向き合う時
この前と同じ道を歩く。
同じ道でも疲れているためか時間がかかり、遠く感じる。
やっと着いた時には疲れ果て、立っているのもやっとで思わずその場に座り込んだ。
そして近くの岩にもたれかかった。
数日前と同じように遠くまで見通せる。
この風景は何も変わらないのに。
こんなに苦しいなんて。
風に頬をなでられる。
髪をそっと持ち上げられる感覚。
気持ちいいのに心が晴れない。
魔力が使えないなんて。
振り出しに戻った?
いや違う。
元々出来ないのと、それまで出来た事が出来なくなる事では、意味合いが大きく変わってくる。
魔力が使えないならここにいても意味がない。
何の役にも立たない。足手まといでしかない。
子供を殺めてしまった事が影響しているのか……
肌寒くなり目を開けた。
辺りは薄暗くなり、眼下の街には明かりが灯っている。
しまった! いつの間にか寝てしまった!
昨晩は一睡もしていないので仕方ない。
そう言えばトニーが迎えに来るって言ってた。
急いで帰らないとまた心配をかけてしまう。
背後からガサッと音がしたので慌てて振り返る。
トニーに謝らないと。きっと怒って……
「……え?」
そこには縄で縛り上げられうつ伏せにされたトニー、その縄を引っ張りながら背を踏みつける黒いコートを着た女の姿があった。
トニーの剣を持ち、トニーへ刃先を向けている。
すぐにわかった。……モネだ。
「あら? やっと起きたのね」
不適な笑みを浮かべこちらを見ている。
私が気付いたことを確認すると、
トニーの背をドシドシと踏みつけ始める。
その度にトニーからうめき声が漏れた。
「やめて!! トニーを離して!!」
トニーがこんな女に捕まるなんて……
私の考えを読み取ったかのようにモネが話す。
「アンタを殺すって言ったら簡単に着いてきたわよ」
「メアリー……逃げ……ろ」
トニーがなんとか顔を上げ言葉を発した。
「うるさい!!」
モネが高い位置から足を振り下ろした。
トニーから低い声が漏れた。
「やめてって!!
フランを取り戻したんだからいいでしょ!!
トニーは関係ないじゃない!!」
「うるさいうるさい!! アンタを殺したいのよ!
さっさとこっちに来い!
こいつを殺してもいいのか!?」
トニーの背に剣先を触れさせる。
「じゃあ私を今すぐ殺せばいいでしょう!?」
「それじゃ気が収まらないんだよ!!
フランの目の前で殺してやる。
さっさと来い!!」
私はゆっくり立ち上がり二人の方へ歩き出す。
「炎の魔力を使えるようになった時はもう無理かと思ったが、今なら簡単に殺せそうだな」
モネが面白そうに笑っている。
モネの言うとおりだ。
今の私にこの人を倒せる力はないだろう。
ついて行けば最後にフランに会えるのかな。
そしてそのまま殺されるのか……
「メアリー……行くな……」
トニーが声を絞り出す。
「うるさいって言ってんだろ!」
モネがそう言いながらトニーの左腕に剣を振り下ろした。斬られた場所にじわっと血が滲み出る。
「トニー!!」
駆け寄り傷口を見る。
血は出ているが傷はさほど深くない。
わざとだ。ここでトニーが死んでしまえば私が従わなくなることをわかっている。
だから敢えて致命傷にならない程度に……
「トニー、ごめんね。
私のせいでこんな目に……」
こんなことなら真っ直ぐ帰れば良かった。
私の我儘でトニーまで苦しい目に……
「ほらさっさと立て。歩け」
モネに言われたとおりトニーに背を向け歩き出した。
「メアリー……行かないでくれ……」
背をトニーの声が追いかけてくる。
駄目だ。振り返れない。
「本当にごめんね……最後まで迷惑かけてばっかりだったね」
聞こえたかわからないが、振り向かず呟いた。
「頼むよ……」
トニーの声が風の音と共に消えていく。
この街で私が知っている場所なんてたかが知れている。一緒に行動していたミアならこの場所に気付いてくれるかもしれない。
下山している途中で視界が揺らぎ立っていられなくなる。その場に倒れ込んだ。
モネが何か言っているが、言葉が音にしか聞こえない。
もういい。もうこのまま深い眠りにつきたい。
嫌なこと苦しいこと全部忘れたいよ……




