2泊3日
ショウは自分の読みの甘さを後悔した。
亜怪獣カーカとは、古都ノスキャ市に向かう道中で遭遇している。行商人の護衛リイが半死半生になったのを目の当たりにしてから、まだ半月と経っていない。しかしどこかで、今回の戦闘もなんとかなるだろうと考えていた。カーカはあの時の倍以上はいるが、しかし古代人は6人もいるのだ。
カーカの第4波が飛び去った。オフェンとディフェンはまだ健在。だがオフェンのバリアは途中から発動しなくなっていた。カーカはまだ半分にも減っていない。次はもう。
「だめだよ」
ショウはずっと駆け寄ろうとしていたのだが、モールに背を強く引かれて留められていた。モールの気持ちもわかる。ショウはディフェンから、怪獣や怪人を直接攻撃したらシンガルには案内しないと告げられていた。猛獣への攻撃は良いという理屈は分からなかったがそれはおき。そんな取り引きのようなことをディフェンに告げさせたことが、申し訳なかった。
「ウォール!」
ほんのしばし黙考したショウが壁を追加する。先と同じ大きさの壁をL字状に配置。そして天には金属の網をかぶせる。
「助かる、ショウ!」
ディフェンの大声。
数の暴力である亜怪獣カーカとの戦いは、通常は殴り合いになる。やられる前にやるのだ。そして殴り勝つのに重要なのは、一瞬の大火力ではなく、広範囲への絶え間ない火力。大振りな攻撃ではカーカに当たらない。それができぬのであれば。
カーカの第5波。しかしカーカは襲う角度を限られる。2方と天頂とを塞がれ、さらには大盾。隙間を縫って狭まった空間に攻め入ると。
「スプレッド・フレーム!」
「うおおおお!」
炎の壁と絶えぬ突きが、カーカを襲う。古代人に取り憑くこともできず、数羽の仲間を失うと。カーカたちはしばらく上空を旋回し、そして林へと飛び去っていった。
……
「どうなんですか?!」
ショウは6人のもとに駆け寄る。
「もう回復魔法も手遅れだ」
首を振り、ハアルの左腕、そのリングを見せるディフェン。いつもはぼんやりと輝いているリングが、鉛のように沈んだ色をしていた。
「そんな……」
4人とも血まみれ。衣服の乱れをオフェンが整えていた。ショウが呆然と立ち尽くすと。
「来たわ」
西の空を見上げて、オフェンが言った。
……
土ぼこりを巻き上げて2機のマルチコプターが着陸。どちらも先日襲ってきた怪人たちの使用していた機体よりも大型だった。ハッチを開け、ウサミー種2人、ベエア種4人の古代人が降りてくる。そして慣れた様子で、女子4人の遺体と、カーカの死骸をマルチコプターに載せていく。4人が乗っていたパッカラも大人しく載せられている。
「ここから東にある、ブラレ町で復活させます」
ウサミー種の1人が一礼して、オフェンとディフェンに話しかける。
「ええ。(ハナシ ハ キイテ イルワ)」
思わず返して、音声を禁則処理されるオフェン。4人とはシステムのメッセージ機能で、落ち合う場所を打ち合わせ済みであった。
これが初心者向け、短期プレイ向けの国内であったのなら――これらの国には原生人はいない――、戦闘スコアこそノーカウントになるが、その場ですぐにプレイを再開できる。原生人のいるタキュ帝国では任意の古代人拠点で復活するという体裁を取り繕った手順を踏むことになり、プレイ時間にいくらかのロスが生じることになった。
「僕たちもブラレ町へ向かおう」
自身の傷を魔法で処置し終えたディフェンが、パッカランにまたがる。
「そうね。4人にはいい薬になったでしょう」
オフェンは淡々と応じながらも、汗まみれのショウに気づいてハッとする。思い返せば工業都市ミリマ市を出て以来、汗をかいたショウを見た覚えがない。移動中も戦闘中もずっと冷風魔法をかけ続けていたのだ。先ほどの土魔法と言い、限界のみえないショウの魔法に、オフェンは畏怖の念すら抱く。
「4人の遺体は、あの人達に任せるのですね」
