飲み屋
すぐに奥の部屋から女の子だけ出て来た。
俺の元へやってきたかと思えば、耳元に口を近づける。
「アーシュさんが、長くなるから先に帰っていいって言われています」
と、小声で囁かれた。
「ああ、わかった……」
その子は軽く会釈をして、足早に部屋に戻って行った。
「お兄さんはどうする?」
両脇の女性たちが笑顔を絶やさず話し始める。
「お酒飲む?」
「それとも楽しいことする?」
「帰るよ……」
ゆっくり立ち上がろうとすると、二人に両腕を掴まえられる。
「なんで〜! いいじゃないまだ〜」
「私たちじゃダメってこと〜?」
二人の機嫌があっという間に悪くなる。
「いや……そういうわけじゃ……」
酒は何かあった時に対処できなくなりそうなのでさすがに飲めないが……
俺だって性欲ぐらいあるし、抱こうと思えば抱けるだろう。
……が、そんな気分になれない。
この娘たちが気に入らないとかそれ以前の話。
でもこれでは明らかに相手に失礼にあたるよな……
二人の手を優しく離し、二人の方を向きひざまずいた。そして両方の手をとって精一杯の笑顔を見せる。
「申し訳ありません。私は美しすぎる女性とは接し慣れておりません。
今日はこうやってお二人に出会えたことで胸がいっぱいです。心の高まりを自分で抑えることができない故、また後日落ち着いてから会いに来てもよろしいでしょうか?」
明らかに臭いセリフだが、二人は頬を赤らめて目が泳いでいるので大丈夫だろう。
マダムに目をやると全て察しているようで「ほう」と呟いているのがわかった。
それからは引き止められることなく店を出ることができた。
店内が暗かったためか、太陽の光が眩しすぎる。
目を開けるのもやっとだ。目が痛い。
さっき通った道を思い出しながら、なんとか細い路地を抜け大きい通りに出た。
もう宿に帰って寝よう。今夜も交代で起きないといけないし、化け物が出たら寝ることなく闘わなければならないだろう。
部屋に戻ってみると誰もいなかった。
食べ物が置いてあったのを見て、朝から何も食べてなかったことに気づく。今は昼ぐらいだろうか?
とりあえず適当に食べて横になった。
――――――
物音がしたので目を開けると、ちょうどメアリーたちが帰って来たところだった。
「あれ? トニー帰ってたんだ〜」
「うん、もう昼から寝てた……」
身体を起こしながら答える。
部屋がオレンジに染まり始めていて夕暮れ時だとひと目でわかった。
「じゃあ体力満タンですね」
とミアが笑う。
「ただいま〜」
アーシュも部屋へ入って来る。
寝てた俺より、外に出てたみんなの方が元気そうなのがちょっと悔しい。
アーシュが俺の横に腰を下ろし、皆に聞こえない位の小声で言う。
「すぐ帰った?」
「ああ。お前ってああいう娘がタイプなんだな」
「え? いや俺タイプとかないんだよね、
今日は話したかったからあの娘選んだけど、
騒ぎたい時は派手な娘と遊んだりするし」
「え? 今日は話しただけ?」
「うん。この街の情報収集したくて。
二人っきりじゃないと、なかなか深いとこまで聞けないんだよな〜。
……え? 俺が抱いたとでも思った?」
驚きと笑いの混じった表情を見せられる。
「いや……あの状況じゃそうとしか思えないだろ……!?」
「ハハ……俺は俺のこと好きって言う子しか抱かないって。だいたい金払って寝ないといけないほど飢えたことないし。今日は膝枕してもらって寝たぐらい。
良く寝れたよ〜」
「なんだよ〜言ってくれれば良かったのに……」
「言えないだろ〜。周りの娘に聞かれたら警戒されるし、あのマダムは意外と俺たちのこと見てたし〜」
小声のまま続ける。
「あの娘から情報引き出せなかったら、トニーに別の子あたってもらおうと思ったけど、大丈夫そうだったから帰ってもらったんだ。
トニーは、ああいう所あまり得意じゃなさそうだったし」
「まあ、それはそうだけど……」
「ねえねえ聞いて! 今日は収穫あったんだよ!」
メアリーが俺たちへ向けて声を発した。
「俺たちの方もちゃんと情報仕入れてきたよ!」
アーシュがすかさずそれに返す。
俺は何もしていないのに、『俺たち』と言ってくれるところに優しさを感じる。
ミアが嬉しそうにメアリーの肩に手を置く。
「メアリー様、素敵な男性と巡り合ったんですよね〜」
「ちょっと! そんなんじゃないって!」
メアリーが慌てて否定するところが現実味を帯びてくる。
「そうですか〜? 恋する乙女の瞳みたいでしたよ〜」
「ほんとにそんなんじゃないんだって〜!」
男? 何だそれ。嫌な気しかしない。
メアリーたちの方についていけば良かったかな……
詳細が気になる。
メアリーの周りにはちょこちょこ新しい男が出現する。
そのたびに俺がどんなにヤキモキしているか、
当の本人は知る由もないんだろうな。




