アーシュとトニーのお出かけ
メアリーが寝てしまったので、抱きかかえベッドへ向かう。
ちよっと痩せたか……?
以前抱きかかえた時より軽くなったような気がする。身体だけでなく、心も弱っているのではないだろうか。
あまりにも多くのことが次々に起こり過ぎた。
そのままでいる方が不自然だろう。
なのに大して弱音を吐かず、一つ一つの物事に真剣に向き合っている。
俺に何が出来るのだろうか。
「代わるよ」
アーシュの声にハッと我に返る。
ベッドに寝かせたまましばらく寝顔を見ていたようだ。
「ああ、頼む……」
次はアーシュの番なので、代わってもらい眠りについた。
アーシュに静かに起こされた時、陽が差し込んでいた。メアリーや他の者はまだ寝息をかいて寝ている。
「出かけよう!」
アーシュが小声で言いながら、満面の笑みを見せる。
明け方から全然寝てないだろうに目が爛々と輝いている。
太陽が昇っているので、化け物の心配はないと確信し部屋を出た。
――――――
通りを鼻歌を唄いながら上機嫌に歩いているアーシュ。
「どこに行くんだ?」
問いかけると笑顔を見せる。
「女の子のいるとこ〜」
「え? 女目当て?」
「だって〜ここ最近、女の子と接すること全然なかったじゃ〜ん。
お前は昨日メアリーとイチャイチャ出来たからいいだろ〜?」
「え!? あの時起きてたのか!?」
だが、見られて困ることはなかったはず……
「イチャイチャって手を繋いだぐらいだろ!」
「うん、押し倒すかな〜っ思って見てたけど、
何もしないから面白くなかった〜」
「俺が寝込みを襲うわけ……」
話し終わる前にアーシュに肩を組まれる。
「だから〜本命には無理だから他の女の子に癒されに行こ! さ! 夜のお店〜」
「え? だってまだ朝だろ?」
「化け物が出るようになってから、夜に店は開かなくなってるはずだ。
ということは……」
狭い路地裏をスルスルと歩いていく。アーシュに遅れを取らないよう急ぎ足になる。
しばらく進んだ突き当たりに小さな飲み屋があった。
戸の傷つき具合や古さから、年季が入った店だということがわかる。
「ほら、開いてるだろ!
初日にあちこちに聞き込みして良かったよ〜」
「ああ……それで必死にいろんな人に話しかけていたのか……」
「入ろ入ろ〜」
アーシュに背を押されながら戸を開けると、薄暗い店内が目に入る。正面にカウンターがあり、手前にはいくつかテーブル席がある。人の気配はない。
「おはようございまーす」
アーシュが臆することなく声を掛ける。
店内奥のカーテンから完璧に化粧をした年配の女性が顔を出した。
「あらお客さん? こんな早い時間に珍しいわね〜」
「二人入っても大丈夫ですか〜?」
こんな時はアーシュが遊び慣れているのがよくわかる。
「大丈夫よ〜。最近は夜にお客さんが来ないから朝から夕方までやってんのよ〜」
笑顔で手招きされる。
テーブル席に座るよう促され腰掛けた。
「あら? 異国の方?」
「え? わかるんですか?」
女性は俺たちを舐めるように眺めながら話す。
「服装や髪色や目の色、しぐさも……私たちと違うもの。
小さな違いかもしれないけど、たくさんの人間を見てきたからわかるのよ」
「え!? 異国の方!?」
カーテンの裏から胸のざっくり開いたドレスを着た若い女性が数人出て来た。
カールした金髪の女性が俺たち二人の間に座る。
「異国のお話聞かせて欲しいわ〜」
うっとりした表情で代わる代わる俺たちに目をやる。
「ローザずるい! 私も聞きたい!」
続いて、茶色の髪を高い位置で一つにまとめている女性が俺の隣に腰を下ろした。
もう一人の動こうとしない女性に声を掛けている。
「アンタも聞きたいでしょ、座りなよ!」
その女性の目線の先には、小柄であまり言葉を発しない女性が立ちすくんでいた。
声を掛けられたのでゆっくりこちらへ近寄ってくる。オレンジがかった茶髪で長い髪を後ろで一つにまとめている。
「俺、この娘がいい!」
アーシュがすかさず叫び、その女性へ近付いて行く。
女性は驚いた顔でアーシュを見つめている。
「マダム! 奥に部屋があるんだよね!
そこしばらく借りるよ!」
「え……! ちょっとその娘はまだ入りたてで役に立つかわかんないよ!」
アーシュはケラケラと笑っている。
「大丈夫、大丈夫〜! 俺慣れてるから〜」
言いながらその女性の手を引いて、奥へと向かう。
「あの……私でいいんですか……?」
アーシュは優しく微笑みかけると、
とろけるような声で、
「君がいいんだよ」
と、今まで何度も何度も聞いてきたセリフを
ここぞとばかりにカッコよくキメた。
こんなありきたりな言葉でも、言う奴次第でキマるものなのだと感心させられる。
あっという間に二人は奥の部屋に消えていった。
えっと……俺はどうしたら……?




