その17
「そう、やはり、始まったの、先制攻撃。それで、ハメリカはキタコウライに対して宣戦布告をしたの?」
この問いは私がトヨトミ侍従長に対して出したものだ。もちろん、侍従長はすぐに答えた。
「はい。しかし、先制攻撃と同時の宣戦布告になりました」
「あ、そう。真珠湾攻撃のときと同じになったね。それにしても、大国が小国に対してそれをするかね」
「もちろん、好ましいことではありませんが、こちら側の犠牲者数を減らすには、それが最善の策と思われます」
「それは、まあ、そうだね。なら、これからシェルターに入るわけだね」
「さようでございます」
すると、コカが心配そうに言った。
「私たち、テニスウェアよ。お洋服はどうするの?」
これには妃のコチミが答えた。
「お洋服ならちゃんと用意してありますわよ。お洋服だけでなく、何もかも揃っているそうですよ。楽器まで置いてあると聞きましたよ。さあ、心配せずに皆で急いで行きましょう」
私たちは、シェルターへと急いだ。
そして、私の家族の全員がシェルターに入った。
私の家族とは、すなわち、妃のコチミ、北宮の三人、ハルノ宮家の五人、そして今はもう皇籍を離れているが私の娘のサヤカそしてその夫だ。
ただし、シェルターに籠るのは私たち皇帝家だけではない。皇族には従者が必要だ。
具体的には、皇帝警察の所長と若い警察官二名、侍従長と侍従四名、女官長と女官四名、いわゆる皇帝の料理番二名、男性医師一名、女性医師一名、女性看護士二名、男性看護士二名の計二十一名の従者たちが私たちとともにシェルターに入った。
それと、後からやってくるのだが、もう一名の男性もシェルターに入る。その男性とはハルノ宮家の長女コマの婚約者だ。
つまり、私を入れて全員で三十二名がシェルターの中で暮らすことになる。
さて、そのシェルターに入ってみると、そこは予想以上に大きくて立派な空間だった。
ベッドルームだけでも余裕の五十部屋もある。
このシェルターは、私と妃の御殿の地下にあるわけではない。
先の皇帝と妃が住んでいた御殿の地下にある。
つまり、第二次世界大戦中に防空壕として使用されていた空間なのだが、大幅な拡張と改装が施されており、全く別の施設になっている。
おそらくは、世界でも数番目に大きなシェルターだろう。備蓄されている物資も豊富にあり、総勢で三十二名でも二十年以上持つらしい。
その日の夕方になるとコマの婚約者も加わり、夕食時には全員が揃った。
ところで、皇帝警察の二名の若い男性警察官なのだが、その内の一名は、私のマックフライポテトを横からつまんだ例の長身の警察官だ。
夕食が始まった。
初日だけに生鮮食品も豊富にあり、何の不満もない夕食だ。
皇帝家の人間は食事中にテレビなど視ない。会話も最小限にする。
しかし、今日の夕食は特別だ。
壁に備え付けられた100インチのテレビがオンにされている。
THKのニュースが流れている。もちろん、全員がニュースを注視している。
ハメリカ側の攻撃は、現在のところ、私たち夫婦が見通しを聞かされたとおりの展開になっている。
すなわち、ハメリカ側の一方的な大攻勢が続いている。
開戦当初は、予想された通り、ソウルがキタコウライ側のおびただしい数の砲弾を浴びたわけだが、すぐにハメリカ軍がキタコウライ軍の全ての火砲を爆撃で破壊してしまった。
やはり、在来兵器では、キタコウライ軍はハメリカ軍に全く歯が立たない。
在来戦力では、大人と子供以上の違いがある。
そのような一方的な戦況を見た北宮が早々と楽観を口にした。
「どうやら、あの『おデブさん』は地下室で縮み上がっているようですね」
その楽観をコチミがたしなめた。
「楽観視するのは、まだ早いですわよ。奇襲の先制攻撃だったから、あの第一書記も今は浮足立っているかもしれませんが、しばらくしたら落ち着くでしょう。怖いのはそれからですよ」
ところが、たしなめられた北宮は、あさってのことを言った。
「お母様は、『おデブさん』でイ・ドンドン第一書記のことと気付かれたのですね」
「他に『おデブさん』なんかいないでしょ」
妃のコチミは僅かな笑みを浮かべながら返事した。
=続く=




