔法のアイデアを思いついた。


 ……


「猛獣キャバル! 右手の木の上。3頭以上!」

 ハンドサインを交えてオフェンが叫ぶ。

 大木の太い枝をしならせ飛び移りながら、小柄な四足の猛獣が迫ってくる。

 ショウはすぐさまモールに吊られて空へと退避した、のだが。

「この地形はやりづらい」

 上空からでは、街道は木々の切れ目から見えるだけ。オフェンとディフェンがいる場所のあたりはつくが、猛獣は見えては消えてで、とてもではないが攻撃も支援もできない。

「モール、下ろしてくれ」というショウの依頼に、「うーん、大丈夫かな」と応じるモール。地面に降りると、道を挟んだ木々を飛び交いながらオフェンとディフェンを襲うキャバルが視界に入る。猛獣に遅れを取る2人ではないが、攻め返せているのはディフェンだけ。オフェンは魔法を当てられず、いたずらに炎を木々に引火させていた。


「うしろっ!!」

 いつになく大声のモールに、振り向くショウ。

 新たに現れた4頭目のキャバルが枝を飛び降り、ショウめがけて真っ直ぐに迫る。

「ぐっ!」

 体当たりを受け、呼吸が詰まる。

 地に倒れて、キャバルに組み伏せられる。

 ショウの半分ほどの身体なのに、信じられないほどその力は強い。

 左肩は防具に守られていたが、右前腕には爪が3本食い込む。

 肉が割かれ、痛みが熱い。

 キャバルが目の前で口を開く。凶悪にとがった牙が何本ものぞく。

 キャバルは、ショウの首筋へと振りかぶり――

「ボム!!!」

 頭を吹き飛ばされ、血を吹き出した。


 ショウは、初めて猛獣を殺した。


 ……


「すぱるたー」

「ピィーヒュルルー」

「フオォーーー」

「(鳴き声が可聴域外)」

 白い空間。

 翔一を非難するローリーに、「これくらいで丁度いいんですよ」「むしろ今までが甘すぎたんです」「そうです。トドメだけ仲間に任せるなど、覚悟が無いにも程がありました」とワタカシ雄とフサメカ雄とオルクジ雄が擁護していた。

 そんな会話を翔一は、大怪獣たちはいつの間に「スパルタ」の意味合いを知ったのだろうと、聞いていた。


 ……


「ショウ、大丈夫かい?」

 ディフェンは火の付いた枝を切り払っては、街道へと投げ寄せる。

「ええ、痛みはもうありません」

 ショウは魔法で水を放出して、木々を消化する。はじめは痛みと恐怖とで、上手く回復魔法を使えなかった。自身に回復魔法を使ったことは幾度となくあるが、身もだえしたくなる激痛の中、骨が見えるほどの傷を治したことはない。モールの絶え間ない励ましが無かったら、魔法を使うことができず意識を失っていただろう。

「散々な戦いだったわよね」

 オフェンにも苦い戦いだった。キャバルにあまり有効打を与えることができず、戦闘スコアの大半はディフェンに取られる結果となった。

「この戦い方のままで良いのー」

 火事と猛獣の死体の後始末を終えた3人と1妖精は、モールの言葉をきっかけに、今後の戦術について話し合いを始めた。


 ……


「猛獣イタクマ! 右の斜面。2頭、もっといるはず!」

 作戦会議を終え、東進を再開することしばらく。胴と首が長い小柄な猛獣が、木々の幹に隠れながら迫ってきた。この猛獣の特徴は群れをなすことと、魔法を多用すること――

「これか!」

 空気のゆらぎを見極め、ディフェンが大盾をかざす。すると弾ける音が数回。イタクマは空気の渦を飛ばして、獲物を斬りつけるのだ。

「ショウ、気をつけて。こちら側にもいる」

 左の木々を見据えたまま、オフェンが言う。いつの間にか左腕が割かれ、血が滴り始めていた。バリアは猛獣の攻撃には反応しない。

「フルフェイス・ガード!」

 ショウは背中合わせのオフェンとディフェンのあいだに位置し、オフェンと同じ方向を向いていた。視認困難な遠距離からの刃物のような攻撃に、ショウはフルフェイスの兜を現出させる。視界は悪くなるが、元より敵の攻撃は見えない。

「姉さん、また左!」

 ディフェンの声かけに、オフェンが広範囲の炎を放射すると。炎が2箇所、裂かれる。

「そこね!」

 身を翻すオフェン。見えれば避けることはできた。ショウは後方の様子を察知して見せたディフェンに驚く。


 先の作戦会議、オフェンとディフェンは口頭でのやり取りと並行してメッセージ機能でも話し合いをして、「センスリンク」を使用することを決めていた。センスリンクはメンバーの五感情報を共有して統合し、それぞれ自身の五感として感じることができる機能だ。つまりディフェンはオフェンの見聞きしたものを、オフェンはディフェンの見聞きしたものを、自身が見聞きしたものとして感じることができる。元は遥か昔に開発されたファー銀河連邦の戦術級軍事技術であり、今のゲームではごくありふれた一般的な機能だ。FWOの装備設定では使えない水準の技術だが、リアルにこだわってゲームがつまらなくなっては本末転倒。そこをオフェンは雰囲気重視とこれまで封印していたのだが、解禁することにした次第である。


「すっかり囲まれてしまった……」

 こちらからの攻撃は届かないと見極めたのか遠距離からの魔法攻撃しかしてこないイタクマたちに、眉をひそめるディフェン。

「もう、腹立たしい……」

 火の玉魔法をさんざん避けられ、今は広範囲に炎を展開して空気の渦を避けるのに専念しているオフェンも苛立ちを隠さない。

 イタクマは街道右側に4頭、左側に3頭。離れた木々から次々魔法を放ち続け、もはや幹に身体を隠そうともしなくなっていた。そこを。

「僕がやります。………ボム!」

 ショウはそう宣言して魔法の兜を消し、まずはとオフェン側の3頭を攻撃。

「えっ?!」

 オフェンが思わず驚きの声を上げたのも無理はない。いきなり3頭の頭が吹き飛んだのだ。

「えっと、こちら側は………4頭。ボム!」

 続いてショウはディフェン側の魔獣を見定め、魔法を行使。直接攻撃は狙いを定めるのが難しいのだが、止まっていれば造作もない。

 ショウが猛獣の口の中での爆発をイメージすると、魔法があっさりと応えてくれた。

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