黒髪の少女
少女の言葉を聞き、各々が素早く剣を構えた。
ミアも私の前に来て腕を広げ守ろうとしてくれている。
私を姫と知っているだけでなく、アーシュが王子であるということも知っている。
そのことは国の中でもごく一部しか知らないというのに。
実際、私自身も「アーシュ王子」という言葉を初めて聞いた。
空気が張り詰め沈黙が続く。
魔力を感じる力があれば、この子の強さがわかるかもしれない。
それがわかれば次の行動も取りやすくなる。
少女が微笑みながら沈黙を破る。
「メアリー姫とアーシュ王子のお命を頂きに参りました」
深々と頭を下げる。
やはり敵……!?
少女は頭を上げると同時に杖を頭上に高く上げた。
何やら呪文を唱え始める。
私も剣を構え攻撃に備える。
少女が一段と声を大きくした時、杖の宝石が黒く光輝いた。その一瞬で空が暗くなった気がした。
トニーやアーシュが空を見上げているのに気づき、慌てて目線を追う。
目線の先には上空に羽ばたく三匹の黒いドラゴンがいた。
ドラゴンたちは私たちを取り囲むように一匹ずつ地上に降りてくる。森の中で広さがないため、地上に降りるたびに木がなぎ倒されていく。
「ドラゴンを操っているのか……」
トニーが確信したように声を発する。
それを聞いた少女が嬉しそうな顔でこちらを見てくる。
「フフ……ドラゴンだけじゃないわ。
動物を操ることが出来るよ。本能に働きかけるから、人間も理性をまだ備えていない赤ん坊なら操ることが出来る」
「赤ちゃんを操るなんて気持ち悪い……」
思わず口走ってしまう。
少女がイラッとしたのを瞬時に感じ取る。
「さあ、殺しなさい」
少女は私たちから距離をとりながらドラゴンたちへ命令した。
森の中で木々に阻まれていることもあり、身動きが取りにくい。私たちでそうなのだから、身体が大きいドラゴンは尚更だろう。
ドラゴンたちは、爪の長い岩のような手で木を倒したり、口で咥えて木を折ったりして近づいてくる。
四方八方から木の折れていく音が止まらない。
「一旦離れるか……」
アーシュがドラゴンを見たまま、私たちに聞こえるよう言う。
それにトニーが続ける。
「このまま同じ場所に固まっていては、一匹の攻撃で全員が負傷する恐れもある。離ればなれになって、倒した者が他の者を助けに行く方が無難だな……」
トニーとアーシュで一匹ずつ。
私とミアで一匹。炎の魔力が使えれば可能性はあったかもしれないが、この剣とミアの魔力だけでは倒すのは難しいだろう。
時間稼ぎをして他の者の助けを待つしかない。
「じゃあな! 助けに来るから逃げたりして時間稼いどけよ!」
アーシュが言いながら走り出す。
トニーはアーシュと反対の方へ向きを変える。
「みんな絶対死ぬなよ!」
ドラゴンはそれぞれ二人の背を追いかけ始めた。
目の前には一匹が残る。赤い瞳はギラギラと燃えたぎって見える。
二人が小さくなるに連れて不安が膨らんでいく。
だが、やるしかない。
その思いはミアも同じのようだ。
とりあえず距離をとるためにミアと走り出した。
木々が盾になるので時間を稼ぐ事が出来る。
出来るだけ木が多い場所へと足を進める。
ドラゴンは木々を倒したり、口からの炎で燃やしたりしながら私たちに一直線に進んでくる。
と、その時ミアが木の幹に足を取られて転んでしまう。
「ミア!!」
足を止め、ミアの元へ引き返す。
「来ては駄目です!! 早く逃げてください!!」
ミアの元へ行き、手を引っぱり立ち上がろうとすると、目の前にはドラゴンの姿が。
ドラゴンが手を大きく上へと上げる。振り下ろされるのがわかるので、剣を構えた。
一瞬のことだった。
剣に衝撃が走り、身体ごと思い切り振り飛ばされてしまう。飛ばされた先の茂みの中へ身体が埋もれてしまった。
「いった……」
ゆっくり身体を起こす。
茂みが軽いクッションにはなったようで、身体中傷だらけ。服がところどころ破けているが、骨は折れていなさそうだ。剣に当たった衝撃でまだ手がじんじんと痺れている。
飛ばされても剣はしっかり握っていたようだ。
急いでミアの姿を探す。
すぐに少し離れた場所にミアを見つける。
良かった、傷はなさそう。
だが恐怖に顔を歪めている。
ハッと気配を感じ背後を振り返る。
口からよだれをダラダラ流しながら黒いドラゴンがこちらを見ている。
ちゃんとあの少女の命令に従い私を狙ったのか。
……でも良かった。ミアが無事で。
痛い身体をごまかしながら立ち上がる。
もう全身痛い。
なんか懐かしいな。この痛みはこの世界に初めて来た日みたい。あの時も身体中すごく痛かった。
あの時は……
いや今は思い出している場合じゃない。
またドラゴンが手を上昇させている。
また来る。
あの衝撃が。
また飛ばされる。
さっきと同じように剣を構える。
瞬時にキーン! と剣に当たった音が辺りに響き渡った。
だが、今度は衝撃を感じない。




