それぞれの戦い
「もういいだろ」
いつの間にか背後に立っていたゼインが私の腕に触れ剣を下げさせる。そして続ける。
「なんだこれは一方的に。
こんなもの兄弟喧嘩どころか、じゃれ合いにもなっていない」
「お前に関係ないだろ」
アストラがイラッとした顔を見せる。
ゼインがアストラの前に立ちはだかる。
「あるんだよ。俺の愛する者たちが傷付けられるのを黙って見ている訳にはいかない」
アストラがますます顔を険しくしている。
「ゼイン! 野獣たちはどうなったの!?」
広間の奥を見るが暗く詳しい様子がわからない。
剣や爪に当たる音が聞こえるので誰かが戦っているのだろうと予測は出来る。
「……大丈夫だ。信頼出来る者に任せてある」
―――それから少し前―――
ゼインは、ナターシャとリオールを結界の中に入れ、カイトやドレイクと共に野獣と戦っていた。
戦うと言っても負傷させてはならないとメアリーに言われたので、体勢を崩させたりして戸の奥へ誘導するしかない。
ナターシャの魔力は全ての野獣に効くわけではない上、完璧に操ることが出来た訳でもなかった。多少は効果があったのだが、攻撃性を全て取り除くのは不可能だった。
野獣とやり合いながらカイトがゼインへ語りかける。
「兄上が、父上と母上を殺したのではなかったのですね」
言いながら野獣を蹴り飛ばす。
「お前がそう思っていたのは知っていた。
……クソ! 殺すなら簡単なのに傷を付けず移動させるなんて……!」
別の野獣を刀の鞘で戸の方へ押し飛ばす。
カイトは動きを止めゼインの背へ声を上げた。
「ではなぜ本当の事を教えてくれなかったのですか!?
俺は兄上が殺したと思っていたからあんな態度を……」
ゼインは背を向けたままそれに答える。
「国外追放を望んだのは事実だ。
それに他の誰でもない、俺を恨む分は仕方ないと思っていた」
「どうして!? 俺は兄上を恨みたくなんてなかったのに……!!」
「何の目的もなくフラフラしていたお前が、
復讐を生きる糧にした途端に輝いていたし、
結果、それのお陰で騎士団長にまで上り詰めただろう。
人にも鳥人にもなれなかったお前がやっと自分の居場所を見つけることが出来たように見えた」
ゼインは野獣を一度の蹴りで数匹まとめて転がしながら続ける。
「それに比べれば、恨まれ生命を狙われることなんて安いもんだ」
「兄上……でも俺は……」
ドレイクが急ぎ足でやってくる。
「我が王! メアリー嬢の所へお急ぎください!
アストラ殿が動き出しております!!」
離れた所に兵士たちが血だらけで倒れているのが確認出来る。その近くにメアリーの姿もある。
「だが、まだ野獣が……」
すぐに行きたい気持ちを無理矢理抑えつける。
まずは目の前のことから一つずつ片付けなければ、途中で放り出しては後から全て覆されることだってある。
「兄上! ここは大丈夫です!」
「そうは言っても……」
ドレイクが白い歯を見せる。
「我々を信じてください。カイト様も見違えるほど立派になられておりますよ!
あなたと同じ血が流れているだけのことはある!」
カイトに目をやると、力強く頷いてみせた。
「そのようだな……では頼んだぞ」
フッと笑みがこぼれる。
――――――
向きを変えメアリーの方へと足を進める。
走りながら剣で空を振り払い鞘に戻した。
アストラから蹴られたアーシュが床に転がっていくのが見えた。
次はメアリーの番だとしか思えなかった。
……アストラの行動が読めない。
何が目的だ?
殺しか? ならばもう殺しているはず。
楽しんでいるのかこの状況を?
愛しているから苦しめるとはあいつも相当歪んでいる。
愛を知らず生きているとそういう考えにもなるのだろう。俺も人のことをとやかく言える立場ではない。
アストラの気持ちは多少なりわかる。
人の命を重んじれない自分に苛立つ気持ちも。
ただどんな理由であれメアリーを傷付けるのは許せない。
そして、アーシュは剣を抜かなかったが、メアリーは抜いて構えている。
それでどうするわけでもないだろう。
そこまで追い詰められてしまったのか。
あの剣の使い道を理解してないようだが……
――――――
「アストラ、俺が相手をしてやろう。
この二人では遊び相手にもならんだろう」
ゼインは言いながらゆっくり剣を抜き、それをアーシュへ向ける。
「ゼイン! 私たちは兄さんを傷付けたくない……」
ゼインは顔だけ軽く向いた。
「わかっている。
お前たちは今なすべきことをしろ」
「おいおい、またおしゃべりか。
命の危険に晒されているというのに余裕だな」
アーシュは軽く笑みを浮かべ剣先をゼインへ向ける。
「では相手をしてもらおう」




