戦う理由
「リオール!!」
駆け寄り声を掛ける。大きな傷はなさそうだ。
……しかし、目を覚まさない。
トニーが他の野獣の相手をしながらこちらに目を落とす。
「死んだのか……?」
確かに、以前の野獣たちは負傷したり死んだりすると子供の姿に戻っていた。
手が震え始める。死んでたらどうしようと心が疼く。
震える手でリオールに触れてみた。
首元に触れ、胸を見る。
「……呼吸もしてるし、心臓も動いてる……」
眠っているだけのようだ。
「良かった……」
近寄ってきたアーシュが泣き出しそうな笑顔を見せた。
切ったミサンガを拾い、リオールを抱きかかえ立ち上がるとあっという間に四方を野獣に囲まれた。
人間に戻ったリオールも攻撃対象になったのだろう。次々に野獣が集まってくる。
リオールを抱えたまま剣を振り回すことは出来そうにない。
トニーとアーシュはそれぞれ他の野獣の相手をしており、こちらに来る余裕はなさそうだ。
ゼインが察したようで向かって来るのが見えた。
だがその距離では間に合わない。
野獣が飛びかかろうとしている。
その時、城の外から地響きのような獣の大きな咆哮が聞こえた。
振り返るより早く、風とともにその姿が目の前に現れる。
艶があり光輝く白い毛を纏った、大きな白ライオン。
そのライオンが野獣の方を向き、体の芯まで響くような咆哮を上げる。
それを聞いた野獣たちは怯えた様子でその場から動けなくなった。
自然と口からこぼれる。
「レアン様……?」
たった一瞬でレアンの優しい笑顔や過ごした日々が蘇る。
美しいライオンが顔だけこちらを向き、言葉を発す。
「私です。アーサーです」
「アーサー!? でも大きさが……」
私が言い終わる前にアーサーが人に姿を変える。
その姿を見て息を呑む。
「本当にアーサーなの!?」
以前会った時は15歳前後に見えたが、今の姿は20歳近い青年に見える。肩までだった白い髪は腰近くまで伸び、背丈も高くなっている。瞳や表情はあの時の面影を残してはいるが……
私の言いたいことに気付いたようで先に言われる。
「私たちは獣の血が混じっているので、ある時期に成長が早くなるのです」
「凄い……! 見違えたね……」
その姿に見惚れてしまう。
ハッと我に返り質問をする。
「なぜここに?」
「父上が亡くなってすぐ兄上のザイオンが国王になりました。すると、私たちの国をこの国に全て渡すというのです。
そんなこと許せるわけがな……」
アーサーが何かに気付き、瞬時にライオンの姿になる。獣の唸り声が聞こえたかと思うと、アーサーライオンの首に同じ位の大きさの白ライオンが噛み付いてきた。
アーサーライオンは身体を翻しそれを振り払う。
二匹は辺りをぐるぐると周りながら、距離をとり唸り合いを続けている。
徐々にまた野獣が動き出す。
アーサーの咆哮で動きが抑えられたのはほんの僅かの時間だけだった。
ゼインがそばに来てリオールを抱きかかえる。
それを見上げながら質問をする。
「リオールはどうして元に戻ったの?
他の子も戻せる?」
「いや、他は無理だ。
この子供は魔道具を作る希少な種族の子供だろう。
ミサンガは切ると願いが叶う強い魔力がかけられていた。
そしてこれは魔剣でしか切ることができなかった」
「それで私に……」
「これは生命と引き換えに作られたミサンガだ。
どんな毒も傷も治すことができるようになっていた。
この子供の身近な者にしか作れない。
魔力の性質からして作ったのは恐らく母親だろう……」
「じゃあリオールの母親はもう……」
「ああ……」
リオールに目をやるとまだ眠っている。
ゼインの腕に抱かれ心地よさそうにすら見える。
野獣たちの唸り声で現実に戻される。
じゃあどうすれば……
振り出しに戻っただけだ。何も解決はしていない。
辺りを見回しあることに気付き走り出す。
ある人物の前で足を止めた。
「ナターシャ!!」
ナターシャは驚き私を見る。
「あの野獣たちを操って元の部屋に行かせて!!」
「は!? そんなこと出来るわけ……」
「きっと出来る!! 理性が抑えられている野獣ならあなたの魔力は効果があるはず!!」
「……」
「ナターシャ!! お願い!!
こんなこと頼めるのはあなたしかいない!!
あなたにしか出来ないの!!」
ナターシャは表情を曇らせる。
「出来るかわからないけど……」
そう言って杖を高く掲げ、呪文を唱え始めた。
次第に野獣たちの目の色が変わっていく。
赤から紫、紫から青へとゆっくりだが確実に変化している。色が変わり始めると動きが鈍くなり、次第に広間奥の戸の方へ動き出す。
「凄い……凄いよナターシャ!!」
野獣たちを目で追い、ナターシャに目を戻した瞬間、目の前にフランが立っていた。
ナターシャに剣を振り下ろすところだ。
突然のことに反応出来ず、うまく剣が抜けない。
ナターシャはフランに気付き怯えた顔になるが、逃げる素振りを見せず呪文を唱え続けてくれている。
振り下ろされた剣がナターシャの首に触れる瞬間、それを別の剣が止めた。




