生涯
彼女は“何でもする”の言葉通り俺に尽くしてくれた。
それに、侯爵夫人としての義務も欠かさなかった。
夜会やお茶会にも積極的に出かけていって、いろいろな情報を持ち帰ってきた。
彼女は贅沢をすることを嫌った。
俺が装飾品すら買おうとしない彼女に内緒で首飾りを買ってきたときは、泣きわめいて俺ではない誰かに謝り続けたため、それ以降彼女が望まない限り贈り物はしないことにした。
そんな彼女はいつも同じ服で夜会に参加した。
そのことを周りの者は嘲笑していたが、彼女はただ穏やかに微笑んでいた。
そのためか次第にそのことについて何か言ってくる者はいなくなった。
彼女の寝室からうなるような声が聞こえてきた。
また何かを思い出してうなされているのだろう。
俺は隣の部屋へ行ってうなされている彼女を叩き起こし、泣いている彼女に無理矢理行為を迫った。
俺も最初は優しい言葉をかけて慰めていたがまるで効果がなく、仕方なく薬に頼っていたがそれも今では効かなくなった。
こうなった時は強制的に疲れさせるか、強い刺激を与えないと暴れ出してしまうこともあった。
今彼女はぐったりとして眠っている。
これで、昼まで眠っているだろう。
俺は部屋を出て控えていたメイドたちを見た。
「いつも通りで頼む」
メイドたちはテキパキとお湯の準備などを始めた。
俺はメイドが運んでいる薬瓶を見る。
彼女はどんなことも嫌がらなかったが子供が出来ることだけは拒否した。
彼女は自身を殺戮者だと言い、そんな親では子供がかわいそうだと言っていつも避妊薬を飲んでいる。
避妊薬と言えば聞こえはよいがあれは毒物だ。
俺は子供の素を与えないようにして行為を行ったが、彼女は薬を飲むのをやめなかった。
あれから十五年がたった。
領都の復興はまだ時間がかかるが、それでも当初に比べてだいぶ落ち着いてきている。
一年前、彼女の妹に良縁が見つかり先日結婚をした。
妹の結婚式に彼女は参加しなかった。
彼女は妹に会うことと領地に赴くことを恐れていて、妹が訪ねてきたときは泣きながらあやまり続けていた。
彼女は心に深い傷を負ってしまっていた。
それ以降、俺は妹に会わせることも領地へ誘うこともあきらめた。
俺は約束通り彼女の妹の夫に爵位を譲った。
その日から彼女は少し安らいだ表情をするようになった。
うれしかった。
彼女はこれまでつらい思いをたくさんしている。
そろそろ領地に縛られずに穏やかに暮らせるようにしてあげたい。
俺は実家の領地に小さな屋敷を用意してそこに移り住むことに決めた。
実家は帝国がある西とは正反対の東の国境に位置しており絶好の場所だ。
俺は友人のご婦人に協力してもらい内緒で引退後の彼女に必要な物を買いそろえた。
彼女にどんな物が必要なのかよく分からなかったからだ。
俺とご婦人が買い物をしていることが彼女にばれてしまったが、以前彼女に贈り物をしたときの騒ぎを思い出して、友人の結婚祝いを探していたと誤魔化した。
そして彼女に湖畔の屋敷で静かに暮らす準備が整い明日集発してもらうことを告げた。
俺が幼い頃家族でよく行った場所で、今はちょうど夏で涼しく、近くには美しい滝や花畑もあると話した。
彼女はいつもの貼り付けたような偽りのほほえみではなく、本当の笑顔を浮かべてくれた。
とてもうれしかった、俺は明日が楽しみで眠れそうにない。
(ああ、ついにこの日が来たのですね)
翌日、暑さで朝早く目覚めてしまい俺は隣の彼女の部屋にこっそりと忍び込んだ。
寝ている彼女は安らかな笑みを浮かべていた。
彼女がかわいすぎていろいろしたくなってしまったが午前中には湖畔の屋敷に出発する予定なのでぐっと気持ちをこらえた。
やさしく彼女のほほに触れるとそのひんやりとした冷たさが、俺の浮ついていた気持ちを冷ましてくれた。
俺は水を飲むためにサイドテーブルにあった水差しを取ろうとして、脇においてある手紙を見つけた。
どうやら妻から俺への手紙のようだ。
何が書いてあるのだろうか、俺は彼女からの手紙を読んだ。
今までありがとうございました。これからはお幸せに
ミーシャ・エスケルト




