黒幕
湖に囲まれている城なので橋を渡って行く。
この一つの橋で城を築いたのか。
この橋が落ちれば全員城から出れなくなるのか?
いや、鳥人や空を飛ぶ魔力があればなんとかなるかもしれない。
橋から湖を見下ろすが、相当の高さがありひとたび落ちれば命の危険があることがわかる。
思わず足がすくみ立ち止まる。
「大丈夫ですか?」
ミアが私の様子に気付き声を掛けてくれる。
「う、うん……」
高い所は苦手なのだ。子供の頃、公園の滑り台の高さですら具合が悪くなることがあった。
でも今はこんなことくらいで足を止めるわけにはいかない。
何事もなかったかのように平静を装いまた歩き出す。
城の中に入ると冷たい空気が流れている。
例えではなく本当に温度が冷えている気がした。
私たちは大広間に通された。
中に入った兵士たちは、示し合わせたように頭の鎧を外し顔を見せ始めた。
その様子を静かに見守っていたアーシュが慌てた様子で、だが抑え気味に声を出す。
「トニー!! 周りを見ろ!」
トニーは言われるがままに周りを見回し始める。
私たちは前も後ろも兵士たちに囲まれている。
その兵士たちも面を外しだした。
「なんだこれは……」
トニーは見回し続けたまま、唖然とした様子で言葉を発した。
「信じられない……」
ミアまでも同じように戸惑いを見せている。
私だけが取り残されたように事態を把握出来ていない。
「何!? 何なの!?」
ミアが恐る恐る話し出す。
「この兵士たちは……我が国で亡くなったと言われていた人々です……」
「どうして死んだ人間が……」
「私にもわかりません……」
アーシュが静かに呟いた声が聞こえてきた。
「まるで黄泉の国だな……」
囲んでいる兵士たちより遠くに、ザイオン、フラン、モネの姿を見つけた。
この国で雇われていたということか。
命を狙ってきたのはやはりこの国の……。
トニーが何かを探しているように見える。
すると一点を見つめ驚きの表情を浮かべ、高く声を上げる。
「父さん!!」
その視線の方へ行こうとするので、ゼインが即座に腕を掴んだ。
「落ち着け! 何があるかわからない!」
トニーの視線の先には、トニーによく似た中年の男性が立っていた。父親というのは本当だろう。
トニーはゼインの声で我に戻るが、視線は動かせないでいる。
ふと大広間にある階段から誰かが下りてきているのに気付き、そちらに目を向ける。
兵士たちが鎧のガチャガチャとした音を立て次々にひざまずき始めた。
ああ……そうか。
この周りの状況を見ていなければ信じられないことだったろう。
だが、周りがこうであれば納得がいく。
むしろ相応しい。
……けれど信じたくはない。
階段を下りてきたのは、
幼い頃死んだと言われていた……
「アストラ兄さん!!」
「兄さん!!」
私とアーシュの声が重なる。
王族の装飾が施された美しい服を着ており、凛としたその姿は知っていたアストラとは程遠い。
「じゃあ……兄さんが私たちの命を狙っていたの……?」
思わず声がこぼれる。
アストラは階段の中腹で足を止めた。
こちらに向けられる視線の冷たさにゾクッとする。
「……全ては王の意思」
冷笑を浮かべこちらに目を落とす。
「王……?」
アストラもその場に膝をつく。
そして、私たちの方にまた視線を向ける。
「フォルトゥーナ王国の王に跪け」
「ふざけるな!!」
アーシュが爆発したような怒りを込めた声を上げる。
「フォルトゥーナ王国は我が国の名だ!!
こんなわけのわからない国の名前なんかじゃない!!」
「ふざけてなどいない」
アストラは感情のない声で答えた。
階段の上にある扉が開かれる。
そこから人影が現れ、アストラとは比べ物にならない豪華な装飾を纏った男性が現れた。
恐らくこの人物が王だろう。
金の髪と髭が特徴的だ。右手には金の剣が握られている。
金の髪? もしかしてこの人は……
その人物に目を奪われてしまい、周りの様子を見るのが遅れてしまった。
周りはその人物に釘付けになっており、ゼインまでもが目を逸らせずにいる。
皆の表情から一様に驚愕と恐怖が見てとれた。
兵士たちも音を出さないので静かな空間が作り上げられる。
沈黙がしばし流れたがアーシュがやっとのことで声を絞り出した。
「父上……」
その声は儚くすぐ消えてしまいそうで胸が苦しくなった。




