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「……で? 何?
俺たちはお前の恋バナ聞かされた感じ?」
トニーの声から静かな苛立ちを感じる。
「違うって!! だから!
国の入口がわかったって言ってんの!」
「ああ、そこか言いたかったの」
「だいたい恋とかじゃないって!
そんなんじゃなく、もっと大きな……」
「はいはい、もうやめて」
アーシュに制止され、そのまま肩に手を置かれ耳元で囁かれる。
「お前、無意識にトニーを痛めつけてるのいい加減気付けよ」
「え? 何が? どういうこと?」
不思議そうな顔でアーシュを見ていたようだ。
アーシュが呆れ顔をして、わざと大きな溜め息をついてみせる。
「俺たちの方はちゃんと収穫があったんだ」
アーシュが皆を振り向きながら話を始める。
飲み屋の女の子から聞いた情報は、化け物のことだったらしい。
化け物は満月の夜は必ずといっていいほど現れる。
逆に月が出ない日は現れない。
月明かりがないと動きにくいのかもしれない。
ということは、鼻があまり利かない?
夜行性ではない?
化け物は一匹ではなく複数で現れる。
家畜の場所を覚えているようで、一直線にそこに現れ、短時間で食べすぐに森へ戻って行くと。
知能があるのか? 場所だけでなく道も覚えているということか?
そこまで話すとアーシュは深呼吸を一つした。
「そして、今日はその満月だ」
空気が一瞬で変わる。緊張が走る。
今日は当番制にせず、皆で起きて見張ることにした。
電気を消し息を潜める。
宿屋の横の広場に、敢えて羊を数匹放してもらうことが出来た。
うまくここに来てくれればいいのだが。
話では毎回一箇所だけしか襲われないようだ。
もし仕留め損なっても、その巣がわかれば何とかなるかもしれない。
陽が落ちてだいぶ時間が経ったと思う。
風が窓ガラスをガタガタ揺らす。
皆、眠くならないようにぽつりぽつり会話するが、
気が張り詰めているのもあり大して続かない。
ウトウトし始めた時、風の音に混じり明らかに違う音が聞こえてきた。
慌てて窓際へ走り下を見下ろす。
「どうした!?」
トニーが即座に私の横に来る。
それに続き、他の者も窓際に集まってきた。
「いるな……」
アーシュが何かに気付いた。
「森の近くの木に混じっている」
とその時、
「グォオオオ……!」
と聞いたことのない声が聞こえる。
動物の鳴き声とは全く違う、叫び声のような音に一瞬たじろぐ。
それを見透かしたかのようにトニーに言われる。
「お前は行かなくていい」
アーシュも続ける。
「そうだな、王女に何かあった方が大変だ」
「いや行くよ!
何が起こっているかこの目で確かめたい!」
人は多いに越したことはない。何が起こったとしても。
―――だが私はこの時の判断を死ぬまで後悔し続けることになる―――
私たちは、静かに外に出て木陰に息を潜める。
私の炎の剣は目立つため使う時にしか出せない。
ミア以外は剣を構え戦闘態勢をとっている。
森の木々の合間から、ぬっと影が三つ現れた。
月明かりがその姿を照らす。
人間より一回り身体が大きく、全身毛で覆われている。腕が四本もあり、手にも足も長い爪。
大きく開けた口からは鋭い牙が見えている。
辺りを見回し獲物を探している様子。
低い唸り声をあげながら羊のいる広場に入って行く。
トニーとアーシュが駆けて行くので離されないよう後を追いかける。
羊の大きな鳴き声が聞こえたので、そのままの勢いで広場の中へ入って行った。
羊一匹が三匹の化け物にむさぼり食われている。噛みちぎる度に血が飛び散っているので辺りが一瞬で生臭くなった。
残りの羊たちは怯え、広場の端のほうへと逃げ出している。
化物というより野獣という言葉の方がしっくりくる気がする。
トニーとアーシュが剣を構え斬りかかる体勢に入る。
野獣たちは一心不乱に羊を食しているため近づくまで私たちに気づかなかった。
不意に一匹がこちらを見て短い唸り声をあげた。それを聞いて他の二匹も気付く。
私も炎の剣を出し構える。
トニーが一匹に照準を合わせた。
野獣に向けて得意の突きで剣を素早く押し出した。
確実に野獣の右肩に刺さった。
だが、野獣の皮膚が硬いようであまりダメージはないように見える。野獣の体勢が変わらない。
それどころか、手にある長い爪で自分に刺さった剣を掴んだ。
これでトニーは動けない状態になった。
他の二匹も動き出す。
一匹はアーシュが剣を構えたため足止め出来たが、もう一匹が私の方へとやって来た。
二本足で走らず、猿のように四足歩行で走ってくる。
炎の剣を構えるが、ふと剣ではなく炎の柱の方がいいのではないかと思ったが、もう冷静に考える暇もない。
野獣との距離が触れることが出来るまで近付いたと思ったら、私の横をすり抜けて行った。
何が起こったかわからず野獣を振り返ると、その先にミアと御者の姿があった。
一人より二人食べる方を選んだということか!?
御者が剣を構えてくれたので野獣が足を止めた。
その隙に背後から剣を振りかざし、野獣の背後に振り下ろす。
野獣が大きな音を立てて倒れ込んだので三人で近付いた。炎の剣で焼かれればその身体を焼き尽くすまで炎は消えない。これで確実に仕留めることが出来る。
だが、駆け寄った私たちは言葉を失った。