ショウは不満を隠さずそう言い放ちながらもパッカランを呼び寄せ、2人に続いた。古代人が復活できるという話は何度も聞かされていたが、ここまで淡々としている2人の情の薄さには、文化の大きな違いを感じざるを得ない。
3人は先ほどまでとは打って変わって、黙々と東進を再開する。
しばらくして。
一行の頭上を、2機のマルチコプターが追い越していった。
……
「行ったわよー」
「うりゃあ」
「ファイヤー」
そろそろブラレ町に着くかという山あい。ショウ達一行の行手から、覚えのある声が聞こえてくる。女子4人が猛獣ピューター2頭と戦っていた。
「もう、ホント懲りないわねえ」
オフェンはどこか嬉しそうにパッカランを駈歩させる。そんな様子を見ていたショウも、古代人の復活を初めて目の当たりにして、ホッとした気持ちと、死が軽い扱いであることに抵抗する気持ちが、ないまぜになる。
「あ、オフェンだー」
「獲物を横取りしないで。私たちに必要なのは特訓なのだー」
邪魔者扱いされたオフェンは、4人を放置する。しかしショウとディフェンがおっとりと追いついた頃には、戦いは終わっていた。ジャヨーテより力は弱いものの、ピューターはその俊敏さと帯電した身体がやっかいな猛獣。なかなかの戦いぶりである。
「さっきは、その、ごめんなさあい」
ゆるふわを目指すハアルは、大鎌から短剣2刀へと武器を変えていた。
「今度は返り討ちにするぜ」
ナッツの姉御は大剣から、片手剣と小盾に。
「そうです。焼き鳥にしてみせますわ」
高貴なアキーは杖と小盾のまま。しかし高級品に変わっている。「すぐ帰るのに」という3人の説得を振り払って、武具ガチャを回した。★4だ。
「許しません。刺して刺して刺しまくって、あの羽をむしり取ってやる」
もはや地の饒舌のままと化したフーユは、大盾はそのままだが大槍を短い三叉槍へと変えていた。
そして4人ともカラフルな装いはやめにして、地味だが堅実な装備に変えていた。ハアルとアキーは動き重視の革防具、ナッツとフーユは防御重視の金属防具である。
「もう今日は嫌よ。次の町まで進んで、そこでおしまい」
オフェンの★5アイテムは数を減らしていた。バリアはもう無い。回復アイテムも1/3を消費した。亜怪獣は初心者が付け焼き刃な特訓をして倒せるようになる相手ではない。何より今晩は、リアルの宿泊部屋にケータリングサービスを予約してあった。明日には帰星してしまう4人と夕食を楽しむ予定である。
エンカウント向上アイテムを使用しない移動は、猛獣の群れに1度襲われたきりで終わる。不平の声を上げる4人に「なら明日はやっぱり(ショシンシャ ムケ ノ イベント ニ スル)?」と黙らせ、古代人拠点へと入っていった。
ショウはいつものようにモールと一旦別れ、独り、原生人の宿へと向かった。
朝からとても騒がしくて、とても華やかだった一日。
その夜は明るい月が、夜道をよく照らしてくれていた。
……
翌日も朝からかしましい一行。オフェンはガチャで引き当てた★3のエンカウント向上アイテムを使用していた。エンカウント向上効果は2つの要素があるのだが、強さ向上がレベル2、頻度向上がレベル3のアイテムである。なおいつも常用しているアイテムは、ともにレベル5。
「楽勝です。私つよいー」
「おいオフェン。もっと山ん中に入っていこうぜ」
女子4人は野獣に圧勝しては、つけあがり。
「おほほ、か弱い乙女を助けて、栄誉を授かるチャンスでしてよ」
「ディフェんくん、ショウさん、今がまさにナイトの出番です。これ以上のタイミングはありません」
猛獣に囲まれては、助けを借り。
「カーカ、カーカ、来て来てカーカ」
「カーカ、カーカ、出てこいカーカ」
「カーカ、カーカ、出ませいカーカ」
「……カーカ、ぶっ殺す」
「いくら駄々こねても(エンカウント アイテム ハ カエナイ ワヨ)」
亜怪獣と遭遇することなどはなく、ほどよい難度の狩りを続ける。
