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看護師が異世界の令嬢に転生しスキルを使って無双する話だったハズなのに!?  作者: VANRI


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野獣

「まさか……そんな……」

ミアが動揺し狼狽えている。


 私も足の力が抜け、その場に座り込んでしまう。

このままでは……

「ミア! 水の魔力で火を消して!」


 その言葉にハッとしたミアは水を自分の手から出し始める。


 トリーとアーシュを振り返り精一杯の大声を上げた。

「殺しては駄目!! 殺さないで!!」



 ……ああ、間に合わなかった。

アーシュはちょうど斬り終え、野獣が倒れ込む瞬間だった。

 トニーの方は私の声に反応し、剣の先端がズレたようだ。その野獣は即死にはならなかったが、重傷は負わされている。刺された肩を押さえながらではあるが、背を向けて逃げ出した。


 それに続こうとトニーが走り出そうとするので声を上げる。

「追いかけなくていい!」


 野獣の姿はあっという間に森の中へ溶け込んだ。


「なんだよ、どういうことだよ……」

トニーは剣を納めながら困惑を表し近付いてくる。


 アーシュは私が言ったことの意味を察し、

自分が斬った野獣を見て呆然と立ち尽くしている。


 私は最初に斬った野獣へ近付く。

「助からなかったのね……」


 ミアの魔力では私の魔力が抑えきれないことはわかっていた。だが何もせずにはいられなかった。

 炎に焼き尽くされた野獣は一部骨になっているが大部分は灰になっている。


「やっぱりお前の力は相当だな……」

 トニーはそれを見て野獣のことではなく、私の魔力に対して驚きを表している。


 アーシュの所へ行かないと!!

「アーシュ!!」

声を掛けながら急いで駆け寄る。

アーシュは、ただただ野獣を見つめている。


「メアリー……」

やっと野獣から目を離し、救いを乞うような瞳で私の方を見た。


 斬った野獣がいるはずの場所には10歳にも満たないであろう幼い女の子が横たわっていた。

 もう息はしていない。


「どういうことだよこれは……

俺は……この子供を殺した……のか…?」


「私が斬った野獣も一瞬子供の姿に変わって……

もう燃え尽きてしまったけど……」


 アーシュが地べたに剣を落とし膝をついた。

「なんなんだよこれは……」



 朝日が昇り、明るさが差し始める頃には、少女の身体は一気に灰へと変わっていった。

鼻をツンと刺す匂いと共に。



――――――



 部屋に戻りこれまでの情報を整理することにした。


「全てが幻覚の可能性はありますか?」

ミアが問うことに対しトニーが口を開く。

「それはないと思う。

刺した感触が子供の皮膚とは思えない硬さだったし、獣の毛も地べたに落ちていた。羊の身体にも獣の爪の跡がしっかりついていた」


「野獣に姿を変えられる種族か、それとも他の何か……」

トニーが呟くように言った。


 私はまだ鼓動が落ち着かず、きちんと皆の言葉に耳を傾けることができない。

アーシュも同じだろうか。その表情からは何も読み取れない。


「子供か……」

トニーの言葉に今までの情報や出来事が思い出される。


「野獣ではなく、子供がやっていたことだとしたら辻褄が合うような気が……」

思わず口に出してまう。


 私たちに見つかったのが子供だとしたら、一目散に逃げ出したことも頷ける。

結局私たちから攻撃しただけであって、向こうからはなかった。だから私たちは無傷なのだ。


 怒られた子供はそうするのではないか。

大人に向かって殴りに来ることはないだろう。

怯え逃げるのではないか。


 家畜を食べるのも空腹に耐え切れずだったとしたら。

 陽の光に弱いのであれば、周りが把握しやすい満月の夜に活動していたのもわかる。


 一匹ではなく複数匹で行動していたのも、幼い子供が一人では怖かったからと考えれば不思議ではない。



 しばしの沈黙が流れることで、皆がそれぞれ考えているのだということがわかった。


 窓の外に目をやると、いつの間にか太陽の光で辺りは包まれていた。

 あの惨劇が嘘のように思える。

夢だったのではないかと。

むしろ夢であれば良かったのに。




 その時、部屋の戸が大きく開けられた。

「ありがとうございます!!」

化け物の話をした年配の男性と、子供を抱いていた母親だ。


「退治してくれたんですよね!?

朝から羊を見に行ったら、一匹だけ殺されていたけど他は無事で、獣のものと思われる骨や灰があったもので驚いてこちらへ参りました!」

年配の男性が興奮気味に私たちに話しかけてくる。


 トニーが笑顔で対応してくれている。

「やれるだけのことはやってみました。

まだ一匹残っているのですが重傷は負わせています」


「そうですか! そうですか!

倒せることがわかっただけでもありがたいのに、

二匹も退治していただいてありがとうございました!」

トニーの手を取り握手をしている。

よほど、この野獣の存在に怯えていたのだろう。


 私たち一人一人に丁寧にお礼を言って出て行った。




 そうだ。終わりではない。

まだ終わってない。











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