兄として
「アーシュのこと恨んでるの?」
思わず口にする。
アストラは軽く笑った。
「いやまさか。羨ましいと思ったけど、憎んではいない。
実際に二人に会えてとても嬉しかったし、心から大切にしたいと思った」
アストラは深呼吸をして話し出した。
「本当はずっと二人と一緒にいたい。ずっと。
死ぬまで。
……でも、もう行くんだろ?」
アストラがゆっくりと目を合わせる。
「旅の準備が終わろうとしているよね」
「う、うん……
明日には出て行こうと思ってる……」
流石に次の国には連れて行けない。何があるかわからない。アストラを危険に晒したくはない。
「本当は一緒に連れて行きたいんだけど……」
「わかってる。
だから一つ約束をしてくれないか?」
アストラの瞳を見つめたまま答える。
「うん、何? 私に出来ることなら」
「全てが終わったら、君たちの国に連れて行って欲しい。
俺の産まれた国に。」
「もちろんよ! むしろ来てほしいし、
王族しか知らない秘密の丘にも連れて行きたい!」
「フフ……嬉しいな。」
そう笑って遠くを見たかと思うと、パッと目を戻してくる。
「何があっても、だよ」
「え……うん。
そうだ! 指切りげんまんしよう!!」
「え? 何それ」
「約束をする時にこうやって小指と小指を絡めて約束するの!」
それを見てアストラが呟く。
「無理だな……」
「え? なんで……」
私が言い終わる前に腕を引っ張られ、強く抱擁される。
「小指なんかじゃ足りないよ。全身で約束して」
アストラの背に腕を回す。
「約束する。必ず国に連れて帰る」
その時、トニーが部屋へ入って来た。
「ちょっ……アストラ!
その愛情表現どうにかならないのかよ……」
呆れたような表情でこちらを見ている。
アストラは私を離し、さっとトニーへ身体を向ける。
「君とも話をしたかった」
「え? なんだよ……」
アストラはトニーに近づきながら話し出した。
「君はメアリーが好きだろう?」
「は!? 何を本人の前で……!」
トニーが動揺し私の方に目をやる。
アストラが不適な笑みを浮かべ、トニーの頬に触れる。
「わかるさ。君のメアリーに対する視線を見れば」
トニーが口籠るが、それを尻目にアストラは続ける。
「君は、メアリーが危険に晒されば自分の命を捨てても助けようと思っているだろう?
だが、メアリーは心が綺麗な子だ。
そんなことは望んでいない」
「なんだよ……命を大切にしろとでも言いたいのかよ……」
トニーはアストラから身体を離しながら答えた。
「ハハッ……まさか。」
アストラはぐいと顔を近付ける。
「俺にとって好都合なんだよ、君は」
笑顔だが目の奥が笑っていないのがわかる。
「俺は全人類を愛するような人間じゃない。
俺が愛しているのは、メアリーとアーシュだけだ。
君の命よりメアリーやアーシュの命が大切なんだよ」
トニーはアストラから目が離せず動けなくなる。
「だから君が命を捨ててもメアリーを助けたいなら、是非そうしてくれ。できればアーシュも。
命は平等だと言う馬鹿もいるが、人によって重さは違うんだよ。
だってそうだろう?
目の前を歩く見知らぬ老人か、我が子のどちらかしか助けられなかったら、どちらを選ぶかは明白だろう?」
「言われなくてもそうするさ!
今までだってそうやって生きてきたんだ!!」
トニーは圧倒されながらも強く言い返す。
私には、アストラが敢えてトニーを煽っているように見えた。
トニーも私がそれを望んでいないことは百も承知のはず。今はその煽りに乗るしかないのだろう。
「だいたいお前の妹や弟に対する愛情表現の過剰さはどうにかならないのかよ!
俺も妹や弟がいるから気持ちはわかるけど……」
トニーの言葉にアストラが目を輝かせる。
「え!? 君も兄なのか!?」
「あ、ああ……」
それから数分後、二人は非常に盛り上がっていた。
トニーが笑顔で語っている。
「一番下の妹なんか、会ったらすぐに抱っこしてって走ってくるんだ!
抱き締めても抱き締めても足りないくらい可愛いんだよ!」
それにアストラも反応する。
「わかる!! メアリーもどんなに撫でても撫で足りないんだ!!
そうか! 抱っこすれば肌も密着して可愛さも堪能出来るのか!!」
その時、アーシュが帰って来た。
「ただい……ま!?」
アーシュが言い終わる前にアストラが抱きかかえる。
「本当だ!! 抱っこすると可愛さが増す!!」
「ちよっと!! やめ……!
お姫様抱っことか、やるのはいいけどやられんの恥ず過ぎる!! マジで降ろして!!」
アーシュが逃げようとするが、アストラはますます抱き締めている。
「あーー可愛い可愛い! なんて可愛いんだ!!」
思わずそれを見てみんなで笑ってしまう。
こんな日が毎日続いてほしいと願わずにはいられなかった。