そして一行は標高1000メートルに位置する、高原都市プレサン市へとたどり着いた。ちょうど陽も沈み、薄暮があたりをつつむ。
「ショウさん、モールちゃん、寂しいけどここでお別れです」
「楽しかったぜ、ありがとよ」
「あなた方に星々の良き導きのあらんことを」
「……さよなら」
女子4人は「夜間の古代人専用便でマルセレ市へ南進するから」とショウとモールに別れを告げる。別れの理由は前夜にオフェンと相談済みだ。VR型もテーマパーク型もフルダイブ装置を介するならそのゲーム体験は同じだという意見も多いが、ともに過ごしたNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター。プレイヤー以外の登場人物)が実在する生命体であればこそ、こうした別れも格別だ。4人は「最後に」とまた代わる代わるにモールに空を飛ばさせてもらいオフェンを呆れさせて、古代人施設へと向かう。
「明日はまた昼からよ」
「この先の猛獣たちは強くなるから、覚悟しておけよ」
オフェンとディフェンも続いていく。
死にはあっさりしているのに別れへの情は同じなんだなあと、ショウはモールと一緒に6人を見送った。
……
月の裏、スペースポートの出発ゲート。そこかしこに別れを惜しむ人の輪ができている。女子4人とオフェン、ディフェンもその中にいた。ディフェンは車椅子である。
「楽しかったー。2日じゃあ全然足りないわ」
滞在は2泊3日に終わったが、まだ帰りに数日かかる。ファー銀河連邦の跳躍航法は数十万光年のジャンプを可能にしていたが、都合よく直行便があるわけではない。彼女たちは行き帰りを含めれば1週間近くをかけて、遊びに来ていた。
「テーマパーク型RPGはリアルねー」
それは語弊がある。ブラインドテストをしてVR型とテーマパーク型を言い当てることは不可能な水準にある。VR型のシミュレーションがそれだけリアルであるともいえるし、遠隔操作ロボットの五感入出力がまだ生身に追いついていないともいえる。そこにはコストの問題も絡むが。操作しているロボットが本当の世界にいるという認識が、リアルだと感じる大きな要因である。
「ショウさんとモールちゃんにまた会いたいなあ」
ファー銀河連邦にはさまざまな文明のもとに、さまざまな生物種が存在する。オフェンらの属する文明ゲムスキーの生物種群は、惑星ファンランとかなり似通っている。美醜感が一致することから、惑星ファンラン上に構築されたFWO第2弾はゲムスキー文明向けに開発された。ちなみに第1弾は別の惑星で、トバシラン文明向け――彼らは他よりも早く体験することを至上とし、ちょっとやそっとの不具合など苦にしない――にリリースされている。
「ディフェンくんも早く回復すると良いねー」
フルダイブ装置で四肢を動かそうと視神経を働かすことは、視神経の回復をうながす効果がある。その点はVR型もテーマパーク型も同じなのだが、VR型は非現実的な世界設定のゲームが主流であった。そうしたゲームでは神経への入出力も現実とは乖離したものになりがちで、医療効果を求める場合は好ましくない。
「そろそろ時間だわ。搭乗時間まであと15分、ゲートまで5分、他の乗客も多数。もう行かないと」
「寂しくなりますね。また来てください」
「ディフェンくん、そんなこと言うとお姉さんたち本当にまた来ちゃうぞー」
「今度みんなと会うのは、さすがに惑星イステヨンだと思うわ」
「そうなると良いわね。では体調に気をつけて。弟想いの素敵なお姉さまっ」
そうして女子4人は手を振って搭乗ゲートへ。
オフェンとディフェンが展望フロアに移動すると。
そこかしこのドームからランチ艇が順次発進し、上空の係留ステーションへと吸い込まれていくのが見える。ほどなくして巨大な外宙船が出港。その前方の星々の見え方が歪むや、推進光を一瞬きらめかせて、時空歪の中へと消えていった。




