フランの出逢い
「ジェームスさん……僕は悲しいですよ。
まさかこうしてあなたと剣を交えることになるとは」
「おいおい本気で言っているのか?
お前はこっちについたんだろ。
国を捨てたのはお前も同じじゃないか」
フランが眉をひそめる。
「あなたと一緒にしないでください。
僕は目的があってこの方法しか選べなかった。
目先の欲に溺れたわけじゃない」
フランは剣を弾いて後方へ下がった。
ジェームスが突きの構えを見せながら笑みを浮かべる。
「自分を棚に上げてよく言ったもんだ。
王女の命を狙っておいて。
俺の事情を知らないのはお前も同じだろう」
フランは剣を構え魔力を込め始める。
だがその瞬間にジェームスが動き、フランの左肩に剣を突き刺した。
ジェームスはそれを素早く抜き後方へ下がり、次の攻撃のためにまた構えを見せる。
フランはよろけ、左肩から細く血が流れる。
だがすぐ両手で剣を握りしめ、体勢を整え次の攻撃に備える。
フランは背後のトニーへ向かって叫ぶ。
「トニーさん!! 早く剣を!!
殺らなきゃ殺られるんだ!!」
トニーはフランに言われるがまま剣を手にし、同じように構え始めた……
―――フラン 幼少時―――
フランは幼い頃、それまで暮らしていた修道院から城へ連れて来られた。人より秀でた強い魔力を持っているためであった。
城の中へ入ると豪華な置物や今まで見たこともない装飾だらけで、城の従者に手を引かれながら上ばかり見て歩いていた。
目の前を通り過ぎる人々があまりにも美しい召し物だったため、汚れて破れた自分の服が恥ずかしくなった。
まるで別世界、そして自分とは違う生き物が棲んでいるのだと幼心に思った。
案内されている時、しばらく待っているように言われ椅子に座るよう促された。
椅子があまりにふわふわで驚き、本当にこんな美しい物に汚れている服で座っていいのかわからず、一人で椅子とにらめっこをしていた。
集中して椅子を見ていたのだろう、気づくと横に自分より少し背の高い、金の長い髪の男児が立っていた。しかも険しい顔で睨んでくる。
これがトニーとの初対面であった。
トニーはいきなり拳をつくり上にあげた。
そしてそれをフランの頭へ思い切り振り下ろした。
「いったあ……!!」
先に声を上げたのはトニーの方だった。
「なんだよこの石頭……!」
殴った拳をもう片方の手で何遍も何遍もさすっている。
フランも勿論痛かったのだが、先に言われたので何も言えなかった。しかもトニーは涙目だ。
「こらトニー!!」
離れた場所から男性が駆け足でやってくる。
トニーと同じ金の髪の男性、ジェームスだ。
トニーの前に来たかと思うと、トニーの頭を拳で殴った。
「いってえな!! なにすんだよクソおやじ!」
トニーが即座に声を上げた。
「お前が何やってんだ!! いきなり人を殴るなんて!!」
「父さんがいったんじゃないか!!
あやしいやつが城のなかにいたらやっつけるのが仕事だって!!」
「バカかお前は!! 相手は子供だろうが!!
本当に怪しいかどうか手を出す前にちゃんと調べろ!!」
ジェームスはフランの前に行き、同じ目線になるように膝をついた。そして深々と頭を下げる。
「うちの愚息が申し訳ないことをした。
今後このようなことは絶対に起こさせない」
そう言いながら殴られたフランの頭をさする。
フランは心がむずかゆくなるのを感じた。
そしてフランは数日後いなくなった。
自分のいた世界とあまりにもかけ離れていてどうしていいかわからなくなった。
美味しいご飯、優しい大人たち、綺麗な服。
自由に遊んでいいと言われてもどう動いていいかわからず、空ばかり見ていた。
魔力が強いと言われたが、それで何をすればいいかわからない。何も求められないので自分のいる意味がわからない。
優しくされればされるほど寂しくなった。
修道院のみんなに会いたくなってしまった。
夕暮れ時こっそり城を抜け出したが、森に入りしばらく歩くとどちらから来たかわからなくなった。
前も後ろも右も左もわからなくなった。
すぐに辺りは暗くなり、大きな木の根元にあった窪みに身体を忍ばせた。
雨も降り出してきた。葉をすり抜けた雨が身体に落ちてくる。冷たい水に恐怖を感じ始めた。
引き返したくても帰り道がわからない。
修道院に戻りたくても行き方がわからない。
雨の匂いと雨音に包まれる。
お腹がすいてきた。夕食前に出てきたことを思い出す。あのままいればお腹が空くこともなかった。
手が冷たくなってきた。寒さを感じていたがそれにも慣れてきた。足先が痺れてきた。
遠くから何かが近づいて来るのを感じた。
ガサガサと葉を踏む音がどんどん大きくなってくる。




