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異世界転生した看護師の規格外な冒険物語 ※なお、スキルに頼れたのは最初だけ(悲)  作者: VANRI


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闇の力

 続いて階段下で轟音がして、また煙が満ち始めていた。

 確実に何かが起こっているのだけはわかる。


 アーシュが国王と戦っているのか、一方的に攻撃されているのかわからない。



 ゼインが早口でまくし立てるように話し始める。

「魔剣で魔力は増大出来る。闇の力も増大出来るが、普段は自然とそれを抑えることが出来る。

 だが、闇の力を使ってでも殺したいと思ってしまったのならそれに呑み込まれるかもしれない」


「呑み込まれたらどうなるの……?」


 ゼインやアーサーと一緒に早足で階段下を目指す。


「俺も実際に見たことはないが、

 己を制御出来なくなって闇に堕ちてしまうと聞く」

「そんな凄い力なら、なぜこの国王はそれを使わないの?」

「そんなことすれば自我を失い己を滅ぼしかねないからだ」


「そんな……」

アーシュは、国王ですら手を出さなかった闇の力を求めてしまった故に支配されようとしているのか……


 度重なる攻撃により柱や壁にヒビが入ったり、崩れ落ち始めている。


「早くこの場から出ないと……」

周りの状況を確認しながら進んでいく。

 そのうちトニー、フラン、ミアの姿を見つける。

三人は、この崩れ落ちそうな城の状態にいち早く気付いたようで、負傷者を運び出したり城の外へ誘導している。


 良かった……無事で。

あっちは三人に任せていれば大丈夫そう。

これなら私は自分のするべきことに集中できる……


 階段下には倒れているアーシュの姿がある。

意識は失っておらず、ゆっくり立ち上がろうとしている。


 すぐ近くまで来ることが出来たのに、それ以上は近付くことが出来ない。

 アーシュの身体の周りは結界のように黒い炎で囲まれており、それに触れることが出来ないことが直感的にもわかる。



「うあああああ……!!!」

アーシュが叫び声のような雄叫びを上げると、周りを囲んでいた炎がさらに拡大し範囲が広がった。

 アーシュの身体自体もその炎で取り囲まれ、両手に持つ剣のそれも増幅した。

 黒い炎に包まれたその中心に、アーシュがいるなんて信じられなかった。


 アーシュは立ち上がったかと思うと即座に階段を駆け上がり、一瞬で国王の前に立った。

 その勢いのまま、国王の首元へ剣を挿し込んだ。


 ほんの数秒の出来事のように思えた。

首元から飛び散った血しぶきが血の雨となりアーシュに降りかかった。



 なんともあっけない最期だった。


 こんなに多くの人間の命や人生を奪ってきたというのに死ぬのは一瞬なのだ。


 そして最後に国王が笑ったように見えた。


 



 その後もアーシュは崩れ落ちた国王の身体に向かって剣を振り続けた。その度に血しぶきが軽く噴き出していた。

 そしてもう血を浴びなくなった時、アーシュの手が止まる。


 ふと横にいるゼインを見ると、私と同じようにアーシュから目を離さずにいる。


「……終わった? でもこれでアーシュの望みが叶ったのなら闇の力から解放されるんじゃない?」


 ゼインは悲しみと困惑の表情を浮かべた。

「……アーシュの闇の力が弱くなるどころか、

まだ増大している……」

「そんな……」


 アーシュは国王の亡骸を階段から蹴落とし、国王の椅子の上に立った。

 ゼインの言った通り、アーシュの周辺を取り巻く炎は益々範囲を広げている。


 更に今度は辺りに所構わず剣を振り出した。

剣を振る度に魔力で作られた黒い炎が飛んでくる。


 

「アーシュ!! もうやめて!!」

魔剣を持って階段へ走り出す。

後ろから名前を呼ばれるが、もう振り返る選択肢はない。


 もう少しで階段に届きそうな時、突風が吹いたので思わず目を閉じる。

 

 風が弱まり始めたので必死に目を開けると、

目の前にアーシュの姿があった。

 背には黒い炎から作られた翼のようなものがあり、

髪色も暗黒のような黒色を呈す。美しかった深い緑の瞳も黒く染められているようだ。だが、瞳のごく一部分に緑の部分が見える。


 まだアーシュの心が……?


 手を伸ばし触れようとすると、雑に右手に持つ長剣を振り下ろされる。

 即座に剣を構え、何とかそれを受け止めることが出来た。


「アーシュ……目を覚まして……!」

力を込めているので手が震えてくる。

魔力でその剣を押し返したいが、その場に留めるのがやっとだ。



『アーシュ? 誰だそれは』


 アーシュの口からアーシュの声と思えない低い声が聞こえる。



「アーシュ!! 私よ!! メアリーよ!!」


『わから……ない。知りたく……ない』


 アーシュの剣は弱まることなく強い力で押し返される。


『全部……消す。

 全部……なくなれば……いい

 悲しい……ことも、苦しいこと……も……


 全部全部、消えてなくなればいい……!!』



 そう言い終わるとまた、激しい雄叫びを発した。

と同時に剣の力が強くなり、ミシミシと私の剣が音を立てる。だんだんその音が大きくなり、バキッと根元から折れ、折れた刀身は私の背後へ飛ばされた。


「そんな……この剣がなくては……」

手に残された刀身のないこの剣で何が出来るというのか。

 

 アーシュは黒い炎の羽根で飛び、宙へと舞い上がった。


「アーシュ!!! 行かないで!!」

追いかけようとするとゼインに掴まえられる。


「嫌!! 離して!!

 アーシュ!! アーシュ……!!!

 アーシュまで失いたくない!!!」




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