捜索
もう一度、昨夜の場所へ行ってみた。
明るくなると周りがよく見える。
まだ片付けられていないので昨日の状態のままがそこにあった。
野獣の長く茶色い毛、喰われた羊の残骸、
血溜まり……
アーシュが斬った方は太陽の光で消され、灰が残るのみ。
私の方は炎で燃えた分は骨になっていた。骨になれば太陽の光を浴びても消えないのか。
消えたことで救われた部分は大きい。
昨日の亡くなった子供の亡骸がそこにあれば、住民たちが大騒ぎするし、子供だったと言ったところで信じてもらえる保証もない。
そして一番見たかったのは三匹目の……
「あった!」
背を低くし、地面をよく見ると昨日トニーに斬られた三匹目の血の跡があった。
この跡を追って行けば何かわかるかもしれない。
この街の人に気づかれる前に動かなければ。
全員で動くと目立つし、私たちがいないところで何か騒ぎが起こっても気付くことが出来ない。
誰かがこの血の跡を追ってこないとも言えない。
なので私とトニーで捜索に向かうことにした。
昨夜は一対一でもこちらが有利に戦えた。
だから二人で行けば勝てるだろう。
いや……勝つ必要があるのか……?
あの子たちは私たちと戦おうとした?
森の中へ入ると土や葉に混じり、また徐々に落ちている血の量も減っているので後を追うのが困難になってくる。
あまり深く入ってしまうと迷って森から出られなくなるので、木々に印をつけながら先へ進んだ。
野獣になっても意識は保てていたのだろうか。
森の中は案外音がしていて、鳥の声や風に揺れる木々のひしめく音、私たちが動けば動くほど枯れ葉の崩れる音もする。
時折、ガサガサと草むらから音がして思わず警戒するが、小さなトカゲがいたり、小鳥がいたりするだけだった。
夕暮れまでには帰らなければ、印をつけていても遭難する確率が上がる。
自然と足早になっていく。
トニーが私の前に立ち先に進んで行くので、遅れを取らないよう必死に後を追う。
私がトニーを選んだのも理由がある。
アーシュは顔には出さないが、子供を斬ってしまったことを悔いており精神状態が不安定になりつつあった。
私も同じだからわかる。
そんな二人が一緒にいては不安定さに拍車をかけてしまうことだろう。それでは何か起きた時に対処出来ない。
トニーはいつも冷静に対応出来るので、共に行動しそばにいた方がいいと思った。
「あれかな……」
トニーの足が止まったので、横から同じように先を見る。
山の一角に穴が掘られており、その穴は人が余裕で通ることが出来る大きさだ。
ここまでで会わなかったということは、そこにいる可能性が高い。
トニーが剣を構えその穴へ近付く準備をする。
私も昨夜と同じように炎の剣を出そうとする。
だが……
「出ない……」
トニーが剣を持ったまま振り返る。
「出ない? あの石を持ってきたのか?」
「ううん、持ってきてない……」
出そうとすると、昨夜のことが鮮明に思い出される。
私が斬った後に出てきたのは幼い男の子だった。
どうしてもその子の顔が浮かんでしまう。
「出ない出ない!!」
どんなに力を込めようと何も起きない。両手共に。
あんなに簡単に出せるようになっていたのに!
「もういい!」
トニーが大きめの声を上げたのでビクッとしてしまう。
顔を上げると、やるせない表情でこちらを見るトニーと目が合う。
「……もう無理しなくていいから。
俺の後ろにいろよ……」
力なくそう言うと、背を向けて歩みを進め始めた。
穴の中は薄暗く、水分量が多いのか湿っており、空気がじめっとしている。
入って数歩で一番奥に黒い影が見えた。
大きさは昨日の野獣と同じくらい。
動く気配がないので息を殺し近付いて行く。
距離が縮むにつれ、その様子が明らかになってくる。
うっすら木々から漏れてくる陽の光だけが頼りだ。
そこには半分子供、半分野獣の生き物の息絶えた姿があった。
見るからに死後数時間は経っているようだ。
身体はもう冷え切っており、人の体温とはほど遠い。
トニーに斬られた部分の周囲は子供の姿、他は野獣のまま。ここは陽の光が入らないので灰にならずこの状態を保っていたのだろう。
この子供をここで埋葬することにした。
その穴に土を入れれば簡単な墓になる。
私もトニーも何も言わず黙々と土を穴に埋めていった。
手も服も泥だらけ、体力も尽きそうだ。
重たくなった体を引きずりながらまた森を歩き始めた。
「抱えようか?」
私がよほど疲れていると思ったのか、
トニーが声を掛けてくれたが断った。
自分の足で歩かねば意味がない気がする。
森を抜ける際にふと気付く。
ここの道は通ったことがある。
先日来た、街が見通せる丘が近くにある。
「私、寄りたい所があるから先に帰ってて」
「は!? こんな所に置いていける訳ないだろ!?」
トニーが心配を越え怒りを帯びた声を出した。
「お願い。今は一人になりたい。
その丘に行って帰って来るから。
もし、私が戻って来なかったら迎えに来て。
そこにいるから」
私があまりに必死に言ったためか、渋々承諾してくれた。
「暗くなる前に迎えに来るからな」




